街、一匹、ヴィラン(5)
逃げ出した
もう耐えられなかった
駄目だった
必死に走った変な目で見られようがどーでもよかった
自分を守るために必死だった
その時はまだ小学校にぎりぎり入れたかぐらいの年齢だった気がする
それからフラフラして
倒れた
目が覚めたら歩道にいた
知らない場所だった
身に覚えがなかった
けど自分で走ってきたんだろう
覚えてないだけで
まぁ結局生きてたんだけど
これからどーすりゃいいだろうと思った
どーしても耐えられなかったときはスーパーで万引きをしたり
趣味で野菜を育ててるやつの庭から野菜を盗ったりしていた
自販機の下をあさったり釣りが出てこないか確認した
公園に100円玉が落ちていたらそれはそれは喜んだ
落とし物の財布を自分のものにしたりした
けどバレなかったし
誰かから怒られることはなかった
殺されそうになることだってなかったから
毎日もう使われていないゴミ捨て場の横で寝ていた
これだと人目につかない
でも生きるのは大変だった
何とか働かないとそろそろ捕まってしまうような気がした
捕まったら施設に飛ばされてしまうからそれが嫌だった
正直人と暮らすなんて二度と嫌だ
独りのほうがよっぽど楽しい
けれどこんな子供雇ってくれるところは何処もない
だから諦めた
そんなことを考えたこともあった気がする
そんなこんなしていて季節が過ぎ去った
あれは冬だった
ある日俺は夢を見た
色んな人から愛される夢だ
飯だって十分にあった
これが現実だったらと眠っていても思った
皮肉な夢を見たのはこれが初めてじゃなかった
唯一いつもと違ったことは
目が覚めると
たしかにいつものゴミ捨て場だったが
何かいた
目の前に
それは人の形をしていた
真っ黒な
まるで影のような
でも鼻も口も目もついていなかった
なんというか
言葉では表せないが
とにかく”何か”がいた
そのなにかは俺に近づくなり
俺の頬を撫でた
頭も撫でた
目はないのに見つめられているような気がした
なんなんだこいつは
”からかうだけなら帰れ”
そう言い放っても返事もしなかったし
そいつがそこを離れることもなかった
でも別に怖くなかったし
居心地が悪い訳でもなかった
そいつは夜になると来た
そして目の前に我楽多とパンを置いて帰った
だから毎日毎日そのパンを少しずつ食べながらなんとか生きていた
けれど最近
いや、いつからだろうあいつを見なくなったのは
たしか自分で金が稼げるようになった時からだ
あのゴミ捨て場から離れて
そろそろ働けるだろうと思い
雇ってくれそうなところを探した
たしか中学生と世では言われるぐらいの年齢だった気がする
アルバイトをし始めた
給料がいいところでもなかったが
まぁ別に働くことが苦ではなかった
給料を貯めに貯めてようやくボロアパート一部屋買えるぐらいになり
買った
やっと寝る場所が
帰る場所ができたと喜んだ
でも今となってはこのありさまだ
大切にしようと思っていたものほどだんだんと扱いが雑になってくる
そういうもんだ
しかしあいつはいつもどこからパンをとってきていたんだろうか
昔は感じなかった疑問が急に生じる
大人になった今昔より賢くなったからかもしれないが
昔は思わなかった違和感などに今更気づく
しかし過去の話だから確かめることは不可能だ
モヤモヤする
それからというもの
別にいい家にすみたいという願望もなかったからこのボロアパートに住んでいる
俺は昔からそうだが物欲がない
あれがほしいこれがほしいなんて願望はなかった
それは言い出せなかったのが原因だったわけじゃなく
いや確かにそれも影響しているかもしれないが
ただ無くても生きていけるとどこかで思ってしまう自分がいた
例えば
便利な調理器具とか
”これがあればいつものみじん切りが楽に!”
みたいな
そういうのを見かけるたんび
楽をしたいなという気持ちは湧き上がってくるのだが
これ買わなくても別にみじん切りすればいいだけなような気がしてきて
金の無駄だと思って買わない
あとよく言われたのは
例えば
”このテストで100点取ったら○○してあげる”
みたいなもので釣ってくるタイプのやつだ
あれは俺には全く効かない
別にそれをしてもらわなくても生きていけるという思考になってしまう
よくバイト時代の時も言われたが
正直頑張ろうと思えない
どっちかというと俺は
これをやらなきゃ死ぬといわれたほうがやる気は出る
だって前者は別に今の生活と変わりなくいられるのだからそれでいいような気がする
たいして後者は死ぬので
まぁ本当に死んだらそれは犯罪だが
死ぬと思ったほうがやる気は出る
あと褒められて伸びるやつでもない
逆に脅されたり怒られたほうがやる気は出る
やっぱり嘘かもしれない
どっちでも結局やらないかもしれない
やる気が出ないのだから
後さっきの話も嘘かもしれない
結局死なないとわかっているから
やる気は出ないかもしれない
まぁこんな人間だから今は無職の無力な廃れた人間なんだ