
街、一匹、ヴィラン(全文)
何もない人生
そんなのちっとも面白くないじゃないか
だから俺は考えた
サイコーに面白いことをしてやろうと
道行く人々と目が合うことはきっとない
なぜなら俺は深々とフードをかぶっているからだ
黒いパーカーに
黒のズボン
目の下まで深々と下げたフードに
伸ばしっぱなしの髪
ポケットに手を突っ込んで
ずっと地面を見て歩く
だからみんな俺のことを指さして
”変な男”
”怪しい男”と笑いながら言う
別に何と思われたってかまわない
変な男だろうが
怪しい男だろうが
全力で演じ切って見せる
俺は明日の夜
お前らの記憶にこびり付く
サイコーな男になるんだから
きっと報道ニュースにも取り上げられて
記者もたくさん取材して
ニュース速報なんかにも乗ってしまうだろう
どうしよう
とても楽しみになってきた
”この世の中はどうあがいても駄目だ”
そう改めて思った
結局みんな何も真剣に考えていない
総理大臣になるといって
演説をして
”この国をもっといい国に!”って言ってるけど
結局今までなってきたやつで
本気で世の中をどうにかしなければと真剣に悩んでいる奴はいなかった
結局、金目当てだ
こんなんだから駄目なんだよと
朝の報道ニュースを見て思う
どうやら新しい総理大臣が決まったらしい
どーせ次もろくな奴でもないんだろうもうこの世界は救いようがない
今更真剣に悩んだところで何も変わらない
これから先どれだけの天才が現れてももう手遅れだ
そうバカらしくなってテレビを消した
散らかった部屋は
綺麗だったあのころの面影が全く残っていない状況だった
床に乱雑に捨てられた新聞紙
びりびりに破られた選挙戦のチラシ
食べかけのカップラーメンがキッチンに置きっぱなしだった
俺は一人暮らしだ
家族も何もない
ただクソ狭いアパートの一部屋に
ただ独りで住んでいる
めったに外に出ることはないし
常に部屋は真っ暗で
電気もつけずカーテンを隙間なく締め
日光をさえぎっていた
そんな部屋の中特にやることもなく
暇を持て余していた
何も考えられないほど頭が動かない
頭痛がするまっすぐ歩けない
まるでずっと夢の中を泳いでいるようだ
ちょっと前まで働いていたけど
やる気がなくてやめた
ってかもうなんのために働いてるかわからなくて
でももうちょっと働いとけばよかったなと思う
そしたらもうちょっと金の貯えがあったはず
まぁ仕方ない別にいいもういらない
昼か夜かもわからない日々で
眠れない日々が続いていた
寝たいが寝付けないし
目が冴えているから全然眠たくないのだが
ずっと寝ないままだと体に支障が出ることに気づき
最近は寝ようとしている
しかしだいぶ寝てないせいか全く眠くならなかった
というか昔からなんだ
昔から少し眠るという行為に怖いという感情を覚える
だって寝たら明日が来るじゃないか
嫌でも
明日嫌なことがある人かなら余計な
寝てる間は意識がないわけだし
気づけば朝になってるじゃないか
それが怖い
寝るより寝ない方が意識的に朝が来るのは遅いし
正直寝てる時間さえ無駄に感じていた
もう寝たら一生起きたくないというのが本音かもしれない
いやそれはそれで怖い
というか意識を失うという部分に恐怖を感じているのかもしれない
本当に怖い
寝なきゃそれまで意識があるわけだから何か考えられるだろ
でも解決策すら考えさせてくれないんだよ
怖いだから寝るのは少し嫌だ
そして寝る直前になると急に
嫌なことを思い出すだから嫌だ
嫌なことを考えながら寝たくない
ってか眠れない
だから嫌だ
腹が減ったらカップラーメンを食うが
ストックがなくなったら
買いに行かないと飯がないから
その時だけ外に出る
外の騒がしさと日差しにめまいがした
日光を見ると目が急激に痛くなる
ずっと引きこもっているせいだろう
このままじゃだめだという自覚はあったが
今ではもう何も感じなくなってしまった
久しぶりに外に出ると
どうやら外が騒がしい
何があったんだと思い
人々の視線の先にある
街の大きなスクリーンを見てみる
どうやら売れていた歌手が死んだらしい
一週間ほど前に
若い女の歌手だ
『歌姫 逝去』と大きな文字で書かれている
みんな立ち止まってそのスクリーンを見る
その場で泣き崩れるやつもいれば
発狂する奴なんかもいた
相当この歌手が好きだったんだろう
まぁしかし人一人死んだぐらいで
こんなことになるのかと思ってしまった
正直俺には理解できない
人の死というのは必然だ
生きていたら必ず死ぬ
毎日何人もの人間が死んでいるというのに
なぜこんなに一人の人間の死を嘆くのだろう
別におかしいことでも何でもない
俺は人ごみを搔き分け足早やに飯を買いに行く
戻って来た頃には更に人ごみは増えていた
そんなに売れていたのかと少し感心してしまう
しかし世の中の残酷さというものがうかがえる
著名人が死んだらみんなが嘆き悲しみ
ニュースにもなり
死んだだけで大騒ぎなのにも関わらず
ごく普通の人間が死んだら
騒ぎにもニュースにもならず
悲しむのは身内だけだ
この歌手が死んだ日だって
こいつ以外にも何人も死んでいるはずなのに
少し有名なだけでこの扱いだ
どーせ誰が死んだって紙切れ一枚なのに
なんて世の中なんだろう
でもだからといって今日死んだ人たちといって一人ずつ発表されても困る
ちょっと話が矛盾していたかもしれないと
我ながらに思う
頭痛がする
100%あの人混みと騒がしさのせいだろう
家に帰ってきて
買ってきたストックをキッチンに乱雑に置く
