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『点子ちゃんとアントン』 隠れた傑作、これいかに? 第10回

『点子ちゃんとアントン』  1999年/ドイツ
 監督:カロリーヌ・リンク  出演:エレア・ガイスラー、マックス・フェルダー

仲良しの小学生、点子ちゃんとアントン。
裕福な家庭に住む点子ちゃんと違い、
アントンは病気がちの母親と二人暮らしで、
アイスクリーム屋の仕事を内緒で引き継いでいる。
離婚した父親がベルリンにいる事を知ったアントンだが、
大人たちは忙しくて真面目に話を聞いてくれず、点子ちゃんとお金を稼ぐ方法を考える。

『ふたりのロッテ』『飛ぶ教室』など、
世界中で親しまれているドイツの児童文学作家エーリッヒ・ケストナーの原作を、
優しく、愛情を込めて描いた珠玉の作品。

監督・脚本のカロリーヌ・リンクは時代を現代に移し替え、物語が持つ普遍的なテーマと現代社会の問題点を巧妙にミックスしています。

まずはオープニング・タイトル、
イラストでも見るかのような、淡く、可愛らしい映像に、
一度聴いたら忘れられない、軽快でいてどこかセンチメンタルなテーマ曲が流れてきた瞬間、
私はもう瞬殺でやられてしまいました。

リンク監督は、なんと柔らかで、みずみずしく、素敵なセンスで全編を彩っている事でしょう。

まったく彼女といったら、どんなキャラクターにも魂を吹き込み、
ほんの脇役に過ぎない人物にまで、たっぷりと愛情を注ぎ込むのですから。

それこそ、若くて優しいアントンの母親だけでなく、
家庭教師のロランスや清掃婦のベルタ、
担任の先生、悪知恵の働くいじめっ子達や、
家庭を省みない点子ちゃんのママに至るまで、
誰もが実に魅力的に描き込まれていて、
演じている役者も、大人から子供まで、
すこぶる生き生きとしているのです。

この映画を優れていると思うのは、
子供達が主人公だからといって、お子様向けの演出に傾かず、
あくまで子供達と対等の立場で物事を考え、問題意識を持ち、
さらに、大人たちの問題も真正面から描こうとしている点です

そのため、大人の至らない点が表面化すると同時に、
子供側の非も問題にされるし、
その一方で子供たちの美点も取り上げられ、
大人たちの優しさや愛情もきちんと表現されます。

それは大人と子供のコミュニケーションに限らず、
大人同士、子供同士においても、
お互いが示す思いやり、対立や和解に、しばしば胸を打たれるのです。

演出は、こういう映画によくあるオーソドックス一辺倒ではなく、
サスペンスフルな空撮やミュージカル風の場面を挿入したり、
手持ちキャメラやステディカムも使って、各場面を多彩なニュアンスで造形しています。

点子ちゃんの路上パフォーマンスや、
バンで暴走するアントンの追跡シーン、
泥棒退治のシーンなど、
エンタメ精神を発揮した場面には事欠きませんが、
深く印象に残るのは、点子ちゃんと母親が対立するプールサイドのシーンや、
ロランスとのお別れなど、しみじみとした叙情的な場面。

そしてラストの、
浜辺に遊ぶみんなの姿を遠巻きに眺める点子ちゃんの眼差し。

ちょっと大人ぶって気取った調子で、
しかしながらとても正直に呟く点子ちゃんの独り言は、
それがかえって彼女の多幸感を、暖かく、静かに表していて、
みているこちらも胸がいっぱいになります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。(見出しの写真はイメージで、映画本編の画像ではありません)

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