見出し画像

お灸について


昨日は体調が悪かった。めっちゃ具合が悪かった。悪寒と筋肉痛で頭がぼーっとしていた。熱っぽくてぼんやりしてしまい、教室に座っているだけで苦しかった。そういう時に勉強したところで何ひとつ頭に入らない。

家に帰って、自分で自分に刺鍼した。咽もイガイガしてきたし、これは風邪かもしれないと思い、外関というツボに刺鍼。すると、ふだんと反応が違った。最も細い鍼で刺鍼したのに、内出血したのだ。ありえないと思った。これまで何度もここに打ってきたが、出血したのは初めてだった。

めずらしいことなので、写真を撮った。撮った写真を拡大してみてびっくりした。肌の状態が異常だ。潤いがなくなってカサカサの荒野みたいになっている。「これはどういうこと?」と思った。

東洋医学では、体表の回りを「衛気」という気が護っていると考える。「衛気」は速い速度で身体の回りを流れていて、体温を保持し、外邪の侵入を防いでいる。鍼を打つ時は、この「衛気」を破ったり、乱したりしないようにそっと鍼先を近づける。

私の肌は、この衛気が、破けてボロボロになっている感じだったのだ。うわ〜これはひどい。だから出血しちゃったのかなあ……。毎週、刺さなくてもよい鍼を何本も刺し、受けなくてよい手技で身体に刺激を与えられている。衛気がダメージを受けるのはいたしかたない。

特に出張や、寝不足で疲れがたまっている時は、精気が減っており衛気も破れやすくなるのだろう。自分を護っているバリアの荒廃ぶりに愕然として、なんとか衛気を修復せねばと思った。「まずは寝るのが一番」と、とにかく寝た。睡眠に勝るものなし。

目が覚めると、師匠の山本先生からメッセージの返事が届いていた。「風邪をひきました」と、外関に刺鍼した写真を送っておいたのだ。返事には「虚している三陰交と合谷にお灸してください」とある。どちらもよく気を集めるツボだ。三陰交は三つの陰経が交わるツボで、補血の作用がある。合谷はおなじみの万能ツボだ。

先生曰く、合谷は衛気を補するツボだとのこと。やっぱ、衛気がボロボロなのがわかったんだなあ。言われた通りにお灸をし、筋肉痛があったので葛根湯を飲んでおいたら、翌日には85%くらい回復した。朝はまだ頭痛があり食欲もなかったので、早退しようと思って登校した。

結局、4限までしっかり受けて帰宅した。質問なんかしちゃって授業にも集中できた。

東洋医学的な知識を持たなかった頃、私はどうやって生きていたかな?
そもそも薬嫌いだからめったな事で薬は飲まない。たぶんサロンパスみたいなのを貼って、うがいをするくらいだろう。いや、けっこうヤケクソで酒なんか飲んじゃってたな。

悪化しなけりゃいいのだ。こじらせなければ、回復も早い。だが、人は体調をこじらせがちだ。下り坂でボールが転がっていくのと似ている。一度転がってしまうと、ストッパーがないと転がるのだ。私にとって鍼灸は一種のストッパーだ。

あれ、なんかやばいかも?と感じた時に、たった一個のお灸や、一本の鍼が転がるのを止めてくれる。自力ではい上がるのをサポートしてくれるのが東洋医学だ。ちょっとだけ支えてくれる。あとは自分の体力や免疫でなんとかする。じんわりと日々の暮しを支えてくれる。

たががお灸だ。たかが鍼だ。そんなものが効くのか?と言う人の気持ちもわかる。私もそうだった。疑ってみても効くことは一目瞭然なので、もっと知りたくなり鍼灸学校に入ってしまった。

もし、もしこれが効かないのであれば、2500年も人類が後生大事に受け継いでくるだろうか? 東洋医学の古典、黄帝内経がまとめられたのが2000年前だ。その古典は時代時代の医師たちにアップデートされながら今に至る。

鍼も灸も、薬に比べれば安いものだ。灸は誰でも使える。お灸は弘法大師が「これは宝だ」と中国から持ち帰ったものだ。せっかくいいものを持ち帰ってくれたのだから、大いに使って研究したらいいのにな。
入学してわかった悲しい事実がある。鍼灸学校であっても「お灸」の効能を西洋医学的にしか説かない。不思議でしょうがない。気の存在あっての東洋医学なのにそれを伝える事に照れがあるのだ。「オカルトみたいですよね」と東洋医学概論の先生が言う。

オカルトは「隠されたもの」という意味だ。この世界は隠されたものだらけだ。私たちの存在そのものが何で構成されているのかだってまだはっきりわかっちゃいないのだ。量子の不可解なふるまいだって、なぜそういなのか、なんてまったくわかっちゃいないのだ。

お灸の授業ってさ……「10分間でお灸を何個すえられるか?」みたいな授業なのだよ。もはやスポーツ競技。それをクリアしないと進級できない鍼灸学生。技術は大事だが、技術以前の尊いものがあるだろう。ああ、もうすぐお灸の試験だ……。

空海さんから見れば「おぬしら、宝の持ち腐れよのう……」って感じなんだろう。

ここから先は

1,824字
伝統的東洋医学の知識や、見えない気の世界、また、さまざまな能力者の方がたとの交流から体験してきた、この世界と重なって存在する多元的な時空間についてのお話、鍼灸学校の学生生活を通して感じること、社会問題などを扱っています。また、田口ランディのクリエイティブ・ライティング講座や、イベント、講演会の情報なども掲載しています。現在は学校に行くため執筆は開店休業状態。ぜひ、noteで私の執筆を応援してください。

作家として約20年間、執筆活動を続けた後、60歳で東洋医学を学び始め一昨年鍼灸学校に入学。体験してきた見えない世界と「気」を使う伝統鍼灸が…

日々の執筆を応援してくださってありがとうございます。