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人間ドック

「水曜日の男」の稽古に行かず、人間ドックに行きました。

ドッグではありません。ドックです。ドッグじゃ犬です。人面犬みたいなことですか? 知りませんよ、俺は。いいんです、今、人面犬は。俺が受けたのは人間ドックなんですから。
毎年、職場での集団健康診断は受けているのですが、人間ドックを受けるのは初めてです。フルコースだと丸二日くらいかかるらしく、今回は半日で終わるミニ人間ドックに、妻と二人で申し込みました。

まず受付で、事前に記入した問診票を提出しました。事務員さんも俺もマスクをしているため、お互いに何を言っているのか聞き取りづらく、なんとなく「こういうニュアンスのことを言っているのかな」という感じで、はい、はいと返事をしていたら、着替えと採尿用のカップを渡され、受付が終了しました。
更衣室で着替え、トイレに行き、尿を採取しました。しかし、受付で説明を適当に聞き流していたため、採取した尿をどこへ提出すればいいのかわからず、採尿カップを持って再び受付に戻ろうとしていたら、ちょうど妻が通りかかり、「トイレの中に提出する所があったやろ。尿を持ち歩くな」と怒られました。再びトイレに戻り、よく見ると、奥に検尿用の窓口のようなものが設けられており、ガラス戸を開け、カップを置くと、さらに奥のガラス戸が開き、にゅっと手が出てきて、俺の尿が検査にまわされました。
トイレの前で妻が待っており、「あったやろ」「あったわ」みたいなやりとりをし、ことなきを得たという次第です。この時、俺は事前に採取した検便もまだ手に持っていたのですが、どうやらそれも、受付時に提出するものだったらしく、「便を持ち歩くな」と再度怒られました。

その後、身長、体重、視力の検査をしました。身長は伸びず、体重は増え、視力は落ちました。
全てがものすごくシステマチックに進行し、もちろん、運営側としては効率よく受診者をさばけるので、大変合理的な仕組みだと思うのですが、俺にとっては初めてのことばかりなので、運営側の暗黙の了解が理解できておらず、無駄に戸惑い、行動も物言いも挙動不審になりました。
途中、待ち時間があったら暇だからと思って、スマホを持ち歩いていました。実際には、効率的なシステムのおかげでほとんど待ち時間はなく、システムに馴染むことに必死な俺にスマホを触っている余裕などありませんでした。心電図や腹部のエコーなど、何度かベッドに横になる機会があり、その度に、スマホをポケットから取り出し、備え付けの棚に置きました。そして「置き忘れないように注意しないとな」と、そればかりを考えて受診していました。そしたらどこかのベッドから起きた際に、スマホは忘れずに持ったのですがスリッパを履き忘れたらしく、いつの間にか裸足で移動しており、ていうか裸足であることに違和感すら抱いておらず、看護師さんがスリッパを持って俺を追いかけて来ました。

そして本日のメインイベント、胃カメラです。俺はバリウムを飲んだことはあるけれど、胃カメラは初めてです。胃カメラには口から入れるタイプと、鼻から入れるタイプがあり、検査の精度で言うと、鼻よりも口だと聞いたので、じゃあ、と口からのタイプにしました。さらに、鎮静剤を使用するかどうかも選ぶことができました。妻は胃カメラ経験者であり、鎮静剤を使うと1時間程度の休憩が必要な上、車の運転ができないため、鎮静剤なしで口から胃カメラを通すことにしていました。俺は初めてなので、鎮静剤を使うことにしました。
まず麻酔です。ゼリー状の何かを、1分程度、口に含みました。次に喉の奥に液状の何かを噴霧されました。この時点で喉の感覚がなくなってきて、唾を飲み込むのが難しくなりました。そしてベッドに横になり、鎮静剤の点滴をし、再度液体を喉に噴霧され、マウスピースをはめ、横向きに寝かされました。胃カメラって、座ったままするものだと勝手にイメージしていたのですが、こういうスタイルなんですね、とされるがままの格好で思っていました。
そしてお医者さんが胃カメラを挿入しました。めっちゃえずきました。看護師さんが、なぜかずっと、赤ちゃんを寝かすみたいに、俺の肩の辺りをトントンしました。鎮静剤の効果がどういうものなのか、いまいちわからないのですが、最初から最後まではっきりと覚醒していました。えずきは止まることなく、「よだれって、こんなに出るんですね」っていうくらいよだれまみれになりました。看護師さんは慣れたもので、よだれを拭くような野暮な真似はせず、ひたすらに俺の肩をトントンしていました。率直に言ってしんどくて、バリウムもなかなかだが、これはバリウム以上にクるものがあるなと、早く終わることばかりを願っていました。
検査が終わり、車椅子で別のベッドに移動されました。たぶん30分~1時間くらいじっとしていました。少しうとうとしましたが、俺は横になってじっとしていると、たいていうとうとするので、それが鎮静剤の効果によるものなのかどうかはよくわかりませんでした。
帰宅途中、車の助手席で眠くなり、寝ました。運転してくれている妻に断りもなく寝るのは失礼だなと思いながら寝ました。鎮静剤の効果によるものなのかどうかはわかりませんが、一週間くらいは、何か都合の悪いことは全部、鎮静剤のせいにしようと思いました。

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大体2mm「水曜日の男」
作:藤原達郎 演出:藤本瑞樹
[日程]2021年8月28日(土)、29日(日)
[会場]枝光本町商店街アイアンシアター
http://about2mm.blog.shinobi.jp

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