珠美の島〜18年の時を経て〜14話
「井戸は
多分この辺りのはずよ」
宗形さんが指すその先は
亜熱帯の植物に
隙間なく覆い尽くされた密林
道どころか
井戸まで全部
覆い尽くされたか、
あまりにも風景が違いすぎて
信じられない気もしてる
ほんとにここなの、って
気もしてるんだけど
どちらにしても
もう進めそうに無いし
うん、て
自分を納得させて
諦める事にした
そばまで来てるし
来てる?
これは来てるって
言えるのかとか
支離滅裂
携えたお花
胸に抱えたまま
途中道を逸れて、ゆるい坂を下り
古くなった小さな家のある場所へ
たくさんの蝶が
足元を舞っている
ひらひら、ひらひら
花と草の間をぬぐいながら
「ここは年中蝶が飛んでいるから
蝶々の島とも言われてるよ」
宗形さんが教えてくれた
目の前にある古いお家は
宗形さんの親類が
昔住んでいた家だそうだ
元々は
渡名喜島に住んでたんだとか
なので家の隣にある
小さな祠とその石碑は
渡名喜島の方角に向けて
建てられているって
残っていた花をその祠に供える
家の裏には畑の跡があり
昔はそこでスイカも
作っていたそうだ
畑の奥にはフールがあって
それを肥やしに
野菜を作っていたと教えてくれた
沖縄の長細いスイカの話とか
壊れた車のエンジンを直してたら
車が勝手に走っていって
茂みの中でクラッシュしたとか
宗形さんと母は
楽しそうに話しながら
元の道に戻って行った
「島の奥の方は
今はジャングル状態で
人が入って行ける状況では
無いらしいよ」
来る前に
戸田くんから
そう聞いていたので
覚悟はしていたけど
やっぱり行けなかったか
すぐそこなんだけど
自然の力には
勝てなかったな
残念だけど
でも何だか
別の大きな何かは
果たせたような気がする
なんか、こう
今まで止まっていた何かが
また動き出したような
海が見えてきた
「ほら、軽石
回収してもしても
まだいっぱい残ってる
ほんとキリがない」
船着場に溜まってる
白い残骸を指差して
戸田くんが
ため息のように言った
こんなところにも
軽石が流れて来てるんだ
もう半年も経つのに
除去しきれないらしい
それだけ大量に漂着したんだな
船を引き寄せる
宗形さんと戸田くんを
眺めている
笑顔は昔のまんまだけど
すっかり「海の人」に
なったんだなぁ
こうやって彼は生きてきて
今ここにいるんだ
何だか
重ねて来たその日々が
眩しく、羨ましく見えた。
浅瀬を歩かないと
船には乗り込めないので
宗形さんは
母をおんぶして船に乗せてくれた
母が乗船するのを見届け
濡れてもいっか、
と海に足をつけた瞬間
戸田くんはひょいっと
私を抱き上げて
船に乗せてくれた
そういう優しいところも
変わらないんだな、
ほんとに、。
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