常識から解き放たれる瞬間がそこにある、舞台『NO TRAVEL, NO LIFE』ゲネプロレポート
2023年5月11日(木)、舞台『NO TRAVEL, NO LIFE』が東京・六行会ホールで開幕した。
写真家・須田誠氏が綴ったフォトエッセイ「NO TRAVEL, NO LIFE」(2007年)を原作とし、2016年に初めて舞台化された本作。その後も形式を変えながら繰り返し上演され、今回で4度目の上演を果たす。
脚本・演出は初演から引き続き吉田武寛が務める。キャストは主演のスダマコト役・渡辺和貴をはじめ、堀海登、大谷誠、込山榛香(AKB48)、中村裕香里、馬嘉伶(AKB48)ら多彩なメンバーが顔を揃えた。
5月11日(木)に行われたゲネプロの模様を写真と共にレポートする。
主人公はひとりの青年・スダマコト。何者でもなかった彼が、世界を放浪しながら生き方を模索する姿が描かれる。
学生時代はロックスターに憧れていたマコトだが、周囲からの説得もあり渋々レコード会社へ就職する。熱心に仕事に取り組み、順調に昇進への階段を上っていくマコト。偶然の出会いをきっかけに、優しくてかわいい恋人もできた。全てはうまくいっていた。
幸せな将来は約束されたようなもので、何の迷いもなかった。
旅に出るまではーーー
初めての海外旅行で訪れたニューヨークで、マコトは途方もない世界の広さを目の当たりにする。
“自由って、いったい何なのか”
その答えを追い求め、呼ばれるように旅へ出た。
旅で出会う人々、景色、生活は、彼の常識を軽々と飛び越えていった。中でも運命的な出会いとなったのは、1台のカメラだ。
インドネシア、インド、グァテマラ、キューバ、ベトナム、ネパール・・・・・
マコトはカメラのレンズを通して、1/8000秒の世界を捉え続けた。
舞台後方の壁一面は大きなスクリーンとなり、原作者・須田誠氏が旅の中で撮影した写真が次々と映し出されていく。現実世界の写真が舞台という虚構の空間に溶け込み、不思議なリアリティを持って存在していた。
そんな空間をスダマコトとして自由自在に生き抜くのは、渡辺和貴だ。
目の前で起きる様々な出来事に瞬時に反応し、くるくると表情を変えていく様からは目が離せない。殺陣で磨き抜かれた身のこなしを存分に発揮し、所狭しと舞台上を駆け回る姿はとにかく生命力に溢れていた。
マコトが出会う人々を代わる代わる演じ分けていたのは、たった5人の役者たち。
マコト役も含め全員が一度も舞台から捌けることがない演出のため、舞台の上手・下手に設置されている大量の衣装と小道具を巧みに使ってあらゆる人物(時には人間以外も!)に早替わりしながら物語を展開していく。
彼らの存在が作品世界を形作り、彩り豊かなものにしてくれていた。一作品の中で役者の様々な演じ分けを楽しめるのも、芝居の醍醐味のひとつだ。
観客はマコトと一緒に旅をすることで、彼自身がそうであったように、世間一般の常識という束縛から少しずつ解き放たれていくことだろう。ほんのひととき日常を忘れて身を委ね、客席からまだ見ぬ世界へと旅立ってほしい。
劇場を後にするときには、ほんの少し新しい世界が見えてくる。そんな作品になっていた。
上演時間は休憩なしの約90分。東京・六行会ホールにて5月14日(日)まで上演予定だ。
取材・文・撮影 = 松村 蘭(らんねえ)
舞台『NO TRAVEL, NO LIFE』2023 公演情報
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?