小夜
小学生の時に書いた作文や詩を今の感想をまじえながら紹介するシリーズです。
体癖小説も書きました。
読書感想文や映画感想文などなど。
日常生活についてのいろいろなエッセイなど。
三題噺小説などをまとめてみました。
「すっごく、いい演奏だったよ!お母さん、泣いちゃったよ、ゆう子、練習がんばったんだね。よくがんばった!ゆう子、すごいね!大きくなったね !」
わたしは、今まで感じたことのない状態になった。これが、感動して涙する、というものなのだろうか。
「お母さんに、音楽発表会があるって、言ってなかったんだけど、言ってみる」
「じゃあ、いきますよ、気付いたことを、意識しながらね。・・・ワン、ツー、スリー、フォー」
わたしは、ゆう子の声が、前より明るくなったと感じた。人間は、こんな風に、明るくなってゆくのだろうか。
先生はしばらく録音の演奏を聴いてから、 「この演奏、全員で聴きましょう。それでみんなにも、どうしたらもっと楽しくて良い演奏になるか、聞いてみようと思うわ。今日でふたりが放課後に残って練習するのは、いったんおしまいにしましょう」
「ゆう子ちゃん、どうかしら?これで少しは演奏しやすくなったと思うんだけど……」
授業中も、ぼーっとしたり、ほおづえをついて先生の話などまるで聞いていない風だったのに、今日はきちんとノートを取っているようだった。 2時間目が終わったあと、れい子は教室を出ていく先生をおいかけて、
「じゃあ明日、先生に言っておくね」 「うん、よろしくね。ありがとう。……少しは気分が晴れた…?」
「れい子のお母さんはいいなぁ、やさしくって」 「どこが?!」
「小学生が使うには、けっこう本格的なものだったわね」
「一度、練習見に行こうかしら」 お母さんがそう言うと、 「あたしも先生に同じ提案したよ、そしたら、先生も忙しくないなら見てほしいって。でもだいぶ気使ってたよ、忙しいんじゃないかって」 ゆう子が、ひとくちジュースを飲んだ。
「はぁ?そんなわけないでしょう?!バカじゃないの?」 「さっき先生に言ったことは、うそなのね。わたしにちゃんと謝るって言ったくせに!うそつき!!先生の前ではいい子ぶっちゃって!」
ゆう子はそそくさと帰り支度をしていた。れい子は今日こそ、ゆう子との話のきっかけをつかもうとしていた。 学校の玄関を出ると、ゆう子がいた。まるで立ちはだかるようだった。
「先生、リコーダーパートも、もっと思い切り吹いてもいいですか?」 「そうね!みなさん、もう演奏は出来るようになっているから、そうね……踊るような感じで、演奏してみましょうか!じゃあ昨日は4分音符=116だったから、今日は4分=120にしてみましょう」
「……ゆう子さん、練習あまり楽しくない?昨日、れい子さんがびっくりしてすぐに家に持って帰ってもとに戻そうとしてくれたんだけど、今日、それもふくめて、昨日のことも正直に話してくれたの。どうしてこんなことしたのか、ゆう子さんの話も聞いて、もっと音楽を楽しめるように、先生も直した方がいい部分があれば直したいのだけど…」