見出し画像

平家物語①

台風10号の動きの気になる一週間です。お住まいの場所はいかがでしょうか。

『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
 沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
 たけき者もつゐには滅びぬ。ひとへに風の前の塵に同じ。』

平家物語の有名な冒頭です。琵琶法師によって語られたというだけあって、言葉はわからなくても七五調で対句仕立てとなっていて調子がよく、自然と覚えている方もいらっしゃるかもしれません。

祇園精舎は釈迦に帰依した須達という長者が釈迦に献じた寺。「祇園図経」という仏典などに見られるのですが、この一角にここで修行する僧が臨終を迎えるための無常堂という建物があり、その四隅に吊るされた頗梨(はり=ガラスか水晶)の鐘は、僧の死期が迫ると「諸行無常 是生滅法 生滅滅已 寂滅為楽」という無常偈(むじょうげ)を鳴り響かせた、と。この偈は「涅槃経」所出ですが、生まれ滅んでゆくこの世の一切のものは無常であり、生滅無常の法を滅した寂滅(涅槃)の境地こそが真の常楽(苦が無く楽であること)である、という意味。この偈を聞いた病僧は、死の苦痛や恐怖から解放されて安らかに往生を迎えたそうです。

この涅槃経の話は源信僧都(942~1017年)の「往生要集」(985年)に紹介された後、平安時代の浄土教信仰と相まって広く知られていったようで、平家物語が語られ始めた当時、「無常」という言葉から想像していた景色は現代とは大分違っていただろうと思われます。

沙羅の木は、釈迦が入滅した跋提河のほとりに二本生えていて、通常は淡い黄色の花が、釈迦が亡くなる際に白に変わった、とやはり「涅槃経」にあります。法然(1133~1212年)の書いた「涅槃和讃」に、「跋提河の波の音 生者必滅を唱へつつ 沙羅双樹の風の音 会者定離を調ぶなり」とあるそうで、当時すでにこういった言葉が組となって使われていたようですが、生者必滅を盛者必衰と変え、物語が始まっていきます。

平家物語は年をとって読み始めるととても面白い、などとも聞きますが、冒頭だけで当時と現代の前提知識がかなり違っていることを知って、中々手ごわいなと思いました。今回は有名な冒頭をちょっと踏み込んでみましたが、長編であることもあり、以降は有名な話を少しずつ取り上げていきたいと思います。

今日の菓銘は「成瓢(なりひさご)」。
まだ青い瓢箪をご紹介していなかったので、順番が逆になった気がしないでもないですが、いいな、と思ったので。

時期的に防災のことを書こうかと思ったのですが、台風襲来のまっただ中で大変な思いを正になさっている方もいらっしゃるので、今年は控えます。まだ停滞していますが、どうか影響が少なくて済みますように。

参考文献:「平家物語の読み方」兵頭裕己 等

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?