腹が減ったら食べるだけだしそれでいいだろう
あまりにも多かった人混みが脳裏をよぎり
今はどうなっているだろうと少し思ってしまった
玄関を出てアパートの廊下から人混みを観察する
さっきとそれほど人の数は変わらなかった
やっぱりこういうのは高みの見物が一番だ
あそこにいる間暑苦しくて騒がしくて仕方なかった
しばらくするとなぜか殴り合いが起きていた
なんだなんだと思って
よく見てみると
あの歌手のファンとアンチがけんかしているらしい
たぶんなにかアンチが言ったんだろう
それでファンが怒りこうなったんだろう
そうとしか思えない
たとえそうじゃなかったとしても
そうだとしても
しょうもないとしか思えなかったが
まぁよくこんなにも一人の人間に執着できるものだなと思った
殴り合いがヒートアップしていき
警察が止めに入るほどだった
当の本人はもう死んでいるのに
何をそこまで争わなくてはならないのか謎で仕方なかった
今ではアンチなんて珍しいものでも何でもない
よくネットで見かけるものだ
正直言ってアンチの言ってることは図星なことも少なくはない
だから余計ダメージなんだろう
見なきゃいいのに
傷つくとわかっているならなぜ見るのか
よくわからない
そんな図星なことを言っているアンチに対して
ファンは偶像を求めすぎる癖があるため
”そんなことない!”
”そんなことするはずない”と反論する
きっと自分の中のイメージというものを潰したくないのだろう
例えば
キラキラ輝いているあの子の眩しい笑顔は全部
嘘笑いだとか
何言っても天然で通じないおバカキャラが
実はめちゃくちゃ病んでるとか
実はアイドルにこどもがいるとか
恋人できないと言っていた著名人
実は恋人と同居してたとか
ファンからしたらどれも目をそむけたくなるものばかりだ
だから反撃する
そうであってほしくないと祈るから
自分を納得させるため
そこで衝突が起こるのだ
両者一歩も引かないこともあり
この戦いは終わらない
そうえば一人の人間に執着するといえば
昔”生田川伝説”という物語があったらしい
ある女が
身分も容姿も年齢も愛の程度もすべてにおいて全く同じ二人の男に求婚されるという話だ
結局女はどちらを選ぶか決められず川に身を投げ死んだのだが
求婚してきた男たちもよっぽどその女が好きだったんだろう
女の足と手を掴み
一緒に川に身を投げ死んだのだそう
男たちのせいで悩み苦しみ挙句に川に身を投げたというのに
男たちと同じところ、同じ時間に死に
そして墓すら隣なのだ
死んでもなお解放されない女には何とも言えない同情が湧き上がってくる
しかもその身を投げた川の名前が”生田川”なんて
なんて皮肉な話なんだろう
と思ったような節がある
今でもこの男たちの気持ちがわからないままである
いろいろ考えたせいか久しぶりに眠たくなってきた
よし、やっと寝れると思い床に寝転がる
でも怖かった
だからまだ起きていようとしたけどもう瞼が言う事を聞かなさそうだ
気づいたら4:00になっていた
どうやら日付が変わっているようだ
フローリングで寝た代償で体が痛いが
こんなに長く寝たのはいつぶりだっただろう
ふとテレビをつけてみると
あの歌手のニュースでいっぱいだった
まぁなんとなく予想はついていたが
まさかこんなにもこの話題でいっぱいになるとは思わなかった
どうやら自宅に包丁を持った熱狂的なストーカーが押しかけて
胸元を刺されて死んだらしい
まぁ著名人にはよくある話だろう
仕方ない
誰かに恨まれたり妬まれたりすることは必然だ
そのリスクを抱えて生きていかなければいけない使命なのだ
しかもあの騒ぎと人の数から相当売れていたんだろう
誰かの恨みを買うのもおかしくない話だ
まぁしかし若かったのによく勇気が出たものだ
ああいう世界で見れるのは
幸せなことばかりじゃない
自分の意見は通らないし
実際実力より大事なものがあって
ルッキズムの世界だから
顔がよければ世の中からかわいいとはやし立てられ
調子に乗る
顔が良ければいいのか
使い勝手がよければいいのか
そんな闇に気づき
だんだん仕事をもらうために色んなことに手を染め始める
手段を選ばなくなる
そのうち周りの大人におかしくされてしまう
こうでなきゃいけない
君はセンスがない
なんか華がない
こんなんじゃ売れない
なんて言葉を浴びせられ
売れてる奴と売れてない奴で贔屓をされ
扱いが明らかに違うようになる
例えばアイドルグループだったら
センターが一番目立つ
テレビでしゃべるのもセンターだったりする
そのグループの顔として紹介される
センターは人気のメンバーの特等席だ
だからその中でセンターを妬むやつが現れ始める
そしてグループ内でいじめが起こる
そしてセンターが耐えられなくなる
そしてアイドルをやめる
きっとアイドルグループのセンターがどんどん卒業していってしまうのはそういうことだろう
なんて夢がない世界だろう
何も知らない一般人は
芸能界にあこがれを持つ
そしていざ入ったらこの仕打ちだ
芸能人といえば稼いでるイメージだがそんなこともなく
結構金銭事情はシビアだったりする
ドッキリ企画とか
ふつうに趣味が悪い
人を罠に仕掛けて引っかかる姿を見て
面白がって笑うとか
ただの悪趣味でしかないだろう
そんなことして誰も得はしないだろう
仕掛けられる側は醜態を全国に晒されて
惨めに恥ずかしい思いをして
誰得なのだろうか
そう口では言ってても
見て笑ってる奴らは二重人格なのだろうか?
