『血とバラ』 これ観てみ! 忘れられたマイナー映画たち 第4回
『血とバラ』 (1960年、フランス)
監督:ロジェ・ヴァディム
出演:メル・ファラー、アネット・ヴァディム、他
また古いフランス映画に舞い戻ってすみません。
まあDVD時代に製作された映画は、
大抵DVDになっているという事です。
こちらはカラー作品ですが、
一シーンだけパートカラー。
耽美派と称されるヴァディム(そんな派閥、他に誰かいるのでしょうか?)の映画は、
70年代以降のものを除いて、意外に多くがDVD、ブルーレイで発売されていますが、
本作はLDはおろか、なぜかVHSも出なかった様子(海外ではDVD化されています)。
ただ、過去に何度か、突然思い出したようにテレビ放映していたので、
それを録画していた私はなんとか観る事ができるのです。
本作は、
故・大林宣彦監督の16ミリ自主映画、
『EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ』でオマージュが捧げられている事で、
一部の人にはよく知られた作品。
確かに、
愛の物語、
美への執着、
哀愁を帯びた音楽、
ピアノを使った演出と、
大林映画に共通する要素は満載と言えるでしょう。
主演女優に手を出しまくったヴァディムの例に漏れず、
本作には二番目の妻、アネット・ヴァディムが出演。
レ・ファニュ作『吸血鬼カーミラ』の映画化ですが、
ドラキュラ映画らしい直接的な残酷描写はほぼなく、
恋愛映画のヴァリエーションとして解釈しているのがヴァディムらしい所。
古城を舞台にしているものの、
時代設定は現代で、
映画全体のテイストもすこぶるモダンです。
ヴァディムの初期作品はどれも先進的ですが、本作は少なくとも10年以上は先を行くセンス。
彼自身、「時代に先駆けた作品だった」と述懐しています。
海外でDVDが出ているという事は、
権利関係が複雑な訳ではないのでしょうか。
今でも新鮮に観られる傑作なので、
関係者様には是非デジタル化をお願いしたいです。
以下、ここがスゴいと思うポイントを箇条書きにします。
◎ここスゴポイント・その1《よく出来た脚本》
私は原作を読んでいないので、設定が同じなのかどうかは指摘できませんが、
映画版は脚本がおそろしく良く出来ていて全く見事。
元々微妙な三角関係がある所へ、
花火大会によって戦時中にナチスが残した地雷が暴発。
地元で吸血鬼と噂される家系の墓が破壊され、ミラーカの魂が解き放たれます。
悲しい三角関係と、吸血鬼憑依のプロットの巧妙な絡み合い。
レズビアン的な裏テイスト。
◎ここスゴポイント・その2《時代の先をゆく映像と編集のセンス》
ヴァディムは、ヌーヴェルバーグの映画作家たちとは少し距離のあった人ですが、
俳優やスタッフに共通する人材も多く、
ロケーション撮影を多用する姿勢も共通。
レオポルドたちが車で移動するシーンは、
走る車の正面、それも外から撮影され、
その上に雨まで降らせています。
小間使いのリザが襲われるシーンはサスペンスフルな演出で、
その死をめぐってジュゼッペたちが意見を戦わせる場面も、
スピーディなカットバックで処理。
◎ここスゴポイント・その3《アート・フィルムのような幻想シーン》
ジョルジアの幻想シーンで映画はモノクロに変わり、
カーミラの白いドレスに血の染みが広がってゆく様子をパートカラーで表現。
劇場ではこの場面になるといつも、
客席からホワ〜っというため息が上がったと伝えられます。
近未来的な手術場面や、
窓を開けると水面になっていて、
死んだリザが泳いでくるイメージなど、
アート・フィルムのようなセンスは驚き。
◎ここスゴポイント・その4《幅広いジャンルを取り込んだ音楽》
ジャン・プロドロミデスの音楽も魅力の一つ。
彼はアルベール・ラモリス監督の名作、『素晴らしい風船旅行』の音楽を書いた人です。
ここでは、古代の音階を使ったハープのテーマ曲を基調に、
哀感に満ちた弦の旋律、
現代のダンス音楽までも挿入。
レオポルドの釣りの話に、カーミラが即興でピアノ伴奏を付けるシーンでは、
ジャズのセンスも盛り込んでセンスの良さを垣間見せます。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。(見出しの写真はイメージで、映画本編の画像ではありません)