「パパトージ」から連絡が入る
10月も末になると窓から入る風にもキンモクセイがわずかに薫って、私の好きな季節が来たことが分かった。
ふってわいたように始まった自宅勤務の形は、巷の感染症が収まってからも引き続いていて早2年目に入ろうとしていた。近頃は、部屋と買い物先との往復以外、特に何処へ行きたい気持ちも起こらない自分に根っからのインドア派なのだと改めて気づかされていた。そんな事情もあって、屋外に出る時間は圧倒的に減ってこの2年は特に季節感に乏しい生活を送っていたのだ。
今日も相変わらず自室で仕事をして居たのだが、合間に携帯に目をやると「パパトージ」から連絡が入っていた。
夕方、仕事終わりに折り返してみると「甘酒を売りたいねん。」と言う唐突な話だった。私が仕事柄ウェブに詳しいのを知っていて、ネットでも甘酒を売れるようにならないか、と言う相談だった。既に知り合いのケーキ屋で、試験的にだが店舗に置いてもらっていると言う。
「パパトージ」とは小学生時代からの知り合いだ。同じチームで中学までサッカーをしていた。お互い同じように年齢を重ねて今年48歳になる。私たちの付き合いは、毎年末になると彼が幹事をするサッカー部の忘年会のお呼びが少し早い10月頃になるとかかる他に、まだ子供が小さい時分には、互いの家族ぐるみで一緒に食事をしたりといった事があった。
パパトージは、二人の娘のパパであり「杜氏」だった。奈良の酒造メーカーで働いていて、日本酒造りで例年、杜氏の役を務めていた。その酒造メーカーを、この7月で辞めたと言う。自分の職人としての技術で「どぶろく」や「甘酒」を売りたいのだそうだ。
「すぐ食っていけるわけちゃうから、当分はアルバイトしながら甘酒を作る感じかなぁ。」呑気に電話口で彼が言った。