二重人格といえば急に態度が変わる人がバイト先にいたのだが
体調が悪いと言って休んだら
大丈夫?ゆっくりしてねって言ってきたのだが
次の日行ったら
なんなのお前昨日忙しかったんだけど
はぁ〜これだからダメなんだよバイトは
って言ってくる
何お前二重人格なのって心で思ってたはずの言葉が気づけば口に出てて
盛大に怒られたような気がする
なんて理不尽な世界だ
楽をして生きられるはずもなく
俺なんて毎日何のために生きてるんだか分からなくなった
昔はそんな事もなかったはずなんだが
いつからこうなってしまったのだろうか
そんな時ふと思い出す
そういえば俺も一度だけ恋人ができたことを
仲が良かった
たぶん
仲が良かったというより一方的に彼女がくっついて離れなかった
俺より年は下で
まだまだ年齢でいうと若い
あれやってこれやってとせがんできた
めんどくさいと思いつつも
わがままを聞いてあげたら
笑顔でありがとうと言ってくれたから
別に嫌な気持ちにはならなかったし
聞いてあげてしまう自分がいた
天真爛漫で純粋で明るくて
俺とは似ても似つかなかった
なぜ恋人になってくれたのかは今でもわからない
俺から告白したのではなくて
彼女から告白してきたのだ
俺のどこに惚れる要素があったのか正直謎でしかない
彼女はかわいかったし
美人だった
俺の隣にいるのがもったいなかった
ほかにいい奴がいっぱいいたはずだが
なぜか俺からくっついて離れなかった
人に愛される性格だった
歌が上手くて
音楽の才があった
自分で曲も作ってたし
ファンもそこそこにいた
でも彼女が今どこで何をしているかすら知らない
ある日突然一週間ほど前に連絡が途絶えてしまったからだ
別にもう一度会いたいとも思わなかった
でも生きているんだろうか
それだけが疑問だった
多分生きていると思うのだが
そうだと思いたいが
なぜか思ってしまう自分がいた
こんな自分とは違って
きっと忙しく充実した毎日を送っているはずだと思うことにしておく
ただの妄想なんだけどな
そんな都合のいい妄想ばかりしてしまう
やることもなく時間が腐るほどあるから
何かやろうと思ったことだってあるが
どーせ続かないと思い考えるのをやめた
働いていたけどもそんな優秀でもなかったし
サッと自分の分を済ませて帰るやつだったから人との面識だってさほどない
昔から習い事なんてしたことがなかったし
人とうまくやってきた記憶がない
ってか人と仲良くできない
まぁそんなもんだろうって思ってるし
別に仲良くしたい願望だってなかったわけだから
独りでいれて快適だ
したいことなんて子供のころは有り余っていたはずだが
そんなことを親に言えるはずもなく
毎日怒鳴り声と舌打ちと溜息が聞こえてきて
夜すら眠れなかった
どうして自分はこんな環境に生まれてしまったんだろうと神を恨んだことだってあった
きっと”普通”に生まれていたら
毎日親からの愛情をもらって育っていくんだろうなと想像して
ってかそれが普通なのかすらもわからないが
母から怒鳴られ現実に戻ったことだってたくさんあった
現実に戻ったとたん虚しくなる
悲しくなる
あぁやっぱりこっちが現実なんだって
一生夢にいさせてくれよって
夢は見ちゃダメなのかよって
もう逃げ出したほうがよっぽどマシだって
思ったことだって少なくないし
子供の頃はただひたすらに
親の仲が良くなってほしいと毎日祈っていた
自分の想像が一日でも一秒でも早く叶うことを願った
家族みんなで遊びに行ったという同級生ぐらいの子供の楽しそうな笑い声が聞こえてきて
夜まで泣きわめいて叱られた
どうして周りと自分は違うんだろうと
毎日必死に考えた
でもその疑問は埋まらなかった
答えがわからなかった
いや、分かったような気がしたけど
分かりたくなかったからなかったことにしたのほうが正しいだろう
死んだら怒られるだろうかと思った
でも死んだところで楽になるんだろうか
死のうとして死ねなかった時のことが怖くて仕方なかった
きっと怒られる
殴られる
罵声を浴びせられて
”なんでしぶとく生きてるんだよ”って
”死ぬならちゃんと死ねよ”って”
”お前がいたら迷惑なんだよ”
”金もかかるし
近所をふらつくし
それでアタシが何回怒られたか
何度人に嫌味を言われたか”
”お前がいていいことなんて一つもないんだよ”
”飯が欲しい?
”お前にやる飯はねぇよ”
ってまた言われる
脳裏に焼き付いて離れない言葉の数々
今でも眠ったら夢に出てくる
そして冷や汗をかいて起きるという始末だ
だから寝るのが嫌いなんだ
意識を失うのもまるで死んでしまうのではないかって思って仕方なかった
だって明日死んでしまうかもしれない
今目をつぶってもう2度と目を覚まさなかったら?
