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位置情報ゲームのネットロア「テネト」を遊んでみた



位置情報ゲームのネットロアってなんだよ

タイトルを読んでそう思われた方もいるかもしれない。
「つねにすでに」というサイトをご存じだろうか。

 一言で言うと、インターネットの怖い話を集めたホラーサイトである。
引き返さないで話を聞いてほしい。サイトを開いてびっくりするような絶叫はない。目が痛くなるようなフラッシュもないし、理解不能な毒電波もない。露悪的なグロも、まあ多分あんまりない。一部気を付けるべき音声はあるが、事前に警告はきちんとしてくれる。トップページの雰囲気そのままに、物語は展開していく。
 どの話も非常にクオリティが高く、それでいて様々なアプローチが試みられ、完結まで読者を楽しませ続けた良質なホラーサイトである。

 そんな話の中にOracle / 聖地巡礼というものがある。

 内容を簡単に言えば、位置情報ゲームを題材にしたホラー短編である。
架空の位置情報ゲーム、「theopneustos / テオプネウストス (以下: テネト)」
を舞台にした話となる。地図ではなく画像で行うGeoGuessrと言えばわかりやすいだろうか。
 気になった人は、ぜひ本編を読んでみてほしい。ほぼすべての話が独立しているので、いきなりここだけを読んでも問題はない。ただし、やや閲覧注意の画像がある点だけは、注意してほしい。
 とにかく、この話を読んだ読者の何人かはこう思った。
「これ、実際に遊べるのでは」
と。

実際に遊んでみた

テネトのルールをおさらいしよう。

  • 出題者から「Stage / おだい」となる写真が投稿される。

  • プレイヤーは、その写真の撮影場所を画像中のヒントから特定して同じ構図の写真を撮影する。

  • 誰かひとりでも正しく撮影すれば、晴れてその Stage はクリアとなり、ま   た次の Stage が開始される。

その基本ルールに付随する要素として

  • その写真の位置情報がどこであるかを考える「考察勢」

  • 実際にその場所へ赴いて写真を撮影する「遠征勢」

に分かれ、 プレイヤー同士の相互協力のもとにゲームが進んでいくこともある。

以上が「原作」テネトのルールである。なぜ原作と強調したかというと、実際に遊んでみると不都合な点、変えざるをえない点がいくつかあったからである。それらの要素については後述する。

ひとまず以下の画像を用いて、実際のゲームの流れを説明しよう。

例題

これだけは、近所に住んでいるでもない限り、この画像がどこで撮られたものなのかを知ることはできない。
ではどうするかと言えば、画像検索にかける。
画像を保存して検索サイトにかけても良し、Discord内で遊ぶのであれば、表示された画像を右クリックすることで直接googleレンズで検索することもできる。

Discord内で検索した例

これで、この場所が氷川公園であるということが判明した。もう少し詳しく調べれば、東京メトロ千代田線の赤坂駅から徒歩数分の所にあるという情報も手に入るだろう。後はこれをできるだけ近い構図で撮影すればゲームクリアとなる。
次のステージ以降も基本はこれと同じ流れが繰り返されていく。

そうやって何度も遊んでみた感想を書き連ねておく。

  • シンプルに面白い
     作中ではホラーに転用されてしまったとはいえ、根幹の部分は位置情報ゲームそのものである。破綻している要素もなく、製作者が舞台装置としてご都合主義的に作られたゲームではないと言えるだろう。ヒントを手掛かりに正解を導き出すというクイズとしての面白さは、決して損なわれてはいない。

  • ゲームバランスは取れている
     意外に思われるかもしれないが、結構バランスがいい。
    手掛かりとなるものが写真や画像1枚しかないというのはかなり厳しいようだが、検索手段の方に一切の制限はない。なので気になったものを片っ端から検索エンジンにかけて行けば、一枚の画像からでもかなりの情報を得られるケースは多い。もちろん、地理的な要素や建築構造物から推察していく手法も有効である。

  • 参加のハードルが低い
     とても大事な要素である。画像検索はやり方さえ知っていれば誰でもどんなブラウザでもすることができる。どんなゲームであっても敷居の低さ、窓口の広さは大事になってくる。その点で言えばこのゲームは非常に理想的と言える。
     出題側から見ても、参加人数が増えれば増えるほどプレイヤー側が有利になっていくので、よりスムーズな進行をすることもできるようになる。

一方で欠点や改善点も存在している。
基本的に検索エンジンに頼る以外のすべては人力なので、進行役でもある出題者の負担がやや大きいと言える。

  • 出題側の難易度が高い
     出題が出せるのは画像一枚だけなので、もしもプレイヤーが画像から情報を得ることができなかった場合は詰みとなる。かといって、あからさまなヒントを出すと画像検索で完全一致を出されて推理する間もなく解かれてしまう。その塩梅というものがかなり難しい。
     さらに、使用する画像は基本的に自分で撮ってきたものに限られる。
    ネットで拾ってきた画像を安直に使用するのは著作権的な問題もある。なによりその画像そのものがインターネットにあるものなので、画像検索に引っかかりやすいという問題が発生してしまう。
     その問題のさらなる派生として、自分で撮ってきた画像はどうしても場所や地域が偏るという問題が発生することになる。これは後述する無視できないリスクにも直結するので、出題する人は本当に慎重に動いてほしい。

