あくまでアマチュア書評集 “ワケあって未購入です” #6 『夜の国のクーパー』 伊坂幸太郎 (2012年、東京創元社)
初めて読む作家なので、図書館で借りてお試し。ずっと気になっている作家ではあったが、私は好きな作家の本を出来るだけ全部読もうとするタイプなので、現在読破中の作家がたくさんいる中、新しい作家に手を伸ばすペースが遅いのである。
異世界ファンタジーでもある本書は、伊坂幸太郎作品では異色のようだが、私のように、逆にそれゆえ手に取る読者もいるわけだ。もっとも、氏のタイトルの付け方は私好みであり、表紙買いをする私のような人間には、どれをとっても読書欲が湧く。
面白そうなので選んだだけあって、実際とにかく面白い。文庫本であれば、私は通勤や会社でほぼ毎日読んでいるが、本書はあまりに面白すぎて、気がついたら昼の休憩を数分オーバーしていた事が二度もあった。家に帰っても続きが読みたいのだが、自宅では単行本と決めているので、必死に我慢して読まないようにしたくらいである。
句読点の位置がやや引っかかる事を除けば文章は巧いし、ミステリ特有の短所、つまりトリックや伏線を優先させるがゆえドラマが不自然になる事も、本書にはあまりない。これはたぶん「買い」だなと思っていたら、なぜか読み終わった時点でもう満足してしまっていた。なぜだろう、と自分でも不思議に思って考えてみたが、どうもこの本、自分の中にほとんど何も残らないのである。いや、気持ちいいほど何も残らない。
もう一度、振り返って考えてみる。伊坂氏は、キャラクターの背景や心理、人間性を掘り下げるという事を、ほとんどしない。文学性とか詩情とか、あるいはアーティスティックな所は、まるで無い。
キャラクターはごく数種類のステレオタイプに、まるで記号のように分類される。実直で無口な職人型、短絡的な直情型、素直すぎる天真爛漫型、自己保身しか考えない小心狡猾型、達観した老人とか。それ以上の描き分けは「必要ない」とばかりに切り捨てられている。
実際、それでいいのだろう。ミステリとはそういうジャンルなのだ、と言われてしまえばそれまでである。人物の内面や世界観の洞察にぐっと軸足を置けば、村上春樹の文学に肉迫する可能性もあるのだが、そうでなくとも伊坂幸太郎は超人気作家である。海外でも作品が映画化されるほどの売れっ子だ。私だって、これからまだまだ伊坂作品を読むだろう。食い足りない気持ちは募るにしても。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。