これは遺伝子のせいだ、しょうがない。〜憂鬱と不安と悲しみと〜
こんにちはryoです。
技能士試験勉強にあたって、問題集や参考書にあった推薦図書を買って、読み進めています。
リストには、1冊5,000円くらいする本もあったので、それは一旦保留ですが(笑)、片っ端から買って読むつもりです。意外と安いのもあるのでおすすめの勉強法です。
その中で最近読んですごい面白かったのは、こちら。
タイトル通り、うつ病に関する本です。日本うつ病学会理事長の野村総一郎さんが執筆しています。
2008年に初版が出ているので、12年前の本ですね。
正直なところ、うつ病に関しては、本が出た頃よりもずっと研究が進んでいるので、古いデータもあるのかなと思っていたのですが、そんなことありませんでした。本当にすみませんでした。笑
最新データから読み解くとかそういったことではなくて、うつ病の概念を根本から考えていくという内容です。進化生物学の観点から、そもそもうつ病の根底にある、憂鬱や不安などの感情はいつからあったのかというところから始まります。
その感情は生きていく上で必要だった
今、私たちが喜怒哀楽や不安、憂鬱を感じるのは、それが必要なものとして、遺伝子に残されてきたからです。
例えば、悲しみという感情。
はるか昔20万年前、狩猟を行っていた私たちの祖先は、命がけで動物と戦っていました。その中で命を落とす仲間も出てきます。その時は、仲間が死んで悲しむ人もいれば、そうでない人もいました。
悲しみを感じない人は、またあらためて狩猟にでかけます。その後、成功することもあれば、同じように仲間を失うことも多々ありました。
一方、悲しみを感じる人は、悲しみの中から次はどうしたら仲間を失わずにすむか、命を落とさずにすむかを考え、よりよい狩猟方法を生み出しました。
生き延びていくには悲しみを持った方が適していたからこそ、悲しみの感情は遺伝子で引き継がれていきました。
憂鬱も同様で、周囲の援助を求めるため、争いを避けるため、悲しみのように新しい方策を生み出すため、昔から必要な感情として残ってきました。
不安だってそうです。不安だからこそ、慎重にそして計画的に狩猟ができるようになったのです。
ただ、何十万年もかけてゆっくり進化してきた私たち人類。ここ何世紀で大きな進化を遂げ、環境も大きく変わり、今残っている遺伝子と環境にミスマッチが起きています。
なるほど、と思ったのは糖尿病。昔は糖がなかなか取れなかったので、体の中で足りない糖を補ってくれる遺伝子が、今では簡単に、むしろ過剰に糖質摂取できるので、人間にとって不利になっているということ。
憂鬱や悲しみ、不安を感じるのは当たり前のこと。それが現代の環境とのミスマッチを受けて過剰になってしまったことで、神経系や脳にダメージを与え、うつ病が引き起こされます。
仕事における憂鬱や不安との付き合い方
同著書では、こういったうつ病の概念を心理学、哲学、生物進化学の観点から考察し、治療法や診断における問題点など、幅広く展開されます。
うつ病に関する概念全般に触れている本なので、メンタルヘルスの勉強をするときにもおすすめの1冊です。とても読みやすかったです。
私はもちろん精神疾患に関する治療はできないですし、心理学の専門家ではないのですが、キャリアコンサルタントとして、この知識は活かせないか考えてみました。
もちろん重度の精神疾患だと思われる相談者は、リファーするべき事案だと思います。しかし、落ち込んでいて、なんとなく相談してみようかなという相談段階の初期であったり、日々の後輩指導なんかには活用できると感じました。なんでもかんでもリファーじゃないということですね。
例えば、会議やプレゼンであがってしまって、失敗を繰り返して自信をなくしてしまった後輩。もちろん、相手に伝わるように何度も練習することが大切です。
ただその前段階で、そもそもあがってしまうのは、不安を感じている訳であって、不安を感じるのは目の前の出来事に対して果敢に挑もうとしている証拠なのだと伝えてみてはどうでしょうか。少しでも気持ちが軽くなってくれれば、その後の練習もより効果的なものになるかもしれません。
人は、危険で有害で脅威だと感じる出来事にあったとき、その危険から身を守るために防御反応が生じます。
視界を広げるため瞳孔は開き、ブドウ糖を作るために肝臓の動きは活発化し、全身にエネルギーを供給するために、気管支を太くして呼吸は速くなります。そして、栄養と酸素を含んだ血液を全身に多く送り出すために、心臓は活発に動いて心拍数があがります。傷を負った場合に備え、体の抹消の血管は収縮するので、手足は冷たくなります。
これは、昔から人間が生き残っていくための誰にでも起こる反応です。その上で、目の前の危険から逃げるのか、それとも闘うのか、判断します。どちらにも対応できるように体を覚醒させるのです。
この反応は「闘争ー逃走本能」と呼ばれます。これ、日本語だからこそですが、本当に面白い言葉ですよね。「とうそう」という同じ言葉が、正反対の意味を表すって。
逸れましたが、不安を感じている後輩だって、目の前の脅威(プレゼン)に対して闘うということを選んでいる訳です。体に起こる反応は同じなので、それであればその反応をうまく使っていきたいですよね。
これは遺伝子のせいだ、しょうがない。
セルフケアにも使えそうです。
自分が落ち込んでしまったとき、過剰に不安を感じるとき、そんな時は「これは遺伝子のせいだ、しょうがない。」と自分自身に言ってあげてみてください。
不安や憂鬱は人間が前に進むため、よりよく生きるために必要な感情だったのです。人間にとって負の感情も、自分がよりよく生きるために必要なんだと捉えてみれば、少しは気分が軽くなるかもしれません。
そのあとで、具体的な方策を考えたり、休んでみたり、闘ってみたり、ときには逃げてみたり・・・。
専門家ではないので、論じるつもりはありませんが、うつ病は真面目で責任感が強い人ほどかかりやすいと聞きます。
そういった意味でも、何でも自分の責任と思わないで、たまには、遺伝子のせいにしてしまうのもいいかもしれませんね。
それでは、また。