『夏休みのレモネード』 隠れた傑作、これいかに? 第8回
『夏休みのレモネード』 2001年/アメリカ
監督・脚本:ピート・ジョーンズ
出演:ケヴィン・ポラック、アイダン・クイン、ボニー・ハント
8歳の少年ピートは“探求”にのめりこみ、
ユダヤ教会の前でレモネードを配って、
キリスト教に改宗すれば天国に行けると喧伝しはじめる。
ユダヤ教会のラビはそんな彼を許容するが、
消防士をしているピートの父は、息子が子供らしい遊びより宗教に熱をあげている事を快く思わない。
そんな折、ラビの自宅で火災が発生。
ラビの息子ダニーを命がけで救い出したのは、ピートの父だった。
ほどなく彼は、ダニーが白血病に冒されている事を知る。
人気俳優マット・デイモンとベン・アフレックは『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の脚本を書き、
その年のアカデミー脚本賞に輝きました。
本作は、優れた脚本家、プロデューサーでもある2人が
新人発掘のために立ち上げた“プロジェクト・グリーンライト”という企画で、
数多くの応募シナリオの中から映画化した作品。
監督・脚本のピート・ジョーンズの経歴について私はよく知りませんが、
この、まるで稚拙さの見られない成熟した映画作りは、
初監督作として驚異と言えるでしょう。
そして、優れた作品がなべてそうであるように、
ここでは登場人物がみな、愛情をもって実に丁寧に描かれています。
重量級の主題を扱っているにも関わらず、
ダイアローグや芝居の作り方が至って軽妙で、
乾いたユーモアすら盛り込まれている点は感心。
短めの上映時間の中で、
普通なら蛇足と考えられるような他愛のない会話をふんだんに盛り込む一方、
重要な場面は逆に、
前後のシーンから推察する程度にとどめられています。
その事が、どれほどこの映画を小気味よく、詩的にしている事でしょう。
大変に難しいテーマを扱った映画ではありますが、
結局人間は、
どんな宗教を信じ、どんな神に祈るかではなく、
どう生きるが大事なのだという事を、
まさしく8歳の子供にも理解できるほどの分かりやすさで示してくれます。
宗教が障壁となって関係に齟齬をきたす両家の父親と、
何の偏見も持たず、自分たちの流儀でいとも簡単に宗派の垣根を行き来する子供達。
その対比はユーモラスでありながら、爽やかな感動を呼び起こします。
ここで描かれる子供たちと世界の関係は極めて純粋で、
大人たちの矛盾に満ちた理屈に比して、
はるかに筋が通っていて説得力があります。
なぜかほとんど世に知られていない映画ですが、
実力派の名優たちがキャスティングされていて子役の演技も良く、
ぜひご覧いただきたい小品です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。(見出しの写真はイメージで、映画本編の画像ではありません)