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治療

もうずいぶんと昔のことになるけれど、おのころ心平さんの企画でヒーラーの方たちにワークショップを行ったことがあった。
私が患者役になってそれぞれに問診をしてもらい、グループに分かれて治療方針を立ててもらうというものだった。

その結果がどうだったか……と言うと、なかなか悲惨であった。
それぞれに優れた力をお持ちのヒーラーのみなさんであったけれど、グループに分かれて治療方針を発表する……ということで競争心のほうが前面に出てしまい、患者の「病気」にフォーカスし過ぎたのだった。
結果として「患者さん」の全体性を見失い、「病気」として扱うことで患者である私は分析され、判断される対象となった。
それは「患者」という役を演じていてもなかなかしんどいことだった。

ヒーリングは、代替医療と呼ばれる。
この呼び名にかついて違和を覚えていたけれど、今は逆に誇らしいような気持ちになる。医療がもし病気を治すためのものであるなら、代替医療はもっとホロニックな状態を維持するためのものだ。
病気と健康の線引きが難しく、その境界はグレイなのだ。
私への問診は「症状」に対するものがほとんどだった。
どういう症状を想定したかと言うと「陰部がイヤな匂いがする。臭い」という主訴を設定した。
とてもデリケートな主訴だったと思う。
ふだんならみなさんはもっと患者のナイーブな部分を大切にしたと思うのだが、グループに分けて発表となったため、ふだんと違う脳のスイッチが入ってしまったかもしれない。

患者の全体性を診て、「この人にとってどういう状態が幸せなのだろう」「どういう人生を歩んできてなにを望んでいるんだろう」と、患者と同じ目線に立って同じ方向をみてくださった方は、50人近く参加されていたのだけれど、一人か二人……だった。
それぞれの発表が終った後で、「患者を一人の人間として見ていない」というお話をすると、その場で泣きだす方もいて、私にとっても忘れ難いワークとなった。あの時の方々はいまどのような施術を行っているのだろうなあ……と、ふと思い出すことがある。
私自身が患者役をやったので、身体に堪えるワークだった。少しでもお役に立てていればうれしいのだが……。

いま、自分が施術する側になろうとしている。まったく想定外の事だ。人生は何が起きるかわからない。

練習のために鍼を受けていただく機会が増えた。家族、友人、同級生……。よく、あのワークのことを思い出すんだ。偉そうな事を言ったけれど、患者さんの主訴を聞くとつい「治してあげたい」という気持ちが生まれてしまう。そこにはいろんな感情が入っている。自分の側の「欲」だ。良くしたいの「良く」=「欲」だと思うに至る。
そういう時は、1本の鍼に自身が持てなくて、つい盛ってしまう。だから鍼の数が増えていくのだとわかった。
治してあげたいという欲が、どんどん鍼を打たせてしまう。
その結果、身体の中の気の流れがかえって乱れてしまう。

治るというのはどういうことなのかなと思う。

私はよく、友人の柳原和子のことを思い出す。柳原さんは優れた作家だった。「がん患者学」という本を書き、がん患者の希望のような人だった。再々発の後、自身もがんで亡くなった。

再々発をした時に西洋医療からは「これ以上の治療はできない」と言われる。その時に「治せる」と言ったのは、代替医療の施術者だった。彼女から、最終的にその施術者と決別した時の話を聞いた。恋人と別れたようなせつない話だった。

患者は、希望を持たせてくれる人に恋をするんだと思った。

がん患者として有名人で、NHKのテレビ番組にもなった柳原さんには、さまざまな治療者から「この方法なら治せる」という連絡が来た。北へ南へ、施術者に会いにいく度にその結果をメールで送ってくれた。

あの知的な人が、こんな怪しい施術を受けるのか?と思った。医者に見放されたら……藁をもつかむ気持ちなのだろう。当時、私はまだ40代で、自身の死が遠過ぎて彼女の淋しさを十分理解できていなかったと思う。

また、自身のがんを奇跡的に克服されてスピリチュアルな活動をされていた方が、ご自身のブログで柳原さんを実名で批判していたことにも驚いた。そこには「西洋医療に頼ったからがんが再発したのだ」と書かれていて、柳原さんは大変ショックを受けていた。

彼女は自分を紹介する時に「がん患者の柳原和子です」と言っていた。でも、もしかしてそうさせてしまったのは彼女の「病気」にだけ注目し続けた、マスコミや、医師や、治療者、……いろんな人たちの欲のせいでもあるんじゃないかな……と、今になって思ったりする。

彼女はよく言っていた。「がん患者になったら、一生がん患者。手術して5年が経っても、検診を受ける度に再発してるんじゃないかと脅えて暮す」と。

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田口ランディが日々の出来事や感じたことを書いています。

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