死ぬ時のことを考えただけで怖くて怖くて
仕方なくって
だから試せなかった
俺にそんな選択肢はなかった
父も同じような人だった
母より力が強かったから母より怖かった
だから子供のころはアザだらけだったと思う
服もいつも同じ
灰色のダボダボなTシャツ
黒のズボン
伸びっぱなしの髪の毛に
死んだ魚のような目
清楚感のカケラもなかった
そんな毎日が続いて
父に殴られ血が出てきて
どうすればいいかわからず放置した
おかげでその痕は今も残っている
ホントやめてくれよなぁ
だから次殴られるのが怖かった
日に日に増えていくアザを見てその時の記憶が蘇る
罵声を浴びせられるのは怖かった
怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて
怖くて怖くて怖くて怖くて怖くて
逃げ出した
もう耐えられなかった
駄目だった
必死に走った変な目で見られようがどーでもよかった
自分を守るために必死だった
その時はまだ小学校にぎりぎり入れたかぐらいの年齢だった気がする
それからフラフラして
倒れた
目が覚めたら歩道にいた
知らない場所だった
身に覚えがなかった
けど自分で走ってきたんだろう
覚えてないだけで
まぁ結局生きてたんだけど
これからどーすりゃいいだろうと思った
どーしても耐えられなかったときはスーパーで万引きをしたり
趣味で野菜を育ててるやつの庭から野菜を盗ったりしていた
自販機の下をあさったり釣りが出てこないか確認した
公園に100円玉が落ちていたらそれはそれは喜んだ
落とし物の財布を自分のものにしたりした
けどバレなかったし
誰かから怒られることはなかった
殺されそうになることだってなかったから
毎日もう使われていないゴミ捨て場の横で寝ていた
これだと人目につかない
でも生きるのは大変だった
何とか働かないとそろそろ捕まってしまうような気がした
捕まったら施設に飛ばされてしまうからそれが嫌だった
正直人と暮らすなんて二度と嫌だ
独りのほうがよっぽど楽しい
けれどこんな子供雇ってくれるところは何処もない
だから諦めた
そんなことを考えたこともあった気がする
そんなこんなしていて季節が過ぎ去った
あれは冬だった
ある日俺は夢を見た
色んな人から愛される夢だ
飯だって十分にあった
これが現実だったらと眠っていても思った
皮肉な夢を見たのはこれが初めてじゃなかった
唯一いつもと違ったことは
目が覚めると
たしかにいつものゴミ捨て場だったが
何かいた
目の前に
それは人の形をしていた
真っ黒な
まるで影のような
でも鼻も口も目もついていなかった
なんというか
言葉では表せないが
とにかく”何か”がいた
そのなにかは俺に近づくなり
俺の頬を撫でた
頭も撫でた
目はないのに見つめられているような気がした
なんなんだこいつは
”からかうだけなら帰れ”
そう言い放っても返事もしなかったし
そいつがそこを離れることもなかった
でも別に怖くなかったし
居心地が悪い訳でもなかった
そいつは夜になると来た
そして目の前に我楽多とパンを置いて帰った
だから毎日毎日そのパンを少しずつ食べながらなんとか生きていた
けれど最近
いや、いつからだろうあいつを見なくなったのは
たしか自分で金が稼げるようになった時からだ
あのゴミ捨て場から離れて
そろそろ働けるだろうと思い
雇ってくれそうなところを探した
たしか中学生と世では言われるぐらいの年齢だった気がする
アルバイトをし始めた
給料がいいところでもなかったが
まぁ別に働くことが苦ではなかった
給料を貯めに貯めてようやくボロアパート一部屋買えるぐらいになり
買った
やっと寝る場所が
帰る場所ができたと喜んだ
でも今となってはこのありさまだ
大切にしようと思っていたものほどだんだんと扱いが雑になってくる
そういうもんだ
しかしあいつはいつもどこからパンをとってきていたんだろうか
昔は感じなかった疑問が急に生じる
大人になった今昔より賢くなったからかもしれないが
昔は思わなかった違和感などに今更気づく
しかし過去の話だから確かめることは不可能だ
モヤモヤする
それからというもの
別にいい家にすみたいという願望もなかったからこのボロアパートに住んでいる
俺は昔からそうだが物欲がない
あれがほしいこれがほしいなんて願望はなかった
それは言い出せなかったのが原因だったわけじゃなく
いや確かにそれも影響しているかもしれないが
ただ無くても生きていけるとどこかで思ってしまう自分がいた
例えば
便利な調理器具とか
”これがあればいつものみじん切りが楽に!”
