『SYMBOL PALLET』ゲームデザイン備忘録~四章:数理的処理によるルール制定
序章:”色”の特性の利用
一章:一次元から二次元へ
二章:自由と制限の狭間
三章:メカニクスから考える勝利条件
★四章:数理的処理によるルール制定
五章:テストプレイによる調整
閲覧ありがとうございます。ボドゲ工房Rのランブンです。前回までで『SYMBOL PALLET』の基本的なルール制定の思考プロセスを記事にしました。今回はその状況からゲームを遊ぶことができる状態にするまでの思考プロセスを記事にします。
タイトルでは数理的処理という小難しい単語を使っていますが、要は「ゲーム中に現れる様々な値(タイルの枚数やアクションの回数)は、計算(理屈)である程度想定できる」という意味です。もちろん、最終的にはプレイ感が良いものを選択するべきです。けれども、その候補を絞り込む際には、やはりそれを選択する根拠を考えておくのが良いと思います。
かなりマニアックな内容ですが、最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
それでは本題に入ります。
前回までのルールから、ゲームの流れは以下の通りにすることにした。この制定に関しては特に書くことが無いため、結果のみ記すことにする。
①場に初期のタイルが置かれ、そこにチップを置いていく
②プレイヤーには手番があり、手番ではタイルを置くか引く
③山札が無くなり次第ゲーム終了、点数計算を行う
チップの枚数
メカニクスが機能しているかを確認する過程で、チップの枚数が1枚かそれ以上かによってプレイ感に差が生まれることが分かっていた。チップが1枚だと他のプレイヤーだと他のプレイヤーへの干渉が少なく、複数枚だと干渉が多い。そして、ゲームの方針でソロゲー感を避けることが決まっていたことから、チップの枚数は2枚以上の方が良いという結論となった。
よって、まずは2枚と3枚との比較になった。けれども、すぐに3枚はゲーム中に扱いきれないことが分かったため、最終的にチップ枚数は2枚とすることにした。
ゲームの開