「ノンフィクションならではの説得力がある」〜舞台『NO TRAVEL, NO LIFE』〜須田誠×渡辺和貴×吉田武寛 座談会<前編>
写真集としては異例の25,000部を突破したフォトエッセイ『NO TRAVEL, NO LIFE』(原作:須田誠)が、2023年5月に4度目の舞台化を果たします。
世界中を放浪しながら自由を探し求める旅人・須田誠を主人公とし、総勢6名のキャストが一度も舞台から捌けずに様々な役を演じ分けながら作品世界を作り上げる本作。
程なく稽古が始まるタイミングで、原作者の写真家・須田誠さん、主演の須田誠役・渡辺和貴さん、脚本&演出・吉田武寛さんの3人に話を聞くことができました。
この座談会の模様を前編・後編に分けてお届けしていきます。
前編では本作との出会いから、須田さんの旅の思い出を交えつつ、アーティストならではの感覚を深堀りしていきました。
舞台『NO TRAVEL, NO LIFE』との出会い
ーー2016年に初めて舞台化するとなったとき、脚本・演出を務めた吉田さんはどんな印象を受けましたか?
吉田:実は僕、小宮山さん(プロデューサー)と初めてちゃんと作った舞台がこの作品なんです。元々は別の作・演出家に話を持ちかけたそうなんですが「写真集の舞台化なんてどうやればいいかわからない」という理由で断られたそうで。
一同:(笑)。
吉田:そのあと僕のところに話が来て、小宮山さんが本当にやりたい企画なんだろうなとすごく感じたんですね。原作は本屋で見掛けて手に取っていたこともあったので「あ、あの写真集か」とすぐわかりました。
当時の僕はまだ会社員をしていて、演劇で食べていけるようになるかどうかと迷っていた時期だったんです。だからこの本に後押しされて会社を辞めたようなものなので、すごく印象深かったですね。
須田:そうだったんですね! でもその物語、ちょっと出来すぎじゃないですか?(笑)
ーー須田さんは初めて舞台化の話を聞いたとき、どう感じましたか?
須田:ついにキタな、と(笑)。僕は写真を撮って文章も書く人間なんだけど、それが舞台という違う表現になることが全く頭の中になかったんです。だから全然想像もできなくて。でも面白いなとは思いました。
ーー渡辺さんは、2019年の朗読劇『NO TRAVEL, NO LIFE』にご出演されたのが作品との出会いですよね。
渡辺:はい。この作品は舞台として上演されたことがあると聞いていたので、舞台でもやってみたいなと思っていたんです。それもあって今回のお話をいただいたので、すぐに「やりたいです!」と。僕、役者という仕事を通していろんな人物になれたり、いろんな仕事ができるのがすごく楽しいんです。この作品ではさらに、須田さんを通して世界中の国に行くことができるので楽しみです。
そういえばこの前、吉田さんと一緒に占いに行ったんですよ。そこで占い師さんに「海外の仕事をしなさい。とにかく旅に出なさい」とすっごく言われたんです! それとほぼ同じタイミングでこの作品の出演が決まったので、旅ってこのことなのかもしれないなあってびっくりしました(笑)。
ーーそれも含めて吉田さんの演出ですか?(笑)
渡辺:え〜!? 僕がお店探して連れて行ったのに〜(笑)。
吉田:いやいや(笑)。
須田:流石だなあ吉田さん(笑)。
ーー吉田さんと渡辺さん、お二人で占いに行くなんて仲良しなんですね。確か同い年でしたよね。
須田:へえ〜。何歳なんですか?
吉田:二人とも37歳です。
須田:僕が旅に出たのは34歳。2年くらいで帰ってきたので、ちょうど37歳くらいだったかな。この本が僕にとってのデビュー作なんですが、出版したのは47歳なのでとっても遅いんですよ。本当は20歳くらいでデビューしていたかったなあ(笑)。
「この本に書かれている言葉は全部、旅の最中に降りてきたものなんですよ(須田)」
ーー放浪の旅で世界中を巡った須田さんですが、好きな国はありますか?
須田:好きな国を聞かれたとき、僕はこれまで「日本」と答えていたんです。ご飯も美味しいですし、何より言葉が通じますから。日本を除けばキューバだと答えますね。すごく人が温かいんですよ。
渡辺:僕、須田さんに聞いてみたいことがあるんです。いろんな国を周った中で「この国に住んでみたいな」と思うことってなかったんですか?
須田:ありましたよ。ベトナムで恋に落ちて。
渡辺:おお〜!
