薬か毒か
先日、母校の有機化学の先生の講演会を受講したので、内容を忘れない為に、まとめたいと思う。
①有機化合物について…
有機化合物というのは、炭素( C ) が入っているものをいう。
炭素にH、N、O、S などの様々なものが付いているものをいう。
有機化学反応というのは、酸化反応、還元反応、加水分解反応など、ごく身近に、体内などで起こっている反応だ。
②アスピリンについて
身近な化合物でいうとアスピリンは、痛みが止まる、熱が下がる、解熱鎮痛消炎、血小板凝集抑制などの作用がある。
アスピリンとは、どんなものであろうか…。
昔、それこそお薬がなかった時代東洋では、柳の枝を噛んで痛みや熱を下げていたそうだ。
昔の爪楊枝には、柳の枝が使われていたらしい。
(今は白樺の木が使われていて、アスピリンは含まれていないが…)

一方で西洋では、柳の樹皮からお茶を作って飲む習慣があったようで、それがサリシンという化合物の発見になったそうだ。

サリシンというのは、1853年にリウマチ患者に治療として使われていたそうだ。
サリシンから、サリチルアルデヒド、サリチル酸を使用していたそうだ。
だが、サリチル酸というのは、苦く胃が悪くなることが欠点だったそうだ。
サリチル酸は、アセチル化することによって、効果が増し、苦みという欠点が減り、それが今のアスピリン ( アセチルサリチル酸 )の発見に至ったそうだ。
アスピリンの欠点として、
-出血しやすくなる。
-ぜんそくの発作が起こることがある
-ライ症候群(お子さん)が起こることがある
などがある。
ライ症候群 ( Reye's syndrome )とは、インフルエンザや水痘などの感染後、特にアスピリンを服用している小児に急性脳症、肝臓の脂肪浸潤を引き起こし、生命にもかかわる原因不明で稀な病気である。(かつて、らい病とも呼ばれたハンセン病とは全く異なり、ライ症候群の正確な原因はいまだ不明である。)
アスピリンのアセチル化の部分(CO-CH₃の部分)は、湿気に弱くサリチル酸になる為、古くなったアスピリンは苦くなり効果も若干減る為飲まない方がいい。
③体の代謝反応について
お酒は、百薬の長と言われている。
お酒は適量飲めば健康に良く、どんな薬よりも効果のある薬である。
体の代謝反応とは、体に異物が入ると異物を外に出そうと
まず水に溶かしてしまおうとして酸化反応が始まる。
酸化して水に溶かしてしまおうとする反応だ。
例えばアルコールは胃や小腸で吸収され、肝臓でアルコール脱水素酵素 ( ADH:alcohol dehydrogenase ) によってアセトアルデヒドに変換され、次にアセトアルデヒド脱水素酵素 ( ALDH2:aldehyde dehydrogenase 2 )
(ヒト12番染色体上に存在する遺伝子、またその遺伝子にコードされているタンパク質、ヒトの肝臓を中心に様々な組織、細胞においてエタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドを含む反応性アルデヒドの酸化及び無毒化に重要な働きをしている酵素)
によって、お酢 ( CH₃COOH )に変換する。
ですが、そのアセトアルデヒド脱水素酵素 ( ALDH2 ) の酵素が欠損している日本人が20人に1人くらいの割合でいる。
(アセトアルデヒド脱水素酵素1型も2型も欠損している日本人は20人に1人)
(アセトアルデヒド脱水素酵素2型だけ欠損している日本人の割合でいえば2人に1人だ。)
アルデヒド、というのは、体内で毒性を示す。
どんな毒性かというと、体の中のタンパク質を変性させてしまう。
NH₂-タンパク質 → CH₃C=N-タンパク質
という風に。
この物質はシックハウス症候群の原因になる物質だ。
実は医薬品のなかにも、ALDHを阻害するお薬が存在する。
セファロスポリン系と言われる抗生物質などだ。(フロモックス、セフゾン、メイアクト、バナン、オラセフ、ケフレックス、ケフラール等、一般にセフェム系全般)
そのほか、尿路消毒剤として使われる、ヘキサミン静注液などだ。

