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街、一匹、ヴィラン(4)

仲が良かった
たぶん
仲が良かったというより一方的に彼女がくっついて離れなかった
俺より年は下で
まだまだ年齢でいうと若い
あれやってこれやってとせがんできた
めんどくさいと思いつつも
わがままを聞いてあげたら
笑顔でありがとうと言ってくれたから
別に嫌な気持ちにはならなかったし
聞いてあげてしまう自分がいた
天真爛漫で純粋で明るくて
俺とは似ても似つかなかった

なぜ恋人になってくれたのかは今でもわからない
俺から告白したのではなくて
彼女から告白してきたのだ
俺のどこに惚れる要素があったのか正直謎でしかない
彼女はかわいかったし
美人だった
俺の隣にいるのがもったいなかった
ほかにいい奴がいっぱいいたはずだが
なぜか俺からくっついて離れなかった

人に愛される性格だった
歌が上手くて
音楽の才があった
自分で曲も作ってたし
ファンもそこそこにいた
でも彼女が今どこで何をしているかすら知らない
ある日突然一週間ほど前に連絡が途絶えてしまったからだ
別にもう一度会いたいとも思わなかった
でも生きているんだろうか
それだけが疑問だった
多分生きていると思うのだが
そうだと思いたいが
なぜか思ってしまう自分がいた
こんな自分とは違って
きっと忙しく充実した毎日を送っているはずだと思うことにしておく
ただの妄想なんだけどな
そんな都合のいい妄想ばかりしてしまう

やることもなく時間が腐るほどあるから
何かやろうと思ったことだってあるが
どーせ続かないと思い考えるのをやめた
働いていたけどもそんな優秀でもなかったし
サッと自分の分を済ませて帰るやつだったから人との面識だってさほどない
昔から習い事なんてしたことがなかったし
人とうまくやってきた記憶がない
ってか人と仲良くできない
まぁそんなもんだろうって思ってるし
別に仲良くしたい願望だってなかったわけだから
独りでいれて快適だ

したいことなんて子供のころは有り余っていたはずだが
そんなことを親に言えるはずもなく
毎日怒鳴り声と舌打ちと溜息が聞こえてきて
夜すら眠れなかった
どうして自分はこんな環境に生まれてしまったんだろうと神を恨んだことだってあった

きっと”普通”に生まれていたら
毎日親からの愛情をもらって育っていくんだろうなと想像して
ってかそれが普通なのかすらもわからないが
母から怒鳴られ現実に戻ったことだってたくさんあった
現実に戻ったとたん虚しくなる
悲しくなる
あぁやっぱりこっちが現実なんだって
一生夢にいさせてくれよって
夢は見ちゃダメなのかよって
もう逃げ出したほうがよっぽどマシだって
思ったことだって少なくないし
子供の頃はただひたすらに
親の仲が良くなってほしいと毎日祈っていた
自分の想像が一日でも一秒でも早く叶うことを願った

家族みんなで遊びに行ったという同級生ぐらいの子供の楽しそうな笑い声が聞こえてきて
夜まで泣きわめいて叱られた

どうして周りと自分は違うんだろうと
毎日必死に考えた
でもその疑問は埋まらなかった
答えがわからなかった
いや、分かったような気がしたけど
分かりたくなかったからなかったことにしたのほうが正しいだろう

死んだら怒られるだろうかと思った
でも死んだところで楽になるんだろうか
死のうとして死ねなかった時のことが怖くて仕方なかった
きっと怒られる
殴られる
罵声を浴びせられて
”なんでしぶとく生きてるんだよ”って
”死ぬならちゃんと死ねよ”って”
”お前がいたら迷惑なんだよ”
”金もかかるし
近所をふらつくし
それでアタシが何回怒られたか
何度人に嫌味を言われたか”
”お前がいていいことなんて一つもないんだよ”
”飯が欲しい?
”お前にやる飯はねぇよ”
ってまた言われる

脳裏に焼き付いて離れない言葉の数々
今でも眠ったら夢に出てくる
そして冷や汗をかいて起きるという始末だ
だから寝るのが嫌いなんだ
意識を失うのもまるで死んでしまうのではないかって思って仕方なかった
だって明日死んでしまうかもしれない
今目をつぶってもう2度と目を覚まさなかったら?

死ぬ時のことを考えただけで怖くて怖くて
仕方なくって
だから試せなかった
俺にそんな選択肢はなかった

父も同じような人だった
母より力が強かったから母より怖かった
だから子供のころはアザだらけだったと思う

服もいつも同じ
灰色のダボダボなTシャツ
黒のズボン
伸びっぱなしの髪の毛に
死んだ魚のような目
清楚感のカケラもなかった
そんな毎日が続いて
父に殴られ血が出てきて
どうすればいいかわからず放置した
おかげでその痕は今も残っている
ホントやめてくれよなぁ
だから次殴られるのが怖かった
日に日に増えていくアザを見てその時の記憶が蘇る
罵声を浴びせられるのは怖かった

怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて
怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて

こんにちは!raraです!
今回は普段より少し長く切り取りました!
1から読んでくださっている方はもしかしたら
ん?ってなった部分があるかもしれません
あなたのん?は間違ってませんよ
以上raraでしたー!また次回!