見出し画像

帝京ちばリウマチ科Bulletin 2022.06.06-06.10

ドタバタの一週間でした。今回はEULAR2022での話題に関連したシングルトピックです。

乾癬性関節炎

皮膚科の先生方を対象とした乾癬性関節炎(関節症性乾癬)のレクチャーを行いました。

特に、EULAR2022で話題になっていたのが「体軸性乾癬性関節炎(Axial PsA)」についてですが

古典的な「強直性脊椎炎」と、「乾癬性関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患に伴う関節炎による脊椎病変」の異同は以前から問題になっていた(Helliwell PS et al. Ann Rheum Dis 1998)

やはりちょっと違うよね、ということで2016年の報告。乾癬性関節炎+脊椎病変について調べてみると、HLA-B27の有無でpresentationが異なる(Jadon DR et al. Ann Rheum Dis 2016)

強直性脊椎炎(classical AS)の立場から見直しても、HLA-B27の有無でpresentationが異なる(Cautes LC et al. Arth Care Res 2021)

ざっくりまとめるとこうなる

体軸性脊椎関節炎 vs 体軸性乾癬性関節炎

つまり、体軸性乾癬性関節炎には
1. 通常の乾癬性関節炎にclassicなHLA-B27陽性強直性脊椎炎が合併したもの
2. 乾癬性関節炎独自の脊椎炎が起きているもの
の2タイプがありそうということです。

このあたり、関節リウマチに合併するUIPパターンの間質性肺炎を想起させるところで、即ち
a. 関節リウマチにIPFが合併したと考えて差し支えないもの
b. 関節リウマチに伴う独自の〔気道病変を伴う〕間質性肺炎がUIPパターンに類似した画像を示すもの
に類似している、と言えなくもない。

かつて「血清陰性脊椎関節炎(Seronegative Spondylopathy: SNSA)」と呼ばれていたのが、ASAS criteriaの提唱があって……

ASAS criteria for classification of Axial SpA

このような臨床経過を辿ると信じられていたが……

"The Challenge of Diagnosis and Classification in Early Ankylosing Spondylitis"

そんなことないですよ、ということが明らかになったのだった。

正直なところ、日本の医師にとっては「知ってました」という話で、本邦のリウマチ科医であれば、いわゆるASにも分類できず、しかし明らかな"Bamboo spine様の変化"を認める一群の脊椎関節炎を外来で何名か診療しているものと思われる。

自験例:高齢男性、仙腸関節の変化は目立たないがBamboo spine様変化が右>左で目立つ。
乾癬の病歴・家族歴なし

弊科外来でも、数ヶ月の経過で「おしっこをするときに《censored》が見えなくなった」という急速な脊椎可動性低下を来した中年男性(HLA-B27陰性・仙腸関節MRI正常・乾癬なし)を継続的に診療していたりする。
まぁ、欧州の先生方はHLA-B27陽性の直球の強直性脊椎炎(classic AS)と戦うのがメインなので、そのような「変な脊椎関節炎」の存在が目立たなかったのではないでしょうか。

そして、体軸性乾癬性関節炎(Axial SpA)の画像的特徴として

  1. 左右非対称

  2. 骨棘の突出が目立つ

  3. 前縦靭帯に沿わない骨化がある

などが挙げられているが、それはこれまでDISHと呼ばれていたものとどのように違うのですか、という新たなdiscussion pointを生むように思う。

乾癬性関節炎もDISHもoverweightなどリスクファクターを共有しているので、厳密な鑑別は困難なのではないだろうか、治療的診断としてIL-17阻害薬を使わざるを得ないシチュエーションもあるのではないだろうか、という私見を記しておく。

エジプトのミイラはASかDISHか、はたまたAxial PsAなのか……

上掲論文で「DISHと診断された」ファラオたち。


いただいたサポートで麦茶とか飲みます。