ヘキサミンとは、静注で投与した後尿中で分解してホルムアルデヒドを遊離し、尿に防腐性を与える静注の膀胱炎、尿路感染症、腎盂腎炎の薬だ。
(その他、安定性にも非常に優れ、硬化剤や発泡剤など産業面、化学工業において樹脂や合成ゴムなどを製造する際にも使用される。)
④チョコレートは毒になる⁇
生体内でも生合成されるアデノシンという物質 ( アデニンとリボースからなるヌクレオシド ) は、(中枢神経系の) アデノシン受容体にくっつくと、眠い、怠い。っとなる。
カフェインは、アデノシン受容体をブロックするアンタゴニストの1つであり、(カフェインは血液脳関門も突破しアデノシンの生理作用を抑制する)

アデノシンとは、様々な理由で細胞内から細胞外へ分泌される事が知られている。
低酸素状態に陥った組織の細胞からアデノシンが分泌されると付近の血管の平滑筋に作用して血管平滑筋を弛緩させる事で血管を拡張させて局所で血流を増加させようとする。


・アデノシンとは‥
体内で心筋のアデノシンA₁受容体がアデノシンを検知すると心臓の活動量を低下させる。
アデノシンは、神経伝達物質ではないものの、中枢神経系でもニューロンやグリア細胞から細胞外へと遊離して神経系の活動を調整する物質の1つである事が知られている。
中枢神経の中核である大脳に対し、アデノシンが及ぼす最たる作用は誘眠効果である。
疲労に伴い体内で産生されたアデノシンが脳内のアデノシン受容体に結合すると、覚醒を維持しているヒスタミンの放出が抑制される為、眠気を及ぼす。
(パーキンソン病においては大脳基底核に存在するアデノシンA2aに属する器官がドパミン欠乏による不調をきたしており、この改善が病状緩和に繋がることが知られている)
アデノシンの代謝、排泄経路は、アデノシンキナーゼによりリン酸化されAMPに変換されることで代謝される。
(また、AMPは体内の酵素によって再利用され、余剰なAMP、GMPはヒトの場合尿酸まで酸化され尿中へと排泄される)
カフェインには、体をかっかさせる、覚醒させる、おちつかせる、血管拡張作用などがある。
コーヒーには一杯、60mg、玉露(日光を遮って育てたお茶はカフェインの含量が多い)には160mg、含まれている。
カナダでは、健康成人は1日400mg未満(コーヒー3杯くらい)と推奨されている。
カフェインには、摂りすぎると吐き気や動悸、悪寒、意識消失、心肺停止してしまうおそれもある。
また、チョコレートにはテオブロミンという成分が入っていて、これはカフェインの構造に似ている。
チョコレートはどうして犬にあげてはいけないか、はこれが関係している。
⑤痛みを止める、大麻やモルヒネについて
日本では大麻は違法薬物の1つです。
大麻の使用は処罰の対象となっていないが、所持、栽培等が処罰の対象となっている。
大麻の種子や成熟した茎は規制対象外となっていて、
唐辛子の中の麻の実は、加熱処理され発芽できないようになっている。
だから大丈夫だそうだ。
アヘンとは、ケシの花の実から採取される果汁を乾燥させたもので、麻薬の一種である。
アヘンの中にモルヒネという化学物質が入っていて、
モルヒネは、アヘンを精製して生成される。
モルヒネには、強力な鎮痛作用があるが副作用として便秘症状がある。
またヘロインとは、モルヒネをアセチル化して作用を強めたものだ。
モルヒネは、昔はナルコレプシー(過眠症)にも使用されていた時代もあったようだ。
モルヒネは長期使用すると、ひどい便秘症状を起こすことがあるので、オピオイド療法と言って、モルヒネ、フェンタニル、トラマドール等と3種類ぐらいを交互に使用することによって、副作用等を軽減させるような治療が行われている。
(以上、有機化学の先生の記念講演会のまとめでした)