みたいな
そういうのを見かけるたんび
楽をしたいなという気持ちは湧き上がってくるのだが
これ買わなくても別にみじん切りすればいいだけなような気がしてきて
金の無駄だと思って買わない
あとよく言われたのは
例えば
”このテストで100点取ったら○○してあげる”
みたいなもので釣ってくるタイプのやつだ
あれは俺には全く効かない
別にそれをしてもらわなくても生きていけるという思考になってしまう
よくバイト時代の時も言われたが
正直頑張ろうと思えない
どっちかというと俺は
これをやらなきゃ死ぬといわれたほうがやる気は出る
だって前者は別に今の生活と変わりなくいられるのだからそれでいいような気がする
たいして後者は死ぬので
まぁ本当に死んだらそれは犯罪だが
死ぬと思ったほうがやる気は出る
あと褒められて伸びるやつでもない
逆に脅されたり怒られたほうがやる気は出る
やっぱり嘘かもしれない
どっちでも結局やらないかもしれない
やる気が出ないのだから
後さっきの話も嘘かもしれない
結局死なないとわかっているから
やる気は出ないかもしれない
まぁこんな人間だから今は無職の無力な廃れた人間なんだ
人間はバカだから
嘘につられてしまう
それが同情心を買うようなものだと余計だ
それに気づいた奴が詐欺を始める
でも詐欺が多くなると人間は学習し
詐欺だと分かるようになる
それでも騙すのが上手い奴は未だその存在がバレていない
そういう奴はだいたい同情心を買うようなことをしている
人間はそういうところが弱い
同じ人間だけれど正直なんでこれに気づけない?とバカらしくなる
だから俺は人と群れることを嫌う
バカで傲慢で自意識過剰で自己主張の激しい人間とは関わりたくもない
正直別に関わらなくても生きていけるし
寂しいとも思わない
なんなら一人のほうがよっぽど楽だ
テレビが光っている
まだあの歌手の話ばかりだ
しかし数年経てばきっと一人も覚えてないだろう
死んだ人間はメディアに出ることもなくなり
SNSももう動かない
そしたらみんな忘れる
きっともう一ヶ月後にはこの歌手の話題なんて全くなくなる
これが死ぬということだ
人は皆に忘れられたときに死ぬと誰かが言っていた気がするが
まぁ死んだ時点で死んでるは死んでるから死んでいるのだが
皆に忘れられた時に死ぬというのはその通りなような気もしなくない
皆に忘れられるということは
誰もそいつのことを求めなくなるということだ
つまりもう用済みなので捨てられる
用済みな奴に話が回ってくることはない
用済みな奴がもう一度舞台に立つことはない
だって誰にも求められてないんだから
舞台に立ったところでだれが見に来る?
死ぬとはそういうことだ
死んだらもう二度と舞台に立つことはできない
物理的にも
生まれ変わりという言葉があるが
俺はそれを疑っている
けど信じてみたいと思う気持ちも少しばかりはある
でももう一度生まれ変わったって
前世の記憶がなければ有利なことは何もない
一週目の奴と何ら変わらん
生まれ変わったら好きな芸能人の子供になるとか
結局記憶がなければ嬉しいも何も思わないのだ
まぁ生まれ変わりとか
人生の真理とか
どうあがいても答えがわからないものは仕方がない
考えるだけ無駄だ
深くため息をつく
俺は一体何をしているんだろうか
こんなものに時間を割いたって仕方ない
残り少ない人生なのだから
有効的に使わないともったいない
生きるということは死ぬということだ
この世に生を持ってしまったなら
死は必然的についてくる
昔から自分の人生の終わりを考えて怖くなることがある
死ぬということを100%理解できていないから怖いのだ
死んだら自分は何処へ行くのか
何をするのか
先がわからないから怖いのだ
暗闇に飛び込むのが怖いように
先が見えないから怖いのだ
そんなことを考えて震えていたこともあった
死ぬのが怖い
ずっと生きていたい
死んだらどうなるんだろう
そう思うと怖くてたまらない
もう二度と自分として意識を持たないのだ
それがどんなに怖いか
100%分からないが
怖いことだけはわかる
一番分かりたくないけれど
一番よく分かってしまう
人の死というものはなかなか実感が湧かないものだが
自分が死ぬ直前はきっと
実感があるんだろう
あぁ今から死ぬんだなと思うんだろう
それがどれだけ怖いか
俺は分かりたくない
分かりたくない
いや、意外と自分の死も実感はないのかもしれない
死ぬのかなって他人事のように思ってしまうのかもしれない
人間の死が儚いというのはよくわからない
たしかに誰かの死が儚いのは100歩譲って分かっても
自分の死は儚くなんてない
ただ怖いだけだ
ただそれだけなんだ
自殺や殺人のニュースを見るたび思う
人間はどうして分かり合えないのだろうと
どうして殺してしまうのか
どうして死んでしまうのか
だって俺たちは嫌でも同じ生き物なのだ
なぜ同じ生き物なのに分かり合えないのだろう?
なぜ争ってしまうのだろう?
なぜいじめてしまうんだろう?
平気で殺められるのだろうか?
自分が最優先なんだろう?
”人に優しく”だって
そう言ってるお前はいつだって他人優先なのかよ
違うだろ?
きっと自分の地位は高いと自慢しないと死んでしまう病気だから
みんな必死に地位を獲得しようとする
そんなんに時間割いて楽しいかよ
そこまでして命を懸けて争う理由を答えてみろよ
って言われたときにすぐ答えられるのかよ
答えられないだろ?
ってことは自分だってなんでしてるのか分かってないんだよ
争うなって言ってるやつが一番争ってたりするし
そんなしょうもない争いに何人巻き込まれてると思うんだよ
何人死んでるか考えたことあるかよ
だからだめなんだよ
どうしても自分がかわいくて仕方ない人間様は
自分のためならなんだってする
まるで自分が一番正しいかのように
頭の狂ったやつらだ
とてもじゃないけど同じ生き物と思いたくない
そんなこと考えてる俺が一番世間から見たら狂ってるんだろうな
みんなおかしいから
逆に言うと俺だけ周りと違うから
みんな俺を頭のおかしい奴だと思う
自分のやってることがおかしいことにも気づかず
きっと彼らは死んでも気づかない
おかしな狂信なんだろう
どこかのおかしな噂ばかり信じて
都合の悪いものはなかったことにするなんて
ただ欲望という糸に踊らされながら
好きでもない奴と愛し合う
こんな世の中を神が作り上げたと思うか?
神ならばもっといいモノを作ってくれるんじゃないか?
