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立ち稽古

本番まで二週間を切りまして、少し前から、「立ち稽古」が始まりました。
じゃあ、今までは立っていなかったのか、と言うと、そんなことはなく、そもそも立って、なんなら歩かないと、稽古場にたどり着けません。
けれど移動手段が車の方は、稽古場まで座っています。座りながらにして移動できるわけです。車って便利ですね。そんな車移動の人も、駐車場から建物に入るまでの間は、少なくとも立って、歩きます。車のまま建物に突っ込むと、アクセルとブレーキを踏み間違えた事故のようになってしまいます。つまり、座っているばかりではなく、立ったり、歩いたりもしていました。僕なんか、稽古場で寝転んで睡眠まで取ったほどです。寝不足なのです。体に良くありません。けれど「立ち稽古」はあまりしていませんでした。
「立ち稽古」という言葉をご存じない方のために説明しますと、読んで字のごとく、立ってする稽古のことです。しかし、座ってする稽古を「座り稽古」、寝転んでする稽古を「寝稽古」などと言ったりはしません。不思議なことに、立ってする稽古だけ、「立ち稽古」と名付けられています。
ある俳優が稽古中、「俺、ここで右に行こうと思う」と言ったとします。それに対し、「僕も右がいい」「じゃあ、私も右」と、みんなが追従しました。結果、舞台の左側に誰もいなくなりました。もうわかりますね? これもまた、「右稽古」ではなく、「立ち稽古」です。
「左うちわ」という言葉があります。これは、利き手ではない方の手でうちわを使うことから意味が転じ、余裕のある暮らしぶり表します。主に金銭的なそれを指すことが多いようです。左手でうちわを扇ぐような生活がしてみたいものだな、と夢想します。「立ち稽古」とは何の関係もありません。
右に行こうと、左手でうちわを扇ごうと、座ろうと、寝転ぼうと、「立ち稽古」なのです。立ち稽古とは、“台本を手放し、動きを含めて行う稽古”の総称です。

では、今までの稽古では何をしていたのかと言うと、「セリフ」を暗記していました。つまり、劇中でしゃべる言葉です。演劇の稽古は、基本的に「本読み」という、与えられたセリフを、台本を見ながらみんなで声に出して読む稽古からスタートします。これは座って行うことが多いです。それから徐々に「立ち稽古」に移行していくわけですが、大体2mmの稽古では、おそらく他団体に比べ、「立ち稽古」に移行するまでの期間が異常に長いのです。
セリフの暗記は俳優個人に任せられることが大半ですが、我々は全員で覚えます。つまり、今までずっとセリフを覚えていました。

ずーーーーーーーーーーっと、セリフを覚えていました。

僕の書くセリフは、それくらい時間を使わないと、覚えられないようです。
それくらいセリフを重視した芝居だ、とも言えます。
しかし、ついに「立ち稽古」に移行したので、覚え切るメドが立った、ということです。言わば「メド立ち稽古」です。
そろそろ「立ち稽古」に移行しないと、本番に間に合わない、とも言えます。

つまり何が言いたいのかというと、時間は有限であり、牛歩ではあるものの、本番に向けて着々と進行している、ということです。


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