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若者たち


そうちゃんは、すんげえいいやつなんだ。
今日もマッサージ実技の時間、ペアが休みで一人になっちゃった私に「一緒にやります?」って声をかけてくれた。勉強ができるし、気がきくし、ピカチューのピアスをしてるとこも好き。そうちゃんとリム君の20代ペアに入れてもらった私は「今日は二人で私に施術してくれない?」と提案してみた。
「いやー、だって若い男二人に足をマッサージしてもらう機会なんてめったにないし……」
いいですよ、ってことで足を露出した私を男子二人がマッサージ開始。先生がやってきて「わー、田口さん、最高ですね!」「でしょ〜、がんばったご褒美って感じですよ〜」

最後のマッサージの授業はこうして終った。めっちゃ気持ちよかった。バリ島のスパに行ったかのごとき、ダブルマッサージ。
二年の後期最後の授業日だった。いよいよ2年が終るのだ。あとは期末テストを残すのみ。最終日だと言うのに一限目からMMTとROM…筋力テストと可動域測定の試験。
試験開始ギリギリまでチヒロちゃんに、指導してもらった。チヒロちゃんのおかげでこの2年間、実技をクリアしてきた。なんたって頼りになる。彼女のノートは完璧だし、指導は先生より厳しく、妥協がない。ここ2日間、学校に居残りして一緒に練習した。
「チヒロちゃーん!やったー!完璧にできた!」試験のあと抱きあってわっしょいした。こういうこともあと一年で終わりなんだな。

……筋力テストとか、可動域測定とか、一生使わんわ。めんどくせえなあと思っていたけど、こうして毎日詰め込まれていくと自然と覚えていくものだ。いまや肩周りや腕の筋肉とその機能くらいはイメージできるようになった。
それがなんの役に立つのかはわからないが、身体に触れた時にこのあたりにこんな筋肉がくっついているんだよな……、ここにこんな骨があるんだよな……くらいの立体感を持てるようになった。穴のあいた桶で水を酌んでいるような気分で勉強してきたけれど、少しは水が溜まったみたいだ。

私の学校では三年になるとぐっと実技の授業が減る。残るのは鍼灸応用実習くらい。あとは座学と理論。二年はやたらと実技が多かったが、春からは本格的に国試に向けての受験勉強になっていく。マッサージや、指圧の授業は「心のオアシス」的なところがあったのだけど、それがなくなるのはちょっと淋しいね、なんて話しあった。

休んでいて受けられなかった東洋医学概論の小テストを昼休みに受けに行く。ずいぶん前のテストなので記憶がかなりやばくて朝、必死で見直した。問題を見ると割と頭に入っていた。提出すると先生が「天才ですね!」と言って小学生みたいな百点花丸をものすごくでっかく描いてくれた。この先生は今期で定年退職してしまう。
「先生、二年間ありがとうございました。先生と勉強できてよかったです」……と胃っても、先生より私のが年上なんだけど(笑)、自分は高校生みたいな気分でいて可笑しい。先生からはどう見えているのかなあ。

二年生のすべての授業が終ってみると、わりと清々しい気持ちになっていた。完璧とは言えないけれどひとつひとつ全力でがんばった。自分に納得ができたし、努力したことをちゃんと受け止めてもらえた気がした。

学校帰りに、同級生二人とマクドナルドでお茶をした。一人は二十歳、一人は四五歳。不思議な取り合わせだけれど、同級生として共通の話題があり、そこから人生観とか、仕事観とか、人間観とか……いろんなこと話しあった。なんだろう…人はいくつになっても誰とでもこうやって一緒に過ごせるんだなって、不思議な感じがする。三時間くらいしゃべって、別れて、気持ちはあったかくて、空はすごく澄んで青くて、夕焼けは線香花火のしずくみたいで、……、ちくしょう、生きてるってなんてすてきなんだろう。

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伝統的東洋医学の知識や、見えない気の世界、また、さまざまな能力者の方がたとの交流から体験してきた、この世界と重なって存在する多元的な時空間についてのお話、鍼灸学校の学生生活を通して感じること、社会問題などを扱っています。また、田口ランディのクリエイティブ・ライティング講座や、イベント、講演会の情報なども掲載しています。現在は学校に行くため執筆は開店休業状態。ぜひ、noteで私の執筆を応援してください。

作家として約20年間、執筆活動を続けた後、60歳で東洋医学を学び始め一昨年鍼灸学校に入学。体験してきた見えない世界と「気」を使う伝統鍼灸が…

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