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金融サービスの変遷と未来予測②

はじめに

 前回の投稿では「金融サービスの変遷と未来予測①」として「バンドリングされた金融サービス」と「アンバンドリングされた金融サービス」の動きについて整理いたしました。今回は前回の続きとして「リバンドリングされた金融サービスへの移行」について解説いたします。尚、本記事で掲載している内容は可能性の1つを示したものであり、必ずしも記載した通りの未来が訪れるわけではないことにご留意ください。前回投稿は下記を参照ください。

リバンドリングされた金融サービスへの移行

 前回の投稿ではFintechの加速により利便性は格段に向上したけれど、一部でサイロ化が生じ個別最適が必ずしも全体最適とは言い難い状況が発生していると指摘しました。選択肢が増えることは好ましいことですが、利用者がサービスを適切に選別できない場合には負荷が高まってしまう事態が生じます。これからの金融をデザインする際にはこれらの課題解決が不可欠となります。

  2021年11月1日に「金融サービス仲介法」が施行されました。この法律はこれまで所属性であった「銀行・証券・保険」業務を横断的に仲介できる制度で、業態ごとの縦割りが廃止され、複数の金融機関の仲介が容易になり、ワンストップで様々な金融サービスの提供が可能となる制度改正です。従来型の仲介業と比較すると取扱い可能な商品が一部制限される(高度な説明を要するリスクの高い商品を除外する)等の制約がありますが、利用者目線で評価すれば、特定の資本系列やブランドに縛られることなく横断的なサービス提供が得られるというメリットもあります。「リバンドリングされた金融サービスへの移行」の鍵の1つが「金融サービス仲介業」の活用になります。

  「金融サービス仲介業」を活用しFintechによって細分化された金融サービスを再結合・再構築(リバンドリング)することで、ユーザー目線で優れたサービスを機能毎に選別しパッケージ化し単一チャネルで提供することが可能となります。「バンドリングされた金融サービスの時代」では単一チャネルからのサービス提供を受けられましたが、品質面では最適と言いえませんでした。「アンバンドリングされた金融サービスの時代」では利便性の高いサービスを受けられますが、個々が独立しており網羅的なサービスが受けにくい状況でした。これらの長所を掛け合わせると、「単一チャネルで複数の選択肢の中から自身に最適な利便性の高い金融商品・サービスが受けられるモデル」が実現します。これが「これがリバンドリングされた金融サービスへの移行」であり、フレームワークとして「金融サービス仲介業」を活用することで、これまでの「顧客と金融機関の関係」が大きく簡略化されます。これまで顧客は金融サービスを利用する際、個々の金融機関と事前に契約が必要でした。(銀行口座の開設でも証券口座の開設でも保険の契約でも同様で各社毎の手続きが必要です)複数の金融サービスの利用には複数のID・パスワードの管理が求められ、取引データも各社に分断されることによって自身の預金や保有資産を一覧で視覚的に把握することは困難な状況です。この状況に対して「金融サービス仲介業」を活用することで従来の顧客と金融機関との間に「付加価値レイヤーとしての新たなチャネル」が誕生すると考えられます。尚、外部ツールであるPFM(Personal Financial Management)ツールを用いることでデータを集約し一覧表示することも可能ですが、全ての金融機関が対応しているわけではなく手間もかかってしまいます。

  「付加価値レイヤーとしての新たなチャネル」(以下、付加価値チャネルと称す)について具体的にどのようなものなのか整理していきます。これまでの説明から「付加価値チャネル」は顧客と金融機関の間のクッションのような存在であることは明らかです。一般にプラットフォーマーと呼ばれる事業者の特徴として、「多面市場とネットワーク効果」が指摘されます。付加価値チャネルのプラットフォーマー適正を整理すると多面市場観点では一般利用者⇔金融機関・専門家が成立します。ネットワーク効果は鶏が先か・卵が先かという議論になりますが、付加価値チャネルを利用するユーザーが増えるほど金融機関にとって市場が広がり魅力的な販売チャネルとして映り、金融機関の参加が増えるほどユーザーにとって選択肢が豊富な魅力的なチャネルに映るということです。

 2010年代はGAFAを中心としたプラットフォーマーが世界をリードした時代で各業種において様々なプレイヤーがプラットフォーマーの地位を得ようと競いあっておりました。多くの顧客を獲得し急成長を続ける姿から“プラットフォーマーがビジネスモデルのゴール”と勘違いしそうな勢いですが、私は必ずしもそのようには考えません。プラットフォームという類型は競争・進化のプロセスにおける過程の1つに過ぎないと考えております。巨大プラットフォームのサービスは確かに便利ですが、“過ぎたるは及ばざるが如し”ではありませんが近年はプラットフォーム規制の論調が米国・EUを中心に高まっており、中央集権的なモデルから分散型モデル(Web3やDeFiなど)へのトレンド変化も一部で見て取れます。プラットフォーム論は非常におもしろいテーマでありますので別の機会に触れたいと思います。

