珠美の島〜18年の時を経て〜15話
久米島本島へ
戻るために船へ
潮流が変わるから
行きほど濡れないと思うよ、
と戸田くんが言った通り
飛んでくるしぶきに
視界が遮られる事なく
行きよりも
穏やかな海をすべり
本島に到着
岸に着く前に船着場に見えた
戸田くんの船を近くで見たくて
宗形さんの船を降りて
桟橋を渡る
桟橋の左手
「あそこの、ほら、ベージュ色の」
船体に
英語で名前が書いてある
「船の名前は神様?」
「そうそう、神様の名前」
船の真ん中に
ベンチのような細長い台
ボンベを担ぎやすくする
ための台だそうだ
船の上で少し、昔話
懐かしいねー、
と言いながら2人で笑う
学生の頃の友達といると
一瞬で
その時の感覚と感情の
自分に戻っていく
誰しも
宗形さんの家に戻り
少しゆんたく
お礼を言って
戸田くんの車に乗った
「どこか行きたいところある?」
ゆんたくしてる時に
宗形さんが教えてくれた所と
みどり丸の記念碑が見たいと伝えた
「風の帰る森と
みどり丸の石碑ね」
山道を登って行った所にある
善田公園という
広々とした公園内に出来た
宿泊施設の名前が
「風の帰る森」で
未来を担う
子供達のために
建設されたそうだ
「津波で海が怖くなった子供達に
ここで過ごしてもらって
怖くない海も体感して
心の傷を癒したりもするんだって」
と、戸田くんが教えてくれた
目を閉じる
目を開けても静かで
本当に静かで
風の音しかしない、
風の音しか
木々の向こうには
さっきまでいた
東の奥武と西の奥武の島が
青い海に浮かんでいる
穏やかな海
夕暮れ時だった事も手伝って
この世界に
たったひとりの
存在になったみたいで
心の波が鎮まりかえって
時間、という
形の無い概念まで
消え失せている瞬間だった。
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