Vol.4:台本をインターネットで公開することの難しさ
皆様こんにちは、あるいはこんばんは、みじんこきなこです。
新サービスCoWaASを始めるまでのよもやま話を連載するマガジン、「私がCoWaASというWebサービスを公開するまで」
今回からは、実際にこのサービスを開発しようと思ったきっかけの話を、全3回で執筆していきます。
台本をインターネットで公開することの難しさ
なんかいびつな音声作品の世界
けっこう楽しかった音声企画
本日の内容は、その全3回の一番目、台本をインターネットで公開するときの難しさの話を書いていきます。
前置き:インターネットでいろいろ公開できる時代
見出しがもうインターネット老人会丸出しですが。
旧来レンタルサーバを借りて、HTMLやCSS、CGIを書いてホームページとして情報を公開していた時代からすると、最近は随分インターネットで何かを公開する難易度が下がりました。
同時にそれが逆にいろいろな課題を生んでいるように感じたのが、CoWaASを開発することにしたきっかけでもあります。
下がる技術的な難易度
インターネットで何らかのコンテンツを公開しようとしたとき、私がインターネットをいじり始めた1990年代ではどんな感じだったかというと。
24時間365日動かせる機材を買う
10万20万じゃ効かない(;'∀')
固定IPを買う
マジで10万20万じゃ効かない(´;ω;`)
ディスクを初期化してフロッピーディスクに書いたOSをインストールする
Windowsのインストールですら丸二日かかる…
インターネットからHTTPサーバのプログラムを落としてくる
そして何時間もビルドする
ドメインを買う
起動できるようになったらHTMLとCSSと書いてフォルダに配置する
それこそ、いざホームページを始めようと決心してから、平気で1か月が過ぎ去っていくような時代でした。
それが今では特にこだわらず最速の方法で行くならば、
HTTPサーバのコンテナ起動でクラウドVMを起動する
コンテンツをアップロードする
あれ?10分で終わる…
もちろん多少時間はかかるもののもっと技術的に簡単な方法で行けば、例えば各社の無料ブログを開設するという方法もあります。
それこそ、noteだって全然いいわけですし。
しかし、昔と今では技術的な難易度が下がった反面、「別の難易度が上がってきたなぁ」と私は感じるのです。
上がる心理的難易度
昔のインターネットは、趣味としてコンピュータやソフトウェアを利用するにはある程度のお金と知識が必要でした。それがユーザーの民度がどうということに影響があるとは思いませんが、少なくとも今より圧倒的に人数が少なく、所謂「炎上」という事態は起こることがあまりありませんでした。
接続時間でお金がかかっていたし、不快な情報にはかかずらかるだけ無駄だったのです。
技術的難易度が下がり、またインターネットの利用が定額のサービスが一般的になってくるにつれ、あまりかかわる必要のない情報にまで無用な口出しをすることが簡単になってしまいました。
最近だと、2022年7月の法改正とかありましたよね。
要は、創作したコンテンツの発信そのものは簡単になったのに、ただ公開してしまうと思わぬ犯罪に巻き込まれてしまう可能性が高くなってしまったわけです。
※誹謗中傷は刑法犯罪です、ダメ、絶対!
