お題創作「クランベリー」

コメントいただいた「ガイト」さんに倣って、ひとつやってみました。



「そんな…モモ…どうして…」

思わず、 声が漏れた。
潜み寄り覗き見をしているという自分の状況など、 さらりと頭から抜け落ちていた。
目の前には、 灯火に照らされ陰を落としつつもなお眩しき白き裸体。 容易く手折れそうな細い脚。 赤みがさした頬もあいまり、 ただ目撃するだけでも目を奪われておかしくない立姿。

「……見てしまったのですね」
聞こえた声は、 響きも持たぬ静かなものだった。


彼女と出会って、 はてどれほどの時が経っているのだろう。 ある夜訪れた彼女を引き入れ、 なんとはなしに面倒をみ、 なし崩し的に同棲し、 恩返しを申し出た彼女の面持ちに呻吟出来ぬなにかを感じた。

部屋を一室貸すこと、
いいと言うまで開けてはならず見てはならないこと。

二つの約束をして、 部屋に篭った彼女は、 さほど動いた様子もなく、 ただ窺い知れるのは光の瞬きや水の流れる音ばかりであった。

恩返しは見事なものだった。
部屋を出た彼女は小箱を片手にどこかに出かけ、 帰ってきては貯金箱に決して小さくはない程度の額を入れていた。 それが毎日、 半月に及んだのだ、 生活の助けとして十二分と言っていい。 おまけにジュースまで携えていることもしばしばだった。


好奇心には勝てなかった。

約束は、 守られなかった。


部屋に並ぶはなみなみ満ちた大瓶達。 40本に至るそれらを埋める、 ニシンの山。 除菌消臭はされていない。 生臭い。 数えて37.5ガロンのニシンに囲まれ、 俯く彼女。

「約束、 いたしましたのに…」



ガチ野生でもたぶん無い獣臭の取り合わせ。 ええい、 いっそもっとぐわっと強めて嗅覚ごと飛ばしてくれたらいいのに!!
「すまんなんか言ってたよな今、 いやいま大事なとこなのは分かってんのよ待ってちょっと処理落」


鶴の行方は、 杳として知れない。


約18分、755文字。

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