本物のアートを身近に置く暮らしを
最初の記事に書いた通り、私はエミール・ガレの作品に強く惹かれていました。それは今も変わりません。
エミール・ガレがアール・ヌーボーの作品に至った背景にはイギリス人ウィリアム・モリスのアート・アンド・クラフト運動(Arts and crafts movement)からの影響があります。
アート・アンド・クラフト運動は19世紀後半モリスが、産業革命で機械化され質が低下した大量生産品に対する反発として生まれた運動です。彼は、「生活と美術の統合」を主張して、自然からのインスピレーション、細密な装飾、手工芸の技術を重んじたデザインを打ち出しました。
その運動に触発され、また当時日本からフランスに派遣されていた画家であり植物学者の高島北海から直接影響を受けて、エミール・ガレの素晴らしいガラスは生まれています。
それから1世紀以上も経った現代は大量生産品でないものを見つける方が難しくなるほどに大量生産は進みました。
私たちの生活は自然からどんどんと離れ、生活の隅々まで機械化され、「喋る機械」に囲まれています。今の生活の中にある物たちは規格化され、標準化されています。
でも、私たち人間は元々生物であり、自然から生まれています。
それなのに、どんどん自然から遠のいて暮らしているとどうなるか?といえば、私は根本的なところで枯渇感が生まれているのではないか、と思うのです。
ちょっと話は飛びますが、アートとはなんでしょうか?
いつの頃からか、アートは高額な値がつけられるようになりました。
評価が固まった作家の作品の値段は上がり続けています。アートそのものの魅力以上に資産価値があるからでしょう。
かの有名な北斎の大波に富士山<神奈川沖浪裏>はニューヨークのクリスティーズで2023年3月のオークションで280万ドルで落とされたそうです。
今の日本円換算で4億円越えです。
人気は関係するとしてもアートの多くは資産価値として高値がついているのだと思います。
その結果か原因か、マネーロンダリングに使われることも有名です。
名のあるアートは美術館に入る以外は一部のお金が余っている人々のものになってしまいました。
でも、元々は北斎の富嶽百景も含めて、浮世絵は江戸の庶民のために作られたものでした。
お蕎麦が16文だった時代に浮世絵は20文くらいだったそうです。
4億円という値がどうなのかは置いても、現実として美術価値の大変高いものを日常的に愛でていた事実はあるわけです。
北斎や広重など素晴らしい画家が描き、一流の職人が分業で版画に仕上げた浮世絵は今見ても特別な美しさを保っています。
アートは生きているからこそ劣化をしないのです。
でも今私たちの身の回りにあるものは、生きていない「物」ばかりです。
アートと呼ばれるものは美術展の非日常の中にしかありません。
最初に取り上げたアートアンドクラフト運動の時代の大量生産品は大量生産の始まった頃故の粗悪品や醜いものが多く、それがその運動の推進力になったということのようです。
現代の私たちの身の回りの大量生産品は、むしろ高度に洗練され、昔の粗悪品とは比べ物にならない高いレベルだと思います。
特にこの日本では見かけは必ずしも劣っていない物に囲まれています。
でも、それらからは生命感、とか、自然感、というものは削ぎ落とされています。大量生産の必然としての規格化の結果です。私たち人間自体が規格の中に閉じ込められているといっても過言ではないと思うのです。
本来のアートは、そういう規格品の中にはない「物」を超えたところにその存在価値があると思っています。資産価値ではなく。
もう一度日常の中にアートを!取り戻せないだろうか?
それが私が長年考え続けてきたことです。
これまでに2回行動に移したことがあります。
その話はまた別の機会に書くとして、今回は三度目、この人生最後の試みになると思います。
アートは「大量生産の物」にはない、生命感や自然とつなぐメディアだと私は思います。
私の作るアートにどれだけその力があるかはわかりません。
(私のガラス作品は少なくとも火という自然の中から生まれます。劣化をしないのもアートとしての資格を持っていると自負しています。)
私の作品でなくとも、庶民でも手が届くアートは世にたくさんあります。日本には優秀な工芸家がたくさんいます。売れない絵描きも私を含めたくさんいて、その中には質の高い作品を作る人も沢山います。売れないが故、値段もそれほど高くはありません。
日本全国主要な都市にはギャラリーもたくさんあります。
人によって美意識も様々ですし、相性があるでしょう。
もし、一つ自分で持ってみようと思ったなら、きっと良い出会いがあると思います。
ここでなくても、もしピンと来るアートに出会ったら一度アートを購入してみてください。
きっとあなたの日常生活に新しい風が吹くようになると思います。
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