帝京ちばリウマチ科Bulletin 2022.05.23-28
日々学ぶべきこと・感じること・考えたことは多く、しかもそのほとんどは指の隙間から流れ去ってしまう。過去1週間の出来事も脳内、各種SNS(Twitter, Facebook)、メッセンジャーアプリ(Slack)などに散逸してしまい、視界は絶えず妨げられる。
かつてはそれでも問題なかった。記銘力にそれなりの自信があることに加えて、ほんとうに必要なら何度も繰り返し学ぶだろうというスタンスで、敢えてどこかにまとめる必要はないと考えていた。
しかし、このような「日々のとめどなさ」に加えて、学ぶべきことの加速度的な増大、記銘・想起力の自覚的低下などから、不特定多数の皆さんの目に触れることを意識した、あくまでも個人的なまとめを作成しストックしていくことを試みたい。
「帝京ちばリウマチ科Bulletin」と銘打っているが、個人的な身辺雑記、Medicine-Rheumatologyに限らず学んだこと、SNSでの出来事、帝京ちばリウマチ科の宣伝的なこと、を含む。
2022.05.23(月)
通勤中に聴いていたPodcastより。
裏技英語: Let's put it on the backburner!
(プロジェクトが最早cost-effectiveではない時に、それでも熱心に取り組んでいるスタッフに対して中止を促す表現、ちょっと後回しにしよう)
backburner例文
Meanwhile stocks and the dollar have both rallied while geopolitical concerns over Ukraine have been put on the backburner.
(その間、ウクライナに対する地政学的懸念が後回しにされている間、株とドルは両方とも反発しました)
EBRheum: LoVAS trial
本邦発のAAVに対する"LoVAS trial"の紹介(上掲Podcast自体の公開は2021.11)。日本と欧米で異なるAAVの疫学(相対的にrelapseが少ないMPO-ANCA陽性MPA症例が多い)ことに注意、とコメントされていた。
夕方から神田隆先生のWeb講演会を聴講した。MSとNMOSDという「自己免疫性中枢神経疾患」を、脳血液関門(BBB, より適切にはBlood-brain interface:BBI)から説いていく、非常に高度かつクリアな講演だった。
最重要ポイント:
MS, NMOSDともBBBの破綻が特徴的
MS → 単核細胞の侵入
NMOSD → 抗GRP78抗体などの自己抗体
講演終了後にメールチェックしていると、20時34分(講演終了が20時30分)にケースレポートの採択通知が来ていた。
NMOSDについての講演を聴講した直後にNMOSDのケースレポートの採択通知が来るとは…
2022.05.24(火)
科内抄読会: N先生
IPFに対するPDE4阻害薬のTrialについて
先日米国で行われたATS 2022 International Conferenceに合わせる形でNEJMに掲載されたPDE4B阻害薬 for IPFについての論文。
IPFは希少疾患のため多数の患者を組み入れることが困難 → Bayesian Analysisを用いて過去のstudyの結果も対照群に組み入れている。
抗線維化療法(NintedanibまたはPirfenidone)はスクリーニング8週間以上前から投与量が安定していれば投与継続。
Mixed model with repeated measures(MMRM)とBayesian Analysisで解析されている。
IPFが希少疾患であることから、例によって(?)統計の手法は「複雑なことをやっているな」という印象。この論文の成果を必要とする内科医の何パーセントがこれらを理解できるのだろうか?
