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【論文紹介】投資プロジェクトのリスクを適切に評価するには
出展:
Avoiding a risk premium that unnecessarily kills your project Too high a discount rate can make good projects seem unattractive. How high is too high?
-Ryan Davies (Ryan_Davies@McKinsey.com) is a consultant in McKinsey’s New York office, where Tim Koller (Tim_Koller@McKinsey.com) is a partner; Marc Goedhart (Marc_Goedhart@McKinsey.com) is a senior expert in the Amsterdam office. Copyright © 2012 McKinsey & Company. All rights reserved. -
研究概要
今日のビジネス環境において、企業は常に新しい投資機会を評価し、将来の成長と収益性を確保する必要があります。しかし、投資プロジェクトにはリスクが伴い、そのリスクをどのように評価し、意思決定に反映するかが重要な課題となります。
従来、企業はリスクの高いプロジェクトを評価する際、割引率にリスクプレミアムを上乗せすることで、将来のキャッシュフローの不確実性を反映してきました。割引率とは、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くために使用される利率であり、リスクプレミアムとは、投資のリスクを反映して割引率に上乗せされる追加的な利率のことです。
しかし、この論文では、割引率にリスクプレミアムを上乗せする従来の方法には問題点があると指摘し、より適切なリスク評価の方法として「シナリオ分析」を提案しています。シナリオ分析とは、複数の将来シナリオを想定し、それぞれのシナリオにおけるキャッシュフローを予測することで、リスクをより包括的に評価する手法です。
結論
著者は、割引率にリスクプレミアムを上乗せする方法は、プロジェクトの評価を歪め、優れた投資機会を逃す可能性があると主張しています。リスクプレミアムは、多くの場合、客観的な根拠に基づかず、経営者の主観的な判断で決定されるため、恣意性が高く、リスク評価の透明性を損なう可能性があります。また、割引率を過度に高く設定すると、プロジェクトの現在価値が不当に低く評価され、実際には有益なプロジェクトが却下される可能性があります。
シナリオ分析は、リスクプレミアムを上乗せする方法に比べて、より客観的で透明性の高いリスク評価を可能にします。複数のシナリオを検討することで、プロジェクトの潜在的なリスクと機会をより深く理解し、より適切な意思決定を行うことができます。
研究方法
この論文では、ケーススタディ、数学的モデル、およびシミュレーションを用いて、リスクプレミアムの影響とシナリオ分析の有効性を分析しています。具体的には、割引率のわずかな上昇がプロジェクトの現在価値に与える影響を定量的に示し、複数のシナリオを用いたリスク評価の利点を具体例を挙げて説明しています。
各章の詳細な要約
序論
企業は、海外での大規模な資本プロジェクト、不確実性の高い研究開発プロジェクト、未確立の技術や事業の買収など、リスクの高い投資に直面することがよくあります。このような投資を評価する際、経営者は将来のキャッシュフローの不確実性を反映するために、割引率を上げる傾向があります。
例えば、ある企業が政情不安定な国に工場を建設する場合、政治リスク、経済リスク、為替リスクなど、さまざまなリスクを考慮する必要があります。このようなリスクを反映するために、企業は通常の割引率にリスクプレミアムを上乗せし、将来のキャッシュフローの現在価値を割り引くことがあります。
しかし、割引率をわずかに上げるだけで、プロジェクトの現在価値が大幅に低下し、有望な投資機会を逃す可能性があります。例えば、割引率を3%から5%に上げるだけで、プロジェクトの現在価値が30%以上減少する可能性があります。
リスクプレミアムの問題点
割引率にリスクプレミアムを上乗せする方法は、いくつかの問題点があります。
不透明性: リスクプレミアムは、多くの場合、根拠のない「勘」に基づいて設定され、リスク評価の透明性を損ないます。例えば、ある経営者が過去の経験に基づいて、特定のプロジェクトのリスクプレミアムを5%に設定した場合、その根拠を明確に説明することは難しいでしょう。
過剰な割引: 割引率を過度に高く設定すると、プロジェクトの現在価値が不当に低く評価され、実際には有益なプロジェクトが却下される可能性があります。例えば、将来の成長が見込める有望なプロジェクトであっても、リスクプレミアムを過度に高く設定することで、現在価値がマイナスとなり、却下される可能性があります。
リスク評価の歪み: リスクプレミアムは、プロジェクト固有のリスクではなく、市場全体のリスクを反映するため、個々のプロジェクトのリスクを適切に評価できません。例えば、市場全体のリスクプレミアムが5%であっても、特定のプロジェクトのリスクが3%しかない場合、リスクプレミアムを5%に設定することは過剰なリスク評価となります。
代替的なリスク評価方法:シナリオ分析
著者は、リスクプレミアムを上乗せする代わりに、複数のキャッシュフロシナリオを作成し、それぞれのシナリオに確率を掛けて加重平均する「シナリオ分析」を推奨しています。シナリオ分析では、まず、プロジェクトの将来を左右する可能性のあるさまざまな要因を特定します。例えば、新製品の開発プロジェクトであれば、市場の成長率、競合の動向、技術的な課題などが考えられます。
次に、これらの要因を考慮して、複数の将来シナリオを作成します。シナリオは、楽観的なシナリオ、悲観的なシナリオ、および最も可能性の高いシナリオなど、さまざまな視点から作成する必要があります。
各シナリオについて、将来のキャッシュフローを予測し、調整されていない資本コストで割り引いて現在価値を計算します。そして、各シナリオの現在価値に、そのシナリオが発生する確率を掛けて加重平均することで、プロジェクトの期待現在価値を算出します。
シナリオ分析の利点
シナリオ分析には、リスクプレミアムを上乗せする方法に比べて、以下のような利点があります。
透明性の向上: シナリオ分析では、リスク評価の根拠が明確になるため、意思決定の透明性が向上します。各シナリオのキャッシュフロー予測、割引率、および確率を明確にすることで、リスク評価の根拠を客観的に示すことができます。
リスク軽減戦略の促進: シナリオ分析は、プロジェクトの潜在的なリスクを明確にすることで、リスク軽減戦略の策定を促進します。例えば、悲観的なシナリオにおいて大きな損失が発生する可能性が明らかになれば、そのリスクを軽減するための対策を検討することができます。
柔軟性の向上: シナリオ分析は、プロジェクトの成功と失敗の可能性を考慮することで、柔軟な意思決定を可能にします。例えば、楽観的なシナリオではプロジェクトを拡大し、悲観的なシナリオではプロジェクトを縮小するなど、状況に応じて柔軟に対応することができます。
シナリオ分析の実施方法
シナリオ分析を実施する際には、以下の点に注意する必要があります。
現実的なシナリオ: 各シナリオは、プロジェクトの特性を反映した現実的なものでなければなりません。過去のデータ、市場調査、専門家の意見などを活用して、可能な限り現実的なシナリオを作成する必要があります。
確率の精度: 各シナリオが発生する確率は、過去のデータや専門家の意見などを基に、できるだけ正確に見積もる必要があります。確率の精度を高めるためには、統計的な手法やシミュレーションなどを活用することが有効です。
継続的な見直し: シナリオ分析は、プロジェクトの進捗状況に合わせて定期的に見直し、必要があればシナリオや確率を修正する必要があります。プロジェクトの状況は常に変化するため、定期的にシナリオ分析を見直し、最新の情報に基づいてリスク評価を行うことが重要です。
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