【毎日短編台本-2月6日】 ひとりの波 (1人劇)
基本情報
タイトル-ひとりの波
作-臼井智希
ジャンル-1人劇、モノローグ
目安時間-5分以下
登場人物
女
本編
女が夕暮れの砂浜を歩いている。女は、ちいさな鞄を肩から下げている。波の音。夕暮れは、語りと共に少しずつ黒くなっていく。
女「あぁ、海の底に生きたい。
私ね、人魚姫のお話が大好きなんです。ちっちゃい頃、人魚姫になりたいなーって、思ってました。でも、ヒト、なんですよね、私。
で、人魚姫って、生まれた時から人魚なわけじゃないですか。それがしんどくて。人魚に生まれなきゃ人魚姫にはなれないって。やだなぁって思って。でも、逆なんじゃないかって思ったんです。
人魚姫のお話って、地上を知らない人魚姫が地上に出て、そこにはお城があって、王子様がいてってなってるじゃないですか。でも、私は地上にいる。それで、私は海の底を知らないんですよ。だから、海の底にはお城があって、王子様がいても良いんじゃないかなって、思うんですよ。なにも伝わらないけど、思うんですよ。海の中に王子様がいるのが良いなって。
私がここにいたら、お城を抜け出せた王子様が会いに来てくれないかな、とか。一回でいいから会って触ってみたいなって、あの、思いません?きっと肌は冷たいのかな、とか」
鞄から手紙を取り出す。
女「でね、手紙。書いてみたんですよ。あぁ!投げ込んだりするつもりじゃないですよ。破けちゃうだけだし。海にも悪いし。なにもしないんですよ。でも、書いてみたかったんですよ。私、話すの苦手なんですけど。でも、言葉は好きで。だから多分、手紙の方がいい、気がするんですよ。考えてることとか、想い?とか、複雑で、とっさに良い言葉にするの、難しいじゃないですか。だから、会話って、早いなって思うんですよ。考えて、閉じて鍵かける時間があるから、書くの好きなんです。
なんで、波があるんでしょうね。海好きだし。でも波の音は少し嫌いです」
鞄からイヤホンを取り出してつける。
女「なんか、おんなじような音じゃないですか。単純、っていうか。なんか、嫌なんですよ。音楽って、いろんな音鳴ってて、なんか1人じゃない!って感じるんですけど、波はひとりな気がします」
あたりはもう真っ黒になっている。
女「あー、日、落ちちゃいましたね。日が落ちると、海と空がくっつくのが好きです。どっちも黒くなるから。なんか、境目無くなりますよね。王子様も、この時は空の方にも行けたり、したらいいなって思いません?
また、明日来ます」
女、ハケる。自転車の音。
終幕。
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