CoWaASを作った理由:シナリオエディタ
さて、長くなりましたが、ここまで書いてきた前置きが、CoWaASのシナリオエディタを開発するに至った理由につながってきます。
台本はお金を得ることができる創作
音声作品の台本や劇台本は、一般的にその分野になじみのない方にはピンと来ないかもしれませんが、意外とそれなりの収入になります。
例えば、朗読劇などをされている劇団さんの公演に台本の利用を許諾すると、1公演5000円~収入が得られたりします。
また、同人サークルの作品などに台本を提供したり、動画配信サイトのコンテンツへ提供したりと、意外と利用のすそ野は広い分野でもあります。
私も手取り少なかった時には何度か救われました(多謝)
ただこれにはいくつか問題点があります。
決済方法
台本はインターネットに連絡先付きで公開しているものですが、基本的にリアルな生活のプロファイルは匿名です。なので現在でも、よほど信頼がおける場合でない限り定額小為替、銀行振り込み、コトラやペイペイなどの送金が使われ、要は利用側の収益が確定する前にお金が必要なこと、いずれの決済方法も何らかの個人情報を直接開示する必要があることが問題になってきます。
口約束な取り決め
個人で公開している台本の場合、よほどしっかりした作者でない限り契約書のようなものは交わしません。
なので、取りっぱぐれることもままありますし、トラブルになったということを見聞きすることもあります。
そしてインターネットの世界なので、トラブルを起こした悪質なユーザーを識別して警戒する方法がありません。
交渉ごとの多様性と面倒くささ
台本を利用したいというご連絡をいただいた場合、そこから利用するための条件や金銭の交渉をメールなどでやり取りします。
これがどうにも面倒くさい。。。
利用する側の事情も多様であれば、創作する側の事情も多様であるため、一回二回のメールのやり取りで済ませることがなかなか難しいのです。
創作する側としたら、著作権を侵害してこない限りは一回ルールを一本決めてそれに則ってやってもらえれば基本的に文句はありませんし、利用する側も一々それぞれの都合に合わせる面倒くささがなければもっと様々な作品を使っていけるでしょう。
広く使ってほしいけど、広く使われるほど面倒ごとが増えていく、なんとも難しい問題ですが、実はこの問題を完全とはいかないまでも、ある程度克服している分野が存在します。
多分エンジニアの方だとピンとくるはず。そう、OSS(Open Source Software)の分野です。
意外と知られていない著作権とかライセンスとかの妥協点
IT関連の世界では私が産まれるよりもはるか太古の昔、電話機がピーガガーっとうなりを上げて情報をやり取りしていた時代から、インターネットの広大な荒海にソースコードを公開するという行為は行われてきました。
現在では誰しもが「無料 〇〇 ソフトウェア」というキーワードを、検索窓に一度は打ち込んだことがあるのではないでしょうか。
実はこうしたソフトウェアにも著作権というものは存在します。
ですが同時に、無償のソフトウェアの著作権の揉めごとは、IT系以外の人がピンとくるほどあっちこっちでは起きていないですよね。
これはソフトウェアの分野では、ライセンス(使用して良い条件)を大多数の技術者が納得いく形である程度整備しているからという事情があります。
ライセンスには有名なものとしてたとえば、GPL(GNU General Public License )やBSD(Berkeley Software Distribution)といったものがあります。
要は、「著作権は放棄しないけど、この条件を外れなければ著作権料支払わなくていい(もしくはこういう条件で払ってね)」というものが、あるわけです。
そして、台本の創作の世界では、こういったすでにある解決事例はあまり顧みられていません。
その結果、「勝手に利用された」とか、「勝手に改変された」とか、そういう愚痴がSNSに投稿されるわけです(モッタイネ)。
要はITの仕組みを取り入れればいいじゃない
CoWaASでは、この著作権周りの問題の軽減※を目指して、シナリオエディタとそれに付随するライセンスセレクタという仕組みを開発しています。
※解決ではなく軽減です。
実は文章、絵画、音楽の分野でも、CC(Creative Commons)というソフトウェア分野に類似したライセンスが存在します。
これは、許諾範囲が広い(利用条件が緩い)方から順に、
CC-BY (表示)
CC-BY-SA (表示—継承)
CC-BY-ND (表示—改変禁止)
CC-BY-NC (表示—非営利)
CC-BY-NC-SA (表示—非営利—継承)
CC-BY-NC-ND (表示—非営利—改変禁止)
に加えて、PDという著作権の放棄または保護期間が終了したものの7種類で表されるものです。
(よくCCは全部無料だと誤解してる人いるけど、無料なのは1~3でしかも利用時にちゃんとルールを守った場合のみ)
CoWaASではシナリオエディタで作成した作品を、ライセンス情報とともに専用のサーバに保存して、作品の盗用を防ぐしくみです。
また、どのライセンスで公開したらいいかわからないとならないよう、台本作者や演技者のわかりやすい質問にいくつか答えるだけで、事情に合ったライセンスを選択できるライセンスセレクタを提供します。
さいごに
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本日はCoWaASを開発するに至った一つのきっかけ、私が感じた「台本をインターネットで公開することの難しさ」と、それがCoWaASの機能にどのように繋がったかを解説させていただきました。
現在も本番化に向けて様々な調整を行っていますが、もし興味を持っていただけたらローンチ後、ご利用いただけると幸いです。
また、クラウドファンディングのページをプレビュー公開しています。
まだ募集前ですが、実際のクラウドファンディングのページはこちら↓