”神様を信じなさい”
と言われたことがあるが
そんなもの信じられるわけねぇだろ
こんな残酷なのに
どうしようもなく廃れていくばかりなのに
こんな完璧とは程遠い世界を神が作るはずない
だから思う
俺は神なんぞいないと
神がいるならこの世界はもっと救いようのあるもののはずだ
神がいるなら”狂人”なんていなかったはずだ
嘘にまみれた世界なんかじゃなかったはずだ
”こんな世界おかしいだろ
神なんていないんだよ”
そうつぶやいて一人で虚しくなる
”神なんていないか…”
神がいない世界にもう救いようはない
この世界に希望はない
この先どんな天才が現れようが
この世界に光が差し込むことはない
はぁ......
何を考えているんだ俺は
無駄なことばかり
こんなのなんの役にも立たない
俺にはやらなきゃいけないことがあるのに
そうだそうなんだ
こんな俺を皆覚えてくれるようになるだろう
あの歌姫のように
ふと俺はあの歌手がどんな曲を
あげていたのか気になった
あれほどファンがいる彼女だ
何かあれほどの人の心を動かすような曲を作っていたんじゃないか
そう思いあの歌手の名前を検索窓に入れる
あのことでいっぱいだが
曲が出てきた
俺は初めて聞いた時引き付ける力があると思った
どの曲も洒落た曲調で
そこにぽつぽつと静かに綴るように歌詞が添えられていた
それこそが彼女の独特の世界観を作っていて
ファンを虜にさせた要因だろうと思う
でもどの曲も真剣に世に訴えるように
まるで”目を覚まして!”と言わんばかりの鋭い芯のある声だった
持ち前の歌唱力で
どんな曲でも歌いこなしていた
ジャンルはバラバラでもそんな共通点があった
…きっと俺とは違ったんだ
少しでももしかしたら彼女も
そう思ってしまった俺がバカだった
世の中に失望して
ぽつぽつ不満をただひたすらにつぶやいてたんじゃないんだ
”世の中を変えたい” ”まだ希望がきっとある”
そんなこと思いながら歌ってたんだろう
きっと本気で音楽が好きで
本気でファンを愛していたんだろう
でも殺されたんだ彼女は
こういう希望のあるやつから順に殺されるのはなぜだろうか
でも彼女はなんとなくだが満足して死んだような気がする
ただの妄想に過ぎないが
本当になんとなくだが
きっとこれからやりたかったことも
成し遂げられなかったことだっていっぱいあるだろう
でも
でも大好きな音楽を世界中に届けられて
こんなにもたくさんのファンに愛されて
幸せだったんじゃないかって思う
曲を聴いて何となくそう思った
きっとそうだろう
そうなんだ
そうだろう
....…......…うらやましい限りだと
そう思ってしまった
俺なんて今更やりたいこともない
今更なにもしようと思わない
きっと生まれながらに決まっているんだ
幸せになるやつと
そうでない奴に分かれることは
生まれたその瞬間からきっと決まっていて
そうだときっと俺だって分かっていた
でも生まれてきたからには幸せになる権利ぐらいあるんじゃないかって思う
けど
幸せになる権利はあっても
幸せっていうところまで
そこまでたどり着けない
俺の人生こうなることぐらい最初から決まっていたんだ
前世でどんな大罪を犯したんだろうな
そう思ってしまうぐらい
救いようのない人生だった
でもこんなの今に始まったことじゃない
それぐらいわかってる
そうだ
そうだろ
だから俺は神を恨む
この世界も
街を歩く人間たちも
世論も
総理大臣も
俺を生んだ母親も
暴力を振ってきた父親も
バイト先の店長も
歌手を殺した殺人犯も
このアパートの大家も
いつも行くスーパーの店員も
テレビに映る全然知らないアイドルも
うるさいトラックのクラクションも
昨日ケンカしてたファンとアンチも
歌手の死亡を取り上げた記者も
それを電波で流したアナウンサーも
警察の止めに入った声も
もう目に映るすべてがうざったいんだよもう
聞こえてくる音すべてがうるせぇんだよ
このまま誰の記憶にもないまま死ぬのは嫌なんだよ
だから考えたんだ
この恨んでるもの全部に覚えてもらえるぐらい
サイコーに楽しいことをしようと
気づけば時計は20:00を指している
いろんなことを考えたし
意外とあの歌手の曲が多くて聞いていたらこんな時間になっていた
22時
22時になったら外に出よう
でもどっちみちあと少し暇だ
やることもない
何をしようか
残り少ない時間に何を当てようか考えた
......あの歌手の曲をもう一度聞こう
歌詞をちゃんと見て
あいつがどんな人間だったか調べよう
そうしよう
人生最後のに時間をこんなことに使ってしまっていいのかと頭では思うが
もう体が言うことを聞かない
あいつは幸せだったのか
どんなことを話していたのか
どんな人柄だったか
どんな気持ちだったのか
どこでどんな風に
どんなことをしていたのか
どんなしぐさをする人だったか
どんな声でしゃべる人だったか
どんな思想を持っていたか
誰かと住んでいたのか
一人で住んでいたのか
ペットはいたのか
どんなものが好きだったか
どんなものが嫌いだったか
恋人はいたのか
周りとうまくやっていたのか
周りからの信頼度はどうだったのか
仕事は順調だったのか
どんな異性が好きだったのか
何が口癖だったか
