『おいしい結婚』 これ観てみ! 忘れられたマイナー映画たち 第9回
『おいしい結婚』 (1991年、日本)
監督:森田芳光
出演:斉藤由貴、三田佳子、唐沢寿明、他
私は森田監督の大ファンでした。
彼がまだまだこれからという61歳で亡くなってしまった事は、
日本映画界にとって計り知れないほどの損失だと、
今でも本当に悔しい思いがします。
もう、こういう破格の天才は現れないのではないかという気もしますし、
実際、彼ほど個性的な自分のスタイルを持った映画を撮る人は、
未だ現れていないのではないでしょうか?
森田氏は、日本映画の監督としては比較的ソフト化に恵まれている方だと思いますが、
そんな中、『シブがき隊 ボーイズ&ガールズ』『愛と平成の色男』と共に、
単発ではDVD、ブルーレイ化されていないのがこの『おいしい結婚』です(全集セットあり)。
主題歌はASKAの“はじまりはいつも雨”で、
主題歌があんなに大ヒットした事を考えると、
映画本体のこの冷遇ぶりにはなかなか納得できないものがあります。
オリジナル脚本による物語は、
周囲の雑音に悩まされる適齢期の女性・のんが、
次々に持ち込まれる縁談を断るため、
会社の同僚・保を恋人として皆に紹介するという疑似カップル物。
そこに、のんの母でシングルマザーの美栄子、
結婚コンプレックスを持つ保の父・重樹が関わってきます。
のんを煩わせる「雑音」の最たるものが、
小林稔侍、橋爪功、斉藤晴彦が演じるお節介なオヤジ3人組ですが、
彼らの描写にモリタ映画らしいズレ感が最も強く出ているので見逃せません。
若き頃の爆笑問題も登場し、
随所に森田作品ならではのクスクス笑いが散りばめられているのは嬉しい所です。
物語は、疑似カップル物の定石でもある「本物の恋への転化」を踏襲しつつ、
そこは森田映画ですから、
ステレオタイプを地で行くような描写は全然ありません。
そして、節度を保ちつつも、ほのかに暖かな情感を漂わせた、素敵なラストシーン。
初期の森田作品は、
人間味と夾雑物を徹底的に排除し、
極度に記号化/デザイン化された演技と映像設計が特色でしたが、
原作物だった『それから』と『キッチン』に見られた繊細な感情表現と人肌の温もりが、
本作以降はっきり目立つようになってきました。
おずおずと手を伸ばしてくるような、
あくまで控えめなニュアンスではありますが、
このラストシーンには後の森田作品に底流する、
抑制の中からすうっと染み出てくるような抒情性が充溢しています。
そして以降のモリタ映画には、
小津安二郎の影響が云々されはじめる(監督自身、本作では小津作品を意識したと語っています)。
80、90年代の日本映画は、
なぜかテレビ放映の機会も少なかったりしますから、ぜひデジタル化して欲しい所です。
本作などは正に、何度も観返されるべき傑作の部類に入る映画でしょう。
それにしても森田氏のみならず、
クシシュトフ・キェシロフスキ、
テオ・アンゲロプロス、
アンドレイ・タルコフスキーと、
常に新作が期待される天才監督に限って、
早くに他界してしまうのはどうした事なのでしょう。
一映画ファンとして、彼らの新作はまだまだ観たかったです。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
(見出しの写真はイメージで、映画本編の画像ではありません)