主要評価項目は、ベースライン時の抗線維化剤の不使用または使用状況に応じて個別に評価。一次解析は、事前データの矛盾に対して堅牢なメタ解析予測事前分布(Meta-Analytic-Predictive Priors)を用いたプラセボ群の履歴データに対するBayesian analysisに基づいて行われた。
今回の試験のデータは、反復測定による混合モデル(MMRM)を用いた制限付き最尤法(restricted maximum likelihood-based approach)で解析した。
このモデルに基づいて,BI 1015550 群とプラセボ群について、抗線維化剤の不使用または使用の有無による 12 週間の FVC のベースラインからの調整済み平均変化量(および関連する標準誤差)を算出。
次に、プラセボ群の調整済み平均値を、ニンテダニブの IPF 治療の臨床開発プログラムにおける臨床試験に基づいて導出された MAP priorと結合した。
PDE4Bは線維化抑制作用があり、それは線維芽細胞への直接作用ではなく、M2マクロファージの分化とprofibrotic cytokine(特にIL-6)の放出を減少させ、その結果、線維芽細胞の活性化とコラーゲンの放出が減少することが報告されている。
夕方にはJAK阻害薬に関連したWeb講演会を聴講した。
疑問はあるが特にコメントなし。
2022.05.25(水)
講演座長を務める
■講演Ⅱ(19:20-20:00)
座長:帝京大学ちば総合医療センター 第三内科 講師 萩野 昇
演者:守谷駅前クリニック 院長 上野 智敏 先生
演題:「~病理学的視点で考える~関節リウマチと腎合併症・CKD」
U先生講演:AAアミロイドーシスによる蛋白尿患者にTocilizumabによる治療を行い、蛋白尿が減ってきたところで腎生検を繰り返したところ、アミロイド沈着量自体に著変はなかった。それは何故か、という個人的なケースの考察から、深いところまで連れて行かれるようなスリリングな講演であった。
2022.05.26(木)
NEJMのウェブサイトを開くと、ブタ腎移植の写真が眼に飛び込んで来たのでTwitterでコメントした。
すぐさま突っ込まれた。
同号NEJMのCase RecordはFirst AuthorがDr. Fajgenbaum(ご自身がCastleman症候群に罹患しておられつつ、同疾患を専門としている血液内科医)なので若干の「出オチ」感がある。
Fajgenbaum先生の著書はこちら。
Kメディカルセンターから見学者の来訪あり。来年度の進路についてのご相談で、当院の良い点も悪い点も「ユル―いところ」だとお伝えする。どうやら来年度から来てくれそう。
スタッフに対して乾癬性関節炎についてのミニレクチャーを行う。
乾癬という皮膚疾患自体はIL-23阻害がHead-to-headでIL-17製剤、IL-12/23製剤に優越性を示しており、"Key cytokine"として位置付けられる。
一方で乾癬性関節炎がIL-23をはじめとするサイトカイン阻害薬、あるいはJAK阻害薬でも十分な効果が得られないことは非常にしばしば経験する。現在PsAに対するGolimumab(シンポニー®)とGuselkumab(トレムフィア®)の併用試験(AFFINITY trial)も進行中である。
参考のために観ていたRheumNow Live 2022のvideoに"alexithymia"という初見の単語が出てきた。
2022.05.27(金)
スタッフ(Y先生)のmini-lectureは全身性強皮症について。
SScの皮膚の治療について色々思うところはあるが、要するに「mRSSが今日的な薬剤評価に適切なツールとは言えないのではないか」という所に尽きると思う。N先生にお伺いした話だが、ブレオマイシンによる肺線維症モデルマウスはsacrificeの時期が遅くなると「線維化が一部治ってしまう」らしい。
Putamen先生(上掲Podcast "EBRheum" の先生)らのEditorialを読む。
リウマチ科の新薬(Avacopan, Voclosporine etc.)が目立つが、そもそも初期量の「プレドニゾロン換算のステロイド1mg/kg/日」って必要なのか? いや、そもそも経口ステロイドって膠原病治療に必須なの?という内容。
PEXIVAS, LoVAS, ADVOCATE, AURA, AURORAなどに言及されているけれど、RITUXILAP, RAVE, そしてGiACTA 26wkのプラセボ群など、業界は着々とその方向(ステロイドの副作用を定量化し、それを最小限にすることを新規薬剤のアウトカムの1つにする)に進んでいたわけで。
夕方から講演。四国の現地開催予定だったのが「コロナ患者数↑↑のため」リモートに。5月上旬にそのように決まったけれど、今なら問題なく現地に行けたと思う。
おのれ〔誰に対するという事もない呪詛〕。
内容は膠原病・リウマチ治療の進歩に応じた基本的診察スキルの話。
今週の引用
こういう風景は(医療の現場でも)未だにしばしば見掛ける、と思う。