よく食べるほうだったか
それともそんなことなかったか
身長はどのくらいだったか
どんな化粧をしていたか
なぜ音楽が好きなったのか
いろんなことを調べた
残り少ない人生すべてをこの歌手だけにささげたのだ
でも俺はなぜか後悔してない
なぜなのかは自分でもわからない
なぜなんだ
そろそろ外に出る準備をしよう
どうしよう手が震えてきた
止めようにも止まらなかった
俺が選んだ道なんだ
あの時からずっとこうなることを望んでいた
そのはずだったし今もそうだ
もう決めた選択は絶対に疑ったりしない
少なくともあいつはそうだった
自分が決めたことに根拠もなく自信過剰で
でもだから堂々としてて
俺はああいう人になりたかったんだな
息が荒くなって
のどに何か詰まっているか疑うほど声が出なかった
息の吸い方を忘れてしまいそうだ
苦しくて吐き気がする
ひどくせき込んで床に倒れる
こんな苦しんでいたって心配してくれる人なんぞいない
そして覚悟を決めた
後を追いかけるように
震える手で拳銃を持つ
あの日からずっと我楽多を漁って探してた
そしたら出てきたんだ
あの影はこの結末をもう知ってたのか
そう思ってしまうほどだった
パーカーのポケットに入れる
思ったより重かった
確かに本体も重いけどそうじゃなくて
何か違う重みもあった
そうなんだと思う
でもいいんだ
だってこんなにも憎んでいるのだから
生まれてからずっといい思いなんてしてこなかった
俺は幸せと感じたことはなかった
誰からも愛情を受けずに育った
だからそんな世を恨むのだ
どうして俺は幸せになれないんだろう
もういっそ生まないでくれよ
どうしてこの世界に俺が生を持ったんだよ
やめてくれよ
嫌がらせでしかないだろこんなの
神がいたら俺の人生もっといいものだった
神なんていない
世の中を恨む
最後だけ
最後だけ俺の存在を知ってほしい
あぁこんな狂ったやつがこの世にいるんだなって
思わせてやるよ
一生お前らの脳裏に刻まれる狂人に
独りで死ぬよりマシだ
死ねばいいのに
クソっ......!
どこにいても何をしても俺はダメなんだなって思う
なんでだよ
どうしてだよ
俺をこの世に生を持たせた奴を一生恨む
この世の中がよくなることなんてない
どうせこの先
生きていたっていいことなんてない
だったら今この世にいるすべてを巻き込んで
死んだほうがマシだ
テレビに反射する自分の顔は
この世のすべてを恨んだ
今にも死にそうなやつの顔だった
意を決して俺は外に出る
夜でもうるさかった
夜ぐらい静かにできないのか
あのスクリーンのとこまで行く
重い足取りだったような
そうでもなかったような気がする
スクリーンの前に行く
ポケットから拳銃を取り出す
腕を上に突き上げる
引き金を引く
パンと銃声音がした
こんなのテレビでしか聞いたことがなかった
周りの人間が叫びだした
お前らを撃ったりはしないから大丈夫だってw
冷静に警察に通報している奴もいれば
必死で逃げている奴もいる
だから面白くて仕方がなくてもう一発撃った
空に弾が飛び消えた
面白くて仕方がなくて俺は膝から崩れ落ちて笑った
大笑いした
涙が出るほど面白かった
「大丈夫だよ大丈夫w」
そう口に出した
俺が急に喋ったからか余計怯えだす
これが望んでいた結末だ
そうなんだよ!
そうなんだろ
なぁ
そうだよ
これが望んでいた形だ
「お前ら全員嫌いだ!
この世にいるやつみんな目障りだ!
だから俺はお前らを巻き込んで死ぬんだ!
俺に今までさんざん不幸を与えてきた罰だよ!
この間まで俺のこと笑ってたくせに急におびえるとかどんな神経してんだよw
俺のことがおかしくて仕方なかったんじゃないかよ!?
そうだろ!?なぁ!w
俺はお前らが生み出した化け物なんだよ
お前らが自らの手で作り上げたんだよ
今までさんざんな仕打ちばっかりしてくれたよなぁ!?
どうしたどうしたそんな顔してw
急に怖くなってきたのか?w」
どこで待ってても愛なんてなかった
愛を待ったって返事はなかった
ひどいよな
お前らの幸福俺にも分けてくれよ
なぁ頼むよ
どうして俺は生まれてきたんだよ
なぁだれかこの問いに答えてくれよ
なぁ頼むって
どうして俺がいるんだよ
どうしてこんなことしてるんだよ
なぁ頼むよ
なぁ
愛ってなんだよ
ただのイメージじゃないかそんなの
だって形もないじゃないか
愛なんて勝手に誰かが作っただけじゃないか
じゃあ愛ってなにか答えられるのかよ
どんな形で
どんな姿なんだよ
ただの文字じゃないか
愛が受けられない人はかわいそうって誰が決めたんだよ許せねぇ
かわいそうなんて誰が決めたんだよ
かわいそうって誰が作ったんだよ
そんなみせかけ同情心いらないんだって
ほんとは笑ってるくせに
そうやって廃れた人を笑いものにして
キモイって笑ってるお前らに言ってんだよ
なぁ
おかしいよなぁ
名前も知らない奴のこと笑ってたかっていじめて
何が楽しいんだよ
理解できない
お前らのほうがよっぽどおかしいってこと分かんないのかよw
鏡見たことあんのかよw
まぁないだろうなww
あったら自分のほうがよっぽどキモイって理解できるだろうな
絶望するんだろうなそれでww
そんな姿を想像したら面白くて仕方ない
「神なんていない!
