005 │ 藝大千住キャンパスの卒業・修了制作発表会




上野の東京芸大の卒展を見に行った時、千住キャンパスの卒業制作発表会のチラシをもらった。 上野の他にキャンパスがある事は知ってたけど、それが何処かはよく知らなかった。 都下とか埼玉じゃなかったっけ?  足立区とは言え23区だったのか、・・みたいな。

Twitterに上野の卒展の事をつぶやいたら、その千住キャンパス発表会の公式アカウントさんがフォローしてくれたりして(芸大というワードでヒットして、広報活動的に絨毯爆撃しただけだろうけど)、元は興味の外にありながらちょっと知る事になり、これも何かの縁と土曜の午後、千住キャンパスに向け自転車を出した。




美術学部ではない。私にはよく分からない音楽環境創造科と言う、どっちかっつーと音楽学部寄りの、展示ではなくて ”発表会” だ。 今まで謎に満ちていた?千住キャンパスの音楽方面の発表。 いったん興味が湧くとすごく面白そうに思えた。




場所は「こんなところにある? 道間違ってねぇ?俺」って感じだったけど、来てみたら勿論きちんとした、大学らしい学び舎。外観も内部もちょっと硬い感じが、高校時分の音楽科棟を思い出させた。そうそう、土足厳禁の部屋とかあったよなー。




幾つかアニメーション上映を観た。美術学部にも映像インスタレーションはあったけど、そことの大きな違いは多分、音楽=劇伴、も音響からしてイチから制作されているだろう点。もしかしたら楽曲=音、からアプローチした作品もあるのかも知れない。だから見応えもあった。


高橋紗知 作「あいたたぼっち

引き込まれた。絵本のような優しげな絵柄とキャラクターが、しかし空虚で恐ろしげな扉をこじ開ける。”剝く”という衝動をきっかけに虚無へ向かって深化する。切なく悲しい、夢に出そうな奇譚だ。


櫻井美希 作「Out of My Mind

作者の深層意識を抽出したようなダークなシーケンス。学生時よく分見に行った「PFF」を思い出した、アンダーグラウンドな世界。 冒頭何者かがイビキをかくシーンがあるのだけど、音響(スピーカーシステム)が凄すぎて、会場の誰かが不届きにも、高らかに居眠りしてるのかと思ってしまった臨場感、驚いた。


伊東珠里 作「おさげを切る話

少女の憎々しげな表情と動きが魅力的だ。成長した少女が切り落としたのは何だったのだろう・・。デザイン科 村上紀之さんとの共同作品。


林そよか 作「Deep Sea

映像は伴わない音楽作品。それを薄闇の中で聴いていたら、タイトルは ”深い海” だけど、なぜか枯れかけた草原に覆われた未来の廃墟を連想した。乾いた風と空間を感じさせる楽曲。




論文発表を見た。

ステージの拡張 ─ バックステージ映像からみたアイドル ─」というテーマが興味深かった。 そんな隙間? な分野を卒業時に論じる、音楽環境創造科の懐の深さを感じた。 その論者である鈴木七海さんのプレゼンテーションは明快だ。 私のような、バックステージ映像(注)が何かを知らないボンクラも分かるところから始まり、しかしバックステージ映像そのもを近視眼的に解析するのではなく、バックステージ映像を切り口に、様々なアイドル・グループの構造を分解し、ネット配信時代のアイドル・コンテンツの流れにまで言及する。 楽しい講義だ。

最後の質疑応答で図々しく、挙げた中に個人的にファンであるアイドル・グループはいるか?などと質問したら快く答えて下さった。 で、私はてっきり、そのファン精神?からバックステージ映像について論ずる事になったと思ったら、鈴木さんが補足してくれたところによると、もともと贔屓にしていないアーチストのものでも、バックステージ映像という素材に興味があったとの事。 いろいろなものに興味を持ち、それを掘り下げる人がいるものだなぁと感心した。

:バックステージ映像は、ライブ映像ソフトなどに収められている、タレントやアイドルがステージ上で身構えている時以外の状態を映した、総じて短い、ワンカット数秒のもの。ストーリー性やメイキングとしての意味は薄いが、素の状態に近いそれは、ファンがタレントやアイドルを身近なものに感じる効能がある)


17時に千住キャンパスを後にしたかったから、志野文音さんの「クラシックギターにおける異弦同音と弾弦位置の違いによる音色変化」の講義は途中退席してしまった。 音楽は完璧に門外漢の私にも、こまかな実験を1つ1つ重ねて組み上げた考察と、志野さんの、ゆっくり畳み掛けるような口調のプレゼンテーションは分かりやすく、最後まで聴きたかったのだけど失礼な事をしてしまった。 申し訳ありません。




卒業制作(あるいは卒業論文)は、直接的には4年間ないし6年間の成果と言えるけど、次の創作や活動や仕事のためのprototypingでもあると、最近見た卒業制作展やこの発表会から感じる。

作品(や論文)の尖った部分は、それを成した学生の ”らしさ” が、最も滲み出てたり結晶化している。 そういうものをカタチに落として他者が見れるよう外部化した事は、trialではなく先々のヒントや指針にもなる。

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