見出し画像

創作話「おじいちゃんの凧」

5才のさとるは、おかあさんの実家、
田舎のおじいちゃんの家に遊びに行くのが大好きでした。

さとるが遊びに行くと、
おじいちゃんは、いつもさとるに何かを作ってくれます。

何か、というのはおもちゃやお菓子のことです。

竹とんぼや竹馬、手作り笛にお団子まで、
どれもさとるの大好きなものばかりです。

今日もさとるはおじいちゃんのところへやってきました。

おじいちゃんもさとるのことが大好きで、
さとるが来たら、いつもにこにこ笑顔で迎えます。

「よう来たな、今日は何作ろうかいな。」
「凧あげのタコがいい」
さとるが元気よく言うと、
「凧か、ようし分かった。
それじゃあまず竹ひごを作らにゃならんから、竹を取りに行こう。」

「竹ひごって何?」さとるが聞きます。
「そりゃあ、凧の骨みたいなもんじゃ。」
おじいちゃんも元気よく答えます。

おじいちゃんは、家の近くに小さな竹林を持っているので、
さとるのおもちゃを作る時にはいつもここへ竹を取りに行きました。

竹を取ってきたおじいちゃんとさとるは一緒にたこ作りを始めました。

その仲良しぶりは、おばあちゃんやおかあさんにもあきれるほどでしたが、ふたりの熱心な様子を見ていると、つい笑ってしまいます。

「おとうさんに作ってもろたらええのに」
おばあちゃんがそう言うと、おかあさんは、
「おとうさんは、不器用やからあかんわ」と言ってまた笑います。

しばらくすると、おじいちゃんの威勢のいい声が聞こえました。
「ようし、できた。」

「おじいちゃん、はやく凧あげしに行こう。」
さとるも大はしゃぎです。

あぜ道が続く、大きな空き地で
さとるとおじいちゃんは夢中で凧あげをしました。

「あがれあがれ、天まであがれー」

「ほれ、さとる、もっと走らんと上がらんぞ」

おじいちゃんとさとるの凧は、始めのうちこそあがりませんでしたが、
さとるが何回も何回も頑張って走っていると、
とうとう凧は空高く舞い上がりました。
「やったー、おじいちゃん」

さとるはとってもうれしそうに言いました。

さとるがうれしくなると、おじいちゃんもうれしくなります。

かわいいさとるが走る姿に見とれていると、何かにつまづいたのか、
突然さとるが転んでしまいました。
「ありゃ、大丈夫か、おーい。」

おじいちゃんは慌ててかけよります。
さとるは、転んだままでしたが、泣いていませんでした。
「おや、強い子じゃ」
「男の子やもん」
「そうか、えらいなあ」

でも、さとるはころんだ拍子にたこの糸を放してしまっていました。
「あれ、たこは?」
「たこはもう、あっちへ飛んで行ってしもうたわ。」
見ると、凧はさっき竹を取りに行った竹やぶの方に飛んでいっていました。
すると、さとるはエンエーンと泣き出してしまいました。
「あれ、男の子やなかったんかな」
泣きやもうとしても涙が止まらないさとるを
おじいちゃんは、抱っこをして、
「泣かんでもええ。もう一個作ったるで。」と頭をなでました。
さとるはとたんににっこり笑顔になりました。

思っていたより早く帰ってきた二人を見て、
おばあちゃんとおかあさんは不思議そうに聞きました。
「あれ、早かったね。もう凧あげおしまい?」
「凧が飛んで行ってしもうたから、もう一個作りに帰ってきたわ。」
「あれまあ、そりゃ大変じゃ。」

しかし、おじいちゃんはさとるが喜ぶ顔を見れるのなら
何個作ったって平気です。

そして、二人はまた一から凧を作り始めました。

おじいちゃんが一生懸命作っている姿をじっと見ていたさとるでしたが、
旅の疲れもあってか、途中で寝てしまいました。

「寝てしもうたわ。疲れたんやろ。」
おじいちゃんは、さとるの寝顔を見て、またにっこりしました。

さとるが目を覚ますと、おじいちゃんも、おばあちゃんもいませんでした。
さとるが聞くよりも先におかあさんが言いました。
「おじいちゃん、頭の病気で病院に運ばれたんよ。」

さとるは、何がなんだかよく分からず「凧は?」と聞きました。
おかあさんは作りかけの、骨組みだけの凧を渡してくれました。

さとるは、「これやったら飛ぶわけないやん。」と笑いました。

そして、その日はもうおじいちゃんには会えず、
さとるは、おかあさんと一緒に自分の家に帰りました。

作りかけの凧は、
家に持って帰ってお父さんに続きを作ってもらうことにしました。
でも、お父さんは、
「これはあかん。竹ひごがもう一本足らんわ。」
こう言ってなかなか作ってくれませんでした。

おじいちゃんは、その後も入院生活が続き、
さとるがおじいちゃんに会いに行く回数もぐんと減りました。
何故なら、おじいちゃんは、突然起きた頭の病気のせいで、
さとるのことが誰だか分からなくなってしまったからです。

そして、おじいちゃんに会うことがないまま、5年の月日が経ちました。
さとるはもう、4年生です。

その日、さとるは、
おかあさんから、おじいちゃんが亡くなったことを聞きました。

そして、最後のお別れをするため、
さとるはまた、お母さんといっしょにおじいちゃんの家に戻ってきました。
そこで、さとるは、
何か大切な思い出を頭のどこかにしまってあるような気がしましたが、
その時はよく分かりませんでした。

お葬式が終わって、帰ろうとする時に、
おばあちゃんがさとるにあるものを渡してくれました。

それは、おじいちゃんが病院に運ばれる時、
救急車の中でずっと手に握ったままにしていた、一本の竹ひごでした。

あの時、お父さんが言っていた、凧を作るのに足りなかった竹ひごです。

さとるは、おじいちゃんとの思い出をいっぺんに思い出し始めました。

急に辛くなったさとるは、外に走っていきました。
あの日、凧あげをした空き地まで来ると、
さとるはエンエーンと泣き始めました。

すると、天国から声が聞こえたような気がします。
「あれ、男の子やなかったんかな。」
さとるは、
大きくなったらおじいちゃんみたいな優しい人になろうと決心しました。

おしまい。


イラスト書いてくれる方、大歓迎

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?