ともに歳を重ねに〜越後村上
師走を迎える頃になると、 必ず思い浮かべる街がある。
16年前、 何もかもが嫌になり、 仕事を放り出してその足で東京駅へ向かい、 目についた電車に飛び乗った。 年の瀬も押し迫りどこか慌ただしい雰囲気の車内で、 鉛色の空と荒れ狂う冬の日本海がふと心に浮かんだ。
何かに導かれるように、 羽越本線に乗り換え、 さらに北へ。
辿り着いた終着駅の名前に覚えがあった。 少し前の新幹線車内誌の記事が甦る。 ふだん大して読まない車内誌なのに、 「鮭の街」が特集されていたその記事はなぜか強烈に印象に残っていた。 その街は古くから鮭とともにあり、 鮭を余すことなく食しているという。 11月中旬から12月初旬は「鮭月」と呼ばれ、 鮭の伝統料理も百種類以上あるらしい。 降りたのは、 まさにその「鮭の街」がある駅だった。
運命を感じて案内所にかけこみ、 鮭の料理を食べたいと相談したが、 もう鮭の季節は終わったと言われてしまった。 諦めきれずにかなりの無理を言い、 やっとのことで一軒の店を紹介してもらうことができた。
その店のランチタイムはすでに過ぎていたが、 まだ若い大将は、 誰もいないカウンターに明かりを灯してくれた。 次々に供される見たこともない鮭料理の数々と、 それらの料理をさらに味わい深くしてくれる地酒。 後でわかったことだが、 当時、 大将はまだ店を継いだばかりで、 私とほぼ同い年だった。
店を出ると、 寒空に粉雪が舞っていた。 誰もいない海岸に座り、 打ち寄せる荒波を見ていたら、 来年またここに来るために頑張ろうと思えてきた。
それから毎年鮭月になると、 鮭のフルコースと地酒「大洋盛」を求めてこの店を訪れている。 カウンターに座る客は、 いつのまにか私よりも若い人が目立つようになってきた。 食べられる量もだいぶ減ってしまったが、 私の胃袋を見透かすように、 大将は料理を振る舞ってくれる。
この16年で、 料理に没頭する大将から醸し出される風格がずいぶん増した。 料理も年々進化している。 そんな大将の変化をカウンター越しに感じながら、 同時に、 自分自身の変化を見つめ直す、 年に一度の大切なひととき。
今年も、 ともに歳を重ねる楽しさを味わいに、 越後村上を目指そう。
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