【恋するリコーダー】本村睦幸さんからリコーダーを教えてもらう (5)
きれいな音を出したい
アルトリコーダーの低い音が出せない。
「ひくい音は鳴るべくそっと吹いてください」
と言われていたのだが、この、そっとってどういうことなのかよくわからなかった。弱い息で吹けばいいのか?すると音がひょろひょろになってしまう。
どうやったら、アルトリコーダーの一番低い音が出るんだろうか?
試行錯誤の結果、息と口腔の広がりが関係している、と思った。
そっと吹くだけででは音は出ない。ちょど喉のあたりをぶわっと押し広げるようにして息を送るとひくい音が出せる。そう、あくびをする時のような喉の感じだ。
高い音になるほど喉の開きは狭くなっていく。息だけじゃなくて喉のひらきが音と関連しているのだ。リコーダーの音は、単に肺活量の問題ではないようだ。肺から送り出されている息を、喉で調整して吹き口に届ける……というイメージだろうか。
ああっ、そんなことを意識していると、運指がついていかん。くそっ。
しかもあれだな、アルトリコーダーはなるべく垂直にしたほうが音がいい気がする。笛を水平にすると音の響きが悪くなるのは、縦笛だからか?
しかし、縦笛と横笛って構造はほとんど一緒じゃん?
なにが違うんだろう?
あ、そうだ、フルートってくわえない!そこが違うんだ。
うーん。縦笛はくわえるなあ。笛をがぶっとこう、くわえるところがなんかエッチでフルートに比べて優雅じゃないかも……。
うん?。でも同じ笛だから、息を吹き込むことに変わりはないはず。
ってことはよ、縦笛だってあんまりがぶっとくわえちゃったら、唇で息の調整ができないよね。これって不利なんじゃないのか?見た目もかっこわるいし。
ハタ!と思い、YouTubeでリコーダー奏者の映像を見てみた。
おおっ、みんな、浅くくわえてる。がぶっとリコーダーにかぶりついている人なんかいない。
……ということはリコーダーはなるべくなるべく浅くくわたほうがいいんだ。そのほうが口をすぼめた状態で息を吹き込めるわけだから、高くてきれいな音が出るはず!
がぷっと、笛口を飲み込むようにくわえていた自分に、お品がなかったな、と反省反省。
薬指は役立たず
さらに私の解決課題は「ファ」の指使いにあった。
バロック式のリコーダーの正確な指づかいを知ったことで「ファ」が押さえられなくなってしまった。ひとさし指、薬指、小指、この3本の指を同時に動かない。特に薬指、小指が遅れる。
ううううう、動かん。
しょうがない。小指の筋トレ開始だ。
以前に少ない筋肉はトレーニングするとすぐ効果が上がると聞いたことがある。となれば、小指の筋肉もすぐに効果があるはずだ、という身勝手な仮説のもと、日々、小指と薬指を使うという自主トレを始めた。
まずは、パソコンのキーボードをなるべく小指と薬指を使って打つことに。
ひーめんどくせえ、神業のごとくほとんど考えるのと同じ速度でキーが打てる職業作家の私にとって、これはけっこう自虐な筋トレ、タイプミスが多発する。
あ、あれっ? 小指も動かないが、薬指はもっと動かんじゃないか。なんだこの薬指のへたれぶりは!
薬指よ、君は指輪のだめだけにある指なのか?
音が正確に出せない原因は、小指よりもむしろ、この存在感の薄い薬指のせいかも?少なくとも、キーボードに関して言えば薬指よりも小指のほうがずっと力強く器用なのである。
むむむ……。
いままであまり、薬指というものを意識したことがなかったので新鮮なショックと驚き。私の右手ってさ、親指とひとさし指と中指ががんばって働いているんだな。
他の人はどうなんだろう。まんべんなく、すべての指を使っているのかしら。と、こうして打っていても、タイプミス多発、ぐぐぐ、打ちずれ〜。
それにしたって、なんでこの指を薬指って言うのかしら?
作家の性で調べたところ、薬指は薬を混ぜることに使ったり、昔の人が紅を差すときに使ったので「紅指」とも呼ばれることがわかった。
どうして、紅を指すのに使ったかって? 薬指は日常生活にほとんど使われない指だからなのだそうだ。使われない清潔な指だから、薬に使う薬指ってわけ。
そーーーかーーー。やっぱり使われない指なんだ。だから、薬指が不器用で力が弱くてもあたりまえなんだよね。そしてこの不器用な薬指をフル活用するのがバロック式のリコーダーなのであった。
これだっ。眠れる薬指を覚醒させれば、きっと音がよくなるに違いない。
日々喉を広げたり、指を意識したりしていると、指づかいを間違うばかりで、ちっとも曲なんか吹けない。練習を始めたら逆に下手になった気がする。
どんどんバロックが遠くなっている気が……。
でも、いま正確な指づかいを覚えておかないと、あとあと苦労すると思うので、毎日ソプラノリコーダーで「ファ」と「ド」を押さえる練習をしている。薬指も筋トレ中。
リコーダー、奥が深い。疲れたので今夜はここまで。