いたら俺の人生もっと救いようのあるものだった!
俺だってこんなんじゃなくてもっと救いようのある人間だった」
この世界だってもっといいものだった
神がいるなら答えてくれよ
俺はどーすりゃよかったんだよ
どーすりゃ幸せになれたんだよ
どーすりゃ愛が返事してくれたんだよ
なぁ
俺はどうあがいてもどうにもならなかったのかよ
じゃあなんでこの世に俺が生まれてきたんだよ
頼んでないって
可笑しいってw
俺はどうすればハッピーエンドになれた?
これでよかったのか?
自分の行動が正しかったのか
やってから思う
あいつはこれで喜んでくれるのか?
こんなことしてもあいつのところには行けないんじゃないのか?
いや、だとしても許せねぇ
あいつは世の中のせいだ
世の中のせいでこうなったんだ
あいつが喜ぶとか悲しむとかそんな話じゃないんだよ
ただの俺の自己満だこんなの
でもそれでいいのか?
いや、そんなんじゃなくって…
ただ俺は
…でも結局何がしたかったんだ
客観的に見たら俺はただの犯罪者でしかない
でも俺にはちゃんとやらなきゃならないことがって
だからこんなことしてて
なんでだよ
やる前は一つも疑わなかったじゃないか
なんでだよっ......
なんで今更気づいてしまうんだよ
だったら死んでも気づきたくなかった
パンっ
俺は自分の頭を撃った
そう撃った
感想はなんか痛いっていうよりなんかさ
なんだろうな
苦しい?というかなんかそれも違う気がするんだよな
なんか頭に穴空いてるのかなってそっちのほうが気になる
でもここで確認したら痛くなりそうだからやめよう
意識的に
なんか視界もぼやけてきた
無駄に周りの音だけが聞こえる
あぁ俺死ぬんだな
あぁ
予想した通り意外と他人事に思えた
でも怖かった
今までで一番目をつぶるのが怖かった
でももうつぶらざるおえなかった
でもこれでよかった
俺が望んだサイコーな結末だ
これでよかったよな
だって神様もいないこの世界を俺は愛せない
そんな世界を生きている俺を愛せない
そんなこと思ってしまう俺を愛せない
俺は俺のことが一番嫌いだったんだ
この世の何よりも
分かってたんだ
嫌だよなぁ
分かりたくなかったよなぁ
この死ぬまでの二日間
思ってたこと全部俺のことだったじゃないか
人間は狂ってるっていうのも
死ぬのが怖いっていうのも
バカで傲慢で自意識過剰で自己主張の激しい人間っていうのも
人間は馬鹿だってことも
一人の人間に執着する気持ちがわからないってのも
全部俺のことだったじゃないか
そうじゃないか
俺が一番狂ってたんじゃないか
周りがおかしいっていうのも
実は俺がおかしかっただけで
周りはまともだったんじゃないか
一人の人間に執着する気持ちがわからないって言ったけど
最後まで結局俺も
だからこの結末を選んだんじゃないか
…そうじゃないか
気づきたくなかった
なんで気づいちゃうんだろうなぁ
嫌なことには目を背けたかった
実は分かってた
心の内では誰より分かってたはずだ
分かりたくなかったから分かってないフリをしてたのに
なんで今になって思い出しちゃうんだろうなぁ
皮肉だよなぁ......w
風が吹く
服が揺れる
伸びっぱなしの髪がなびく
それと同時に警察の足音がした
死にかけでびっくりしているらしい
まぁそりゃそうだろうな
だって逮捕しなきゃならないから出てきたのに
駆け付けたら死にかけなんだから
救急車を呼んでいるらしい
まぁもういらないけどな
もう考えるのもできない
まぁ考えなくてもいいか
どーせ人間分かり合えないんだから
考えたって誰も聞いてくれないんだから
そうだ
そうなんだ
間違ってないよな
間違ってないよな?
......これでよかったよな?
あぁそうだこれで
そうなんだ
気づきたくなかったなぁ......w
”昨日午後22時
○○市で発砲事件が発生しました
警察によりますと
容疑者は駆け付けた際にはすでに瀕死の状態で
病院に搬送されましたが死亡が確認されたとのことです
調べによりますと
男が真上に拳銃を向け発砲して
さらにそのあと自分の頭の撃って死亡したとみられています
容疑者の体からは何も検出されませんでしたが
発砲の疑いで容疑者死亡のまま書類送検されました
********
”会いたかったよ
ごめんな
お前にごめんが言いたくて来たんだ
本当にごめんなぁ....
顔ぐちゃぐちゃだよって?
(笑)ホントだな
お前もじゃねぇか(笑)
物騒なことやっちまったよ
怖いからやめてよって?
ごめんな
ちょっと頭おかしくってさ…
来ないでほしかったって?
ごめんよ
謝るなって?
ごめんよ...ってまた言っちゃったな
これからはずっとここにいたい
あぁ約束だ
本当にみんな愛してたよ
すごいなホント
でもやってよかっただろ?
楽しかった?...!よかったな!
みんな悲しんでたよ
あぁ
あぁそういえば話したいことがいっぱいあるんだ
うん、先に話を聞くよ
うん
そうかそうか
よかったじゃないか...!
うん
俺の話したいことはな―”
『不幸な人間にとって、死とは無期懲役の減刑である』
そう顔も知らない昔の偉人が残した
※ヴィラン(villain)は英語で「悪役」「悪人」を意味する単語です。物語において、悪人、犯罪者を指して使われます。