  • 難易度調整が難しい
     これは個人的には欠点ではないと思っているのだが、難易度の調整というものがほぼ不可能である。
    出題者が意識すらしていなかった要素をヒントに解いてくる、逆にこれは拾えるだろうという要素に気が付かないというのは日常茶飯事。絶妙な塩梅の問題を作っても、ここに行ったことがあるという人が一人でもいればすべてのヒントを無視して速攻で解かれる等、想定通りに行くケースはほぼない。
     個人的にはそういったアクシデント的な要素も楽しむゲームだと思っているのだが、原作のように段階的に難易度を上げていくのはそれこそ怪異でもなければ不可能だろう。

  • 遠征勢は不要である
     根幹の要素を否定して申し訳ないが、実際に遊ぶのであれば現地まで行って撮影するというルールは廃止すべきだろう。
    考察勢のうち、撮影に行けるほど画像の近くに住んでいる人はごくわずかだろう。仮に近くに住んでいたとしても、深夜に撮影してくるわけにもいかない。
     するとどうなるか。場所の特定がされてから撮影が済んでクリアになるまでの間、とても暇になるのである。「つねにすでに」本家でも似たような状況が生まれたことはある。

その際は、果たしてこれが正解なのかという再検証や、本当に現地に突撃すべきかという倫理に関する議論が盛んに行われていた。
 しかし、テネトに限れば誰が見ても正解か否かははっきりしており再検証が必要になることは稀である。そもそも現地に行かないとクリアできないという点から、待っている間に議論すべき内容もない。そこで流れが途絶えてしまう。
考察勢は早く次の問題を解きたいのに、クリアするまで次の問題が出ることはない。そうなるとただテンポが悪いだけになってしまう。
 もちろん、現地で撮影してくるという行為が楽しいものであるという点は否定しない。しかし、これもまた非常にリスクの高い行為であり、後述の理由と合わせてやるべきではないと結論付けた。

テネトを行うリスク

 位置情報を扱うという性質上、欠点という言葉では言い表せない大きなリスクをはらんでいることを忘れてはならないだろう。
とても楽しいゲームではあるのだが、だからこそ細心の注意を払っておきたい。

  • 位置情報は必ず特定される
     ゲームである以上、いつか必ずクリアされることになる。それはこの画像をどこで撮ってきたのかが明らかにされるということでもある。
    例えばあなたが自宅の近くにある小さな公園を出題したとする。あるいは職場や学校でもいい。
    無事に回答されたとして、プレイヤーはこう思うだろう。
    「この人はなぜこんな場所を出題したのだろうか」
    観光名所や利便性の良いターミナル駅付近ならともかく、特定の人しか用のない場所の写真を上げれば、そこがその人にとって身近な場所であると推理されてもおかしくはないだろう。プレイヤーは一枚の画像から情報を推理し、特定する技能に長けた人間である。悪意はなくても推測される可能性は常にある。
    または旅行中のホテルでついさっき撮ってきた写真を上げたらどうなるだろう。
    それはあなたの現在地であり、今自宅にはいないという情報である。ホテルからの景色を上げようものなら、今いる部屋番号まで特定されるだろう。旅行写真はテネトの問題としてとても優れているが、それを出題するのは家に帰ってからにしたい。

  • 現地に行くというリスク
     出題者は、任意の場所に数日以内に誰かがやってくるという状況を作り出すことができる。対してプレイヤーは、相手はネット上で会話をした人であるというよくない安心感を持っていることだろう。
    トラブルに発展する要素満載である。あまりに出題者の善意に頼りすぎるという状況は好ましいとは言えない。
     それ以外にも現地に行くべきでない理由がある。
    例えば大声で騒ぎ立てる、周囲を踏み荒らす、ごみを捨てていく、人の所有物を損壊させる、そんな全国の観光地で起きているような迷惑・危険行為をしてしまうテネトプレイヤーが出る可能性を否定することはできない。
     この問題は実は出題側にも言えることである。
    いい角度で撮影しようとしたら、地名の入った看板があったのでどかした。構図の問題で木が邪魔だったので、勝手に枝を切り落とした。私有地に無断で入って撮影した。そういうことも起こりうる。
     そんな馬鹿なことをする人間は一部だけだと思う人もいるだろう。自分はそんなに浮かれないと反論する人もいるかもしれない。
    だがよく考えてほしい。テネトのために写真を撮るという行為、それ自体がすでに普段ならやらないけど今はやっていることに他ならない。
    現地の人の迷惑にならないというのは、当たり前ではあるのだが絶対に心がけておきたい。

リアルテネトのルール(改変後)

 なんだかテネトの恐ろしいところばかり書いてしまった。
しかし、今現在もより楽しくできるだけ安全に遊ぶために、ユーザーの間で自然発生的にルールが変わっていっている。
まるで「より物語として据わりがいい方に、ロア自体が改変されていった」のと瓜二つのようにも見えるが、そこに言及すると大きく話が逸れるので今回は触れないでおく。

現在、主流になっているテネトのルールをここに記す。
気を付けてほしいのは実際の運用に置いてルールは厳密に決まっているわけではないし、文章化もされていないということ。
あくまで現時点、2024年8月のものとなっているので、これからも変わってゆくかもしれないという二点である。
太字になっているところは、原作から変更・追加されている部分である。

  • 出題者から「Stage / おだい」となる写真が投稿される。

  • プレイヤーは、その写真の撮影場所を画像中のヒントから特定してその座標や建物の名前を答える。撮影をしてくる必要はない。

  • 誰かひとりでも正しく回答すれば、晴れてその Stage はクリアとなる。必ずしも次のStageに行くことはなく、単発で終わることも多い。

  • あまりに回答が出ない、あるいは誤答が多かった場合は、出題者から追加でヒントが出されることがある。またはプレイヤー側から問題に対する簡易的な質問をすることもある。

ずいぶんと加筆が多いが、基本的なルール自体にそれほど変化はない。
改変の多くは、よりカジュアルに楽しむためのものになっている。
 ヒントは主に詰み防止のためのルールである。
前述した通り、テネトの難易度を事前に知ることは困難である。ヒントの提示やプレイヤーからの質問に答えることができるようになれば、お互いに難易度の調整ができるようになる利点がある。
しかし、だからといってあんまりにもヒントや質問ばかりになると、今度はゲーム性が崩壊してウミガメのスープと変わらないゲームになってしまう。その塩梅にルールはなく、現状は出題者とプレイヤーに委ねられている。
 遠征勢は現在該当するプレイヤーはいない。上記のリスクの高さもあるが、現時点でのテネトプレイヤーが全国をカバーできるほど数がいないというのも大きい。過去に出題された問題の近場に寄ったので、ついでに撮影してくる物好きなプレイヤーが稀にいる程度だろうか。
 住所バレのリスクに関しては、現時点ではルールによる明確な解決方法は出ていない。
自分が日常的に行動する地域やその周辺は避ける、特定の場所に偏らないというのを徹底する自衛的な手法が主になっている。
googleマップのストリートビュー機能を用いて出題するというのが一つの合理的な解決方法ではあるのだが、現状は自分で撮ってきた画像で出題したいというプレイヤーの方が多数派になっている。

変則テネト

 元のルールがシンプル故に、アレンジが効きやすいとも言えるだろう。しかし、アレンジルールに関してはほとんど研究が進んでおらず、未知の領域の話である。
そんな中でも、お題に制限をかけることで原作とほぼ同じルールで行うことができるとされるものもある。
 ここでは現在のルールでは抹消されてしまった、遠征勢が活躍できるであろうものを二つほどピックアップしておく。

  • ラーメンテネト
     出題画像をラーメンに限定したテネト。プレイヤーはどこの店かを特定し、同じラーメンをトッピングやサイドメニューまで再現し注文、撮影、完食する。
     リアルテネトの大きな問題である、現地に行くというリスクをできる限り低減したテネトであると言える。出題者もプレイヤーもラーメンを食べに来たただの客に過ぎず、現地に行っても安全に過ごすことができる。
     考察よりも遠征に重きを置いたテネトであると言えよう。
    お店によっては撮影のルールが決まっていることもあるので、確認は忘れずに。

  • ゲームテネト
     出題者はゲーム画面のスクショを上げ、プレイヤーはそれが何のゲームであるか、どこのマップであるかを推測し、同じスクショを上げることを目的とする。オープンワールド、あるいはオープンワールド風ゲームであれば本家に近い遊び方もできる、かもしれない。
     考察・遠征どちらも要求されるテネトであるが、そのゲームを持っていないとほぼ参加できない敷居の高さが難点と言える。

おわりに

 長々と書いてきたが、テネトというゲームは面白く、誰でも気軽に参加できるゲームである、というのが筆者の所感である。面白くなければ、そもそもリスクや危険性の考察をする必要もない。
 もちろんそのリスクを軽視すべきではない。出題には細心の注意を払う必要があるし、プレイヤーには絶対に現地へ行くべきでない。逆に言うならばそこさえしっかりしていれば、とても自由に遊ぶことができるだろう。

これは少し難しいテストです。

これは「謎解き」ではありません。

情報の扱いに長けている少数の方を探しています。

つねにすでにFindMaryより引用

情報を扱うとは、ただ活用することだけを指さない。
隠して守るということも、れっきとした情報の扱い方である。
存在しない位置情報ゲームのネットロア「テネト」。
情報の扱いに長けた人と、ぜひ遊んでみてほしい。


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