ずっと続くような黒の中を 一周すれば黄色に逢える気がして 一周し終わる寸前に 後ろに黄色の気配を感じだから 黄色に逢うために振り返らずもう一周してみる 前の記事 一覧へ 次の記事
皮膚から心地好く入る朝日を少し過ぎた太陽。 互いに名前を知らないふたり。 片眼を瞬きながら光に向かうと少しだけ本当の命がわかる。 その光の中で互いの隔たりの皮膚が一瞬消える 名前を知らない二人は全ての中に包まれ全てを中に包む 黄金に光る草 刻んだ折り紙が舞うように 放たれた風 黒を圧倒する黄色 それら全てが優しい終わりと共に始まりを祝福する 少し眩しそうに目を薄めるふたり ひとつになった皮膚。 真空の中に止まっていた 物語がまた動き始めた
お気に入りの浴衣に 前髪を上げて 少し汗ばんだ額をハンカチで拭い りんご飴を片手に 水風船の彩りに目を奪われている少女 この一瞬のために世界はここにある
この髪も この瞳も この声も この名前も この心も 制服ではしゃいでみせる姿も 家でごはんを食べる姿も わたしではない 漆黒に浮かぶ輝き それをふと見ている何か その両方がわたし
金色に光る一面の中 少し短くなった黒髪の襟足 少女のように少年のように 宝石を見つめるような目で青いバッタを追いかけるあなた 遠い思い出のような 未来への夢のような 1枚の絵のような あたたかいオレンジ色の 完璧な世界 どこからやって来たのかもわからないその完璧な世界 それがわたしの身体中をあたため 命としてここにあることに 一瞬の安らぎをくれる
端から端まで細かすぎるほどに行き渡る脳髄に 視界を砕くほどの光が走って 内部も外部も一瞬にして粉々にしてしまうような 予期出来ないこのわけのわからぬものは 言語という行儀の良い記号に圧し込められていく度に 圧倒的な生命力を獲得し こちらをしぶとく静視する この龍のような新生物は 敵でもなく味方でもなく 圧倒的にただそこにある
鼓膜が破れる寸前で鈍く保ち続けるこのめまいのする音を止めてください 警報のサイレンなのか 目覚ましのアラームなのか 生まれた瞬間に忘れてしまいました なんのために鳴り続けるのか わたしが消えれば消えてくれるのか それが私自身なのか もうわかりたくないし わかる力もありません 心地好い音などもう探さないから このめまいのする音を止めてください
頑張って小さく背伸びをし 寝起きに取った 手鏡に写る顔の 頬にあらわれた薄い紅の てんてんが 頑張ってした小さな背伸びを吹き飛ばし 着るのを楽しみにしていたワンピースをあきらめて うつむき加減で前髪を下ろす一人の少女 全ての天使達がひとつの光になり そっと少女の肩に降り立った
あの人のアイライン 緑に差し込む薄い光 反射する花の赤 体内を透かす風 黒に浮かぶ黄色 足の先から流れ出す息 あの人のアイラインから今が動く
赤が天まで吹き上げれば 全てが終わって 元に戻る気もするけど 右上に見える微かな黄色に 古くから住んでいる 小さな羽が 初めて地上に降り立つ時 終わらないまま始まるのがわかるから 生暖かさを感じて そこに立ち続ける
しっぽを触ると 本気で噛みついてくる チャーちゃん 何もしてないのに 突然本気で噛みついてくる チャーちゃん 顔面をまるごと噛みつき返したら びっくりして 放心状態になって 何かリセットされたみたいに おとなしく寝るチャーちゃん お互い意味がわからない
色んな人がいて いろんなことがあって 色んな場所に行って また帰って来て 誰もいなくて 何もなくて どこにも行ってなくて 何も起きてなくて 何も無く全てがあって 何も変わらずそのままだったと その知りすぎた退屈を愛するための旅なのかもしれない