サンマ
「水曜日の男」の稽古をしました。
演出助手として坂井さん(じあまり。)が参加してくれているのですが、経緯をすごく簡単に説明しますと、小倉駅前を歩いているとばったり会って「今度、公演するんですが、どうですか?」と聞いたら、「いいですね」と答えてくれたので、参加していただくことになったという次第です。
坂井さんも脚本を書くので、休憩中に本について聞かれました。
「この本、どうやって書いたんですか?」
「パソコンにキーボードで入力して書きました」
「そうじゃなくて、プロットって事前に立てるんですか?」
「立てません。ちゃんと立てても飽きちゃうんで」
「あぁ、だからこんななんですね」
「こんな?」
「いえ。この本、ジャンルで言うと、不条理ってことになると思うんですが、そういうのは意識して書いてるんですか?」
「特に意識してません。面白いと思うやりとりを突き詰めた結果こうなりました」
「ベケットって、ご存知ですか?」
「あれでしょ、待つお話書いた人でしょ?」
「そうです。ベケットって、実生活で刺されたんですよ」
「へえ」
「日常のそういう体験が元になって、ああいう不条理な作風が生まれたんじゃないかって言われてるんです」
「そうなんですね」
「藤原さんも刺されたことが?」
「ありません」
「おかしいな……」
「え、俺、恨み買ってそうですか?」
「そういう、似た体験ないですか?」
「サンマを捨てられたことならあります」
「サンマ?」
「当時付き合っていた彼女に、誕生日にサンマが食いたいってリクエストしたんです。そしたらちゃんと用意してくれたんですが、焼き上がって、さあ食べようってなった時に、ちょっとしたことで口論になって『そんなこと言うなら食べんでいい!』って、サンマ、そのまま三角コーナーに捨てられたんです」
「そのあと刺されたんですね?」
「刺されてません。何、そんなに刺されてて欲しいんですか?」
「欲しいですよ」
「残念ながら刺されてはないんですが、ただ、誕生日なのにサンマを捨てられたっていう体験が、こういう作風に結びついているのかもしれません」
「へえ」
「まあ、その時付き合っていた彼女が、今の妻なんですがね」
「きゃっ」
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大体2mm「水曜日の男」
作:藤原達郎 演出:藤本瑞樹
[日程]2021年8月28日(土)、29日(日)
[会場]枝光本町商店街アイアンシアター
http://about2mm.blog.shinobi.jp
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