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贈答の機微①

明日7日は白露。「残暑」と言うのは今日まで、とも言いますが、まだまだ30度超えの日は続きそうです。

9月9日の重陽の節句を前に、昨年は紫式部日記から菊の着せ綿の話を紹介しました。式部は主人藤原彰子の母源倫子から、重陽の節句に、身を拭うと若返るとも言われていた菊の着せ綿を贈られます。高価なこともあり、式部はこれを少しだけいただいて、二人の長寿を願う意味を込めた御礼の歌を添えて娘彰子といる倫子に殆どは返そうとするのですが、倫子は早々に退出しており渡しそびれた、というお話。

面白いなと思ったのは、式部がもらった着せ綿を全て返しているわけではないという点です。現代でも、冠婚葬祭や出産・新築等の折にお祝いをいただいたら、半返し(場合により三分の一やら十分の一やら)などのお返しをしますよね。状況により倍返しなどもあるかもしれませんが、基本的に同額・同等のお返しはしません。同等のお返しだと、折角の好意を突き返されたと相手に感じ取られかねないからです。

式部も、瞬間的に色々計算したのでしょうか。全ていただいてしまうと、例えば半分程度のお返しといえど宮仕えの身には大変な費えだし、そもそも倫子は娘に仕える者を労う意味で贈ってくれているのだからお返しを期待しているわけではないだろう。(上段の理由で)全て返す失礼なことはできないし、少しはいただく代わりに、歌才でもって二人の長寿を願う歌を添えよう!というところだったのでしょうか。と思うと、結局この日返せなかった着せ綿と歌に、どんな後日談があったのかは気になるところです。

昔も今も贈答には人の心が深く関わります。まずは「ありがとうございます」「恐れ入ります」などの状況に合ったお礼の言葉を伝えましょう。現代は形式やそれに伴う手間を自分がかけることも相手にかけさせることも嫌う方も増えてきたので、何かお返しの品が必要かは状況により変わります。またお返しのお品を手配するにしても、あまりに早過ぎると事務的に受け取られてしまうこともありえます。先方の事情や性格などをよくよく考えて、気持ちを込めて、ほどよきところを探ってください。

今日の菓銘は「桔梗」。
秋の七草のうち、ススキの穂がいい感じに出てきています。中秋の名月にもお供えできそうですね。

昨日放送のNHK ACADEMIAで歴史学者の磯田道史さんが、「(信長や)千利休が今生きていたら、メタバースやヴァーチャルリアリティ(VR)を使ったに違いないと思う。」と話していました。磯田さんは、どういう目的でどういう場面で使ったと考えるのだろう、と興味を持ちました。また千利休時代の今でいうメタバースやVRのような位置づけのことって何だったのだろう、とも考えたり。

夜の気温はそれなりに下がってきています。過ごしやすい季節の秋の夜長、お楽しみください。


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