鳥取県有害図書指定に関する知事発言を整理する(メモ)
話題の鳥取県の有害図書指定について、鳥取県知事の記者会見の全文が公開されていた。ポイントの整理をするとともに、個人的な雑感を書いていこうと思う。
ポイント1 青少年健全育成条例と有害図書指定の仕組みはどの都道府県にもある
これはその通り。有害図書(不健全図書)という制度自体の問題は、鳥取県に限ったものではなく、全国共通の問題である。ただ、その運用や、実際の制度によって、表現の自由に対する「危険度」は都道府県によって大きく異なる。鳥取県は、(審査委員の人選を含めた)その選定過程、ネット販売を含むという販売規制の広さから、「危険度」が他の都道府県にと比べても高いと言えそう。(東京都も影響範囲が広いが、その分審査委員の構成はかなり慎重になっている。それでも問題が指摘されているという現状に目を向けるべきであろう。)
ポイント2 指定にあたっては要件があり、恣意的にやっているわけではない
これも、制度の説明としては正しい。問題は、判定される図書の選定過程だ。残念ながら、鳥取県の有害図書の選定過程で、何冊の本が審査され、そのうち何冊の本が有害図書指定されるに至ったかの情報は公開されていない。これが例えば、10冊中10冊が指定されているとしたらどうか。年間数万冊が出版される出版業界において、10冊中10冊が指定されるとしたら、「有識者」の審査は形骸化しているとしか言えず、実際に指定しているのは、会議の場に指定候補を持ってくる職員ということになるだろう。
「有識者」個人個人が自らの良心に従って判断をしていることに疑いはないが、その「有識者」の構成もバイアスになりうる。例えば、5人中5人が教育関係者と保護者で構成されていたら、それは公平な会議とは言えないだろう。出版業界の利害の代表者、表現の自由について一定の知見を持つ法曹もしくは学識者が最低でも定数の3分の1(鳥取県では、委員の3分の2の賛成で有害図書の指定が決まる)を占めている必要があるのではないか。
ポイント3 今回の指定の妥当性
これはこれから判断過程の詳細が出てくるという話なので、詳しくはそれを待ちたい。ただ、論点が少しズレている感は否めない。知事自身が引用している、鳥取県青少年健全育成条例の規定は、「(2) 青少年の粗暴性又は残虐性を誘発し、又は助長し、その健全な成長を阻害するおそれのあるもの」というものである。ボーガン的なもの(ただし威力はボーガンには及ばない)を作るとか、特定の商品が買える場所の指南が、粗暴性又は残虐性を誘発し、又は助長すると言えるのかについては、もう一歩踏み込んだ論証が必要だろう。ただ「アブナイ情報(に見えるもの)」に触れさせたくないというだけでは、上記の要件に当てはまらない。
ポイント4 情報公開について
この点に関しては一番進展が期待できそうだと思う。情報公開の不十分さについてはある程度県側も問題を認めているように見える。審議過程の透明性の強化に期待したい。この問題を本件で終わらせないことが大事で、本件の説明で出てくるような資料は、今後の全ての有害図書指定について、きちんと県の方で記録を残して貰う必要がある。きちんと記録に残るということが、審査を行う委員にとってもよいプレッシャーになるだろう。
ポイント5 青少年への販売規制について
鳥取県青少年健全育成条例の問題を論じるにあたって、最大の論点となるのがここだろう。鳥取県側は、「販売停止という強い手段をとったのはAmazonの勝手」であり、「うちは子供達に売るなとしか言っていない」と主張する。これは、自分が鳥取県側だったとしてもそう主張するだろうという程度には妥当な主張である。
ただ、一旦立ち止まって考えてみよう。Amazonが、なるべく出版業界に影響が少ない形で鳥取県の青少年に当該図書を売るとしたら、何ができるか。鳥取県からのアクセスだけを遮断するというのが様々な意味で現実的ではない。できるとすれば、当該図書を全国的にR18指定にするほかないだろう(同じような方法で販売を継続しているネット書店もいくつかある)。しかし、この方法もまた問題である。なぜなら、当該図書を有害図書指定していない他の都道府県の青少年も、当該図書をネットで購入できなくなってしまうからだ。具体的にどのような方法であれば「鳥取県の青少年」以外の人々の知る権利を侵害することなく販売規制ができるのか、鳥取県側が検討した形跡はほとんど見られない。ただただ「青少年に売るな」を繰り返すだけでは、十分に表現の自由に配慮しているとは言いがたい。
ポイント6 条例改正の経緯について
鳥取県青少年健全育成条例の問題の根源はここではないかと思う。個人的にも、ボウガンの販売に関しては、ネットを含めたあらゆる入手手段を遮断すること一定の理由があると思う。そもそも、クロスボウの所持は大人であっても現在では禁止されている。そのネット販売規制を、安易に有害図書にまで広げてしまったことが最大の問題なのである。
ポイント7 まとめ(子どもたちに売るな?)
知事は、会見中何度も「子どもたちに」という言葉を重ねている。ただ、これはちょっとズルいと思う。これは全国の青少年健全育成条例に言えることだが、18歳未満の者という大雑把な括りをしていることについても、妥当性を問われるべきであろう。17歳の高校生が、ア理科を読んで「こんなこともできるのか」とワクワクする、あるいは、アリエナイ医学事典を読んで、医学の暗い歴史について学ぶことが、本当に青少年の健全な育成を害するといえるのか、今一度ゼロから考え直すべきではないか。
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