吉田:その話、台本にもあるんですよ。
須田:ベトナムに住もうかなと思った時期はあるんですが、やっぱり時代もあってね・・・・・・。1994年以前のベトナムはASEANに参加する前で、まだ資本主義が入っていない時代だったんです。だから当時のベトナムは「愛こそが全て」だとみんなが言っているような純粋な国だったんですよ。でも、94年以降は段々と治安が悪くなっちゃってねえ。
ーー本作が2016年から繰り返し舞台化されているのは、作品のメッセージ性が強いからこそなんでしょうね。
吉田:そうですね。この作品は舞台でやるのが醍醐味なので、今回久しぶりに舞台化できてすごく嬉しいんです。
渡辺:写真集から舞台化して何度も上演されるって、すごいことですよね。再演ってあるようでなかなかないんですよ。僕は朗読劇に出演したときに、須田さんの言葉の強さを感じました。舞台やドラマって基本的にフィクションが多いじゃないですか。でもこの作品は、須田さん自身の足でしっかり辿っていったノンフィクションならではの説得力があるんです。
須田:この本に書かれている言葉は全部、旅の最中に降りてきたものなんですよ。
吉田:旅をしながらメモを取っていたんですか?
須田:そうです。紙切れの端っこにササッとメモしたり、 チラシの隅に書き留めたり。この本にも書かれている「真っ暗な夢の中、誰かが、ポッとランタンに灯をともしてくれた。誰だろうと思ったら、それは自分自身だった」じゃないですけど、そんな風にポッと浮かんでくる感じでした。
ーー自然とアイディアが浮かんでくるんですね。それは旅に出る前からですか?
須田:どうだったかなあ。僕の人生は最初に音楽があって、次に旅があって、今は写真の時代になっているんです。もちろん旅が僕の人生の中でのターニングポイントだったんですけど、脳みそが開くきっかけは音楽の影響も強いんじゃないかなと思います。
”脳みそが開く”感覚
ーー”脳みそが開く”というのは、音楽・旅・写真のそれぞれで違う感覚なんですか?
須田:違いますね。でも繋がってはいます。ちょっと重なっていたり、逆に飛び越えたりも。いろんな要素が影響し合ってひとつになっていく感じですね。旅はコロナ禍もあって最近行けていないんですが、今でもギターを弾いて音楽はやっています。
渡辺:海外で言葉が通じなくても、音楽ができるとそれだけで仲良くなれそうですよね。
須田:旅をしているとき、僕は必ずパーカッションを習うようにしていたんです。
渡辺:へえ〜!
須田:モロッコではモロッカンドラム、インドではタブラ、インドネシアではガムラン、キューバではコンガを習いました。
吉田:なんで太鼓なんですか?
須田:太鼓なら世界中どこへ行ってもできるじゃないですか。弦楽器だと、国が違うだけでチューニングが合わなくて、スケールも違うんですよ。それに太鼓ってさっき話したように脳みそが開くというか、叩いているとスコーンって脳の芯の方に響くんですよ。
旅の最中、グアテマラでヒッピーが集まるパーティーに参加したんですが、みんな太鼓を叩くんですね。自分も太鼓を叩いていたんですけど、すごいノッてきちゃって。朝まで叩いていたら太鼓の皮が破れちゃって(笑)。翌日みんなに会ったら「お前プロなんだな」って言われました(笑)。
ーー写真の撮影中もそれくらい没頭しているときはありますか?
須田:あります。よくスポーツ選手が”ゾーンに入る”って言いますよね。クリエイターの人だと”フローに入る”という言い方をします。写真を撮っているときも僕はフローに入れますね。 「うわ〜もうめっちゃ気持ち良い!」という感覚。2020年に『PLAY JOURNEY』で田中翔くんを撮影したときも、フローに入っていたので体感では会ってから1秒くらいで終わるような感覚なんです。実際は2時間くらい撮っていたと思うんですけど。役者さんもそういう感覚ってあるんじゃないですか?
渡辺:そうですね。気付いたら舞台が終わっているっていうときはありますね。
須田:そういうときって気持ち良いですよね。きっとそれが渡辺くんにとってのフローの状態なんでしょうね。吉田さんもありますか?
吉田:ノッているときっていうのはありますね。演出もですが、どちらかというと脚本を書いているときの方が多いかもしれません。
後編へ続く!
後編では舞台化に向けての創作秘話、そして作品のメッセージの普遍性についてなどを語っていただきました。
取材・文・撮影 = 松村 蘭(らんねえ)