 金融ビジネスは規制業種で縦割りが基本の業種でしたのでこれまで「プラットフォーム」という業態を生みにくい状況にありました。金融事業の特徴の1つとして「情報の非対称性」が挙げられます。これは「売手と買手のリテラシーの差」と言い換えることが出来ます。どの業種においても情報の非対称性は存在しますが、金融はこの非対称性が非常に大きな業種と言えます。日本では学校教育を通じて金融・経済に関して殆ど学習する機会が存在しないため意識的に勉強しない限り現代社会に必要な金融知識は身に付きません。本来であれば、「資産運用・複利効果・インフレと政策金利・リスクリターンの考え方・・・」色々と学ぶべきと思います。脱線しましたが話を戻すと日本のユーザーは金融知識に乏しい方の割合が多いので金融機関に言いくるめられてしまうことが多い、ということです。この点は金融庁も危惧しており、「顧客本位の業務運営に関する原則」により、フィデューシャリー・デューティーの徹底を指導しております。フィデューシャリー・デューティーは要するに「受託者責任」であり、これまで一部の金融機関で見られた回転売買や高額手数料取引などを牽制し、顧客利益の追求という至極真っ当な目標に向かって誠実にビジネスを行うように、という趣旨です。(この程度が満足に出来ていない金融機関ってどうなんだ、という気持ちもあります)

  上記に通り日本においては金融サービスの情報の非対称性が大きく簡単には埋まらない溝が存在します。個々の金融機関の取組みに期待したいところですが、歴史を鑑みるに残念ながら改善には時間を要すると思われます。そこで中立的な付加価値レイヤーとして顧客と金融機関の間に入るチャネルが存在意義を発揮することになります。“金融サービス仲介業者も結局のところ、金融機関からのキックバックが収益なので対立構造はこれまでと変わらないのではないか?”という考え方もあろうかと思います。日本では仲介業者は金融機関側に立つことが多いですが、米国では特定の金融機関に属さない独立したIFA(Independent Financial Advisor)が多数存在しております。大きなトレンドとして日本においても資産運用の必要性がより幅広い世代において認知され具体的な行動が求められるタイミングにおいて、中立的なアドバイザーの需要が増加し信頼にたるサービスが求められる状況に変化していくと思います。

  とは言えどのように中立性を確保するかについては難しい問題です。結論から言ってしまうと収益の大部分を顧客から獲得し、金融機関からのキックバック等の収益を少額に抑えることが1つの答えになるかと思います。単純な話で金融機関からのキックバック等による収益が過半を占めることで歪みが発生するので、収益構造を変化させ顧客からの直接的な収益比率を高めることが中立的なチャネルに求められる方策だと思われます。“言うは易く行うは難し”であり、そうは言ってもという部分が多いことも認識しておりますがビジネスモデルの変革には大きな変化が不可欠です。どのようなビジネスモデルが適切かは試行錯誤が必要ですが、一案としてサブスクリプションモデルを検討してみても良いのではないかと考えます。一見すると“金融ビジネスにサブスクリプションは相性がよくないのではないか?”と思われますが必ずしもそうとは言えないと思います。(現状、金融ビジネスでサブスクリプションで大きく成功している事例がないのは事実です)個人的には工夫次第の部分が大きいと感じておりますので「金融ビジネスにおけるサブスクリプションモデル」というテーマでいずれ記事化できればと思います。

 金融におけるプラットフォームビジネスについて少し書きましたが、最後にテクノロジーの観点からも少し触れておきたいと思います。今後プラットフォーマーに欠かせない技術要素としてビッグデータとAIが挙げられます。これは金融に限った要件ではなくプラットフォーマー共通の基礎要件と言えます。ビッグデータ・AIという技術を応用し、どのような付加価値を創造するかが勝負です。1つの方向として「自律型金融」という考え方があります。あまり聞き慣れない言葉かと思います。詳しく解説すると長くなってしまうので「自律型金融の未来」に関してはいずれ記事化できればと考えておりますのでそれまでお待ちください。簡単に言ってしまうと、自動車における自動運転レベル5のようなサービスを金融においても実現し、データとAIを駆使し高度に自動化・パーソナルに最適化されたサービスを中立的な立場から受けることが出来る世界です。金融とテクノロジーの融合はまだ検証が不十分で妄想レベルですが夢が広がる分野でもありますので引き続き検討し、思考メモを足跡として残したいと思います。

 

まとめ

 前後半に及んだ「金融サービスの変遷と未来予測」ですが前半は過去と現在の俯瞰、後半はこれから起きる変化の未来予測という構成です。後編である「リバンドリングされた金融サービスへの移行」で示した変化・考えからのポイントは以下となります。

  • 機能分化した金融サービスは再度結合される(リバンドリング)

  • 金融仲介サービス業の仕組みを用いてリバンドリングされる可能性が高い

  • 顧客チャネルは緩やかに単一チャネルへと集約される

  • 金融サービス仲介業者はプラットフォーマーの性質を備えている

  • 付加価値チャネルは抜本的な収益モデルの検討が必要

  • サブスクリプションモデルは検討の余地あり

  • プラットフォーマーはデータ・AIドリブンな組織である必要がある

  • 将来的に自律型金融の未来が訪れるかも

  普段仕事でレポートを作成する際は文字数や立場を意識せざるを得ないことが多く、noteでは頭の中の思考をそのまま吐き出し、同じような問題意識を抱いている方の参考になればと考えております。投稿は不定期で金融を中心に私が感じる課題をテーマとしたいと考えております。


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