珠美の島〜18年の時を経て〜12話

「はい、これ着てね、
 濡れるから靴は脱いでこれ履いてね」

宗形さんから
ライフジャケットと
マリンシューズを借りる

潮が引くと
歩いて渡れる程の
浅瀬になるので
潮が満ちている間に船を出す
今日は14時頃までが
満潮の時刻だ

港に着き、船に乗り込む

空はどんよりしてきたが
雨は降っていない

「はい、ここ座ってね」

船の真ん中あたりに
渡されている板の上に
母、戸田くんと三人で腰掛けた

モーターのある
後ろが運転席になっている

エンジンの音が
勢いよく鳴り出し
振動と共に船が動き出した

モーターの振動
燃料の匂い
飛んでくる水しぶき
強く向かってくる風

前回はグラスボートで
ゆるゆる海を渡ったので
今回は何だか
戦いに挑みにいくような感覚

「……が、…だよー!」
「えーっ?」
「あっちー!」

エンジン音と風の音で
宗形さんの声が聞こえなかったが
戸田くんいわく
左手に見えるあの山の中伏辺りに
みどり丸の慰霊碑があるよ、
との事だった

あとで行けるかな

18年前は晴天の下
一面エメラルドグリーンの
眩しい海だったが

今日は曇り空の下
濃いブルーの海
それでも遠く見える
岸に近い浅瀬は
光を溶かした淡いグリーンの
帯になってる

途中波が高くて
かなりの水しぶきを浴びる
少し雨が降ってきたのもあって
身体の前半分はすっかりずぶ濡れに

久米島本島からは
近い島なのに
はるばる来たこの感じは
出来事のせいか
経過した時間のせいか

岸が見えて来た

速度を落とし
近づいていく

遠浅なので
少し沖に船を止め
碇を浜に投げ落とす

滑らないように
ゆっくりと降りた

覚えている景色だ

だけど
見覚えのない白い札が
島の入り口左手に立っている

"この先住居につき立ち入り禁止"

何それ?
変な札…

「あー気にしない、気にしない」

宗形さんそう言って
島の一本道へ入っていった

そういえばさっき
ゆんたくしている時に言ってたな
一時期は無人島になったけど
今は一家族が住んでいると

18年前
親戚のおばぁの住んでた
赤瓦の家
そこにその家族が
住んでいるようだが
トタンのようなもので
覆い隠されて
中の様子を伺い知る事は出来ない


アカバナーの揺れる
垣根の奥
静かに佇んでる
美しい赤瓦の一軒家の
景色では無くなっていた

「那覇から来た
島には縁もゆかりも無い人だよ」と
宗形さんは言っていた

あの日の光と風と
おばぁの笑顔と
小さかった息子の笑い声が
その場に映し出され
浮かんで消えてゆく

「夏になったらまた来いよー」

手を振りながら叫ぶ
おばぁの最後の言葉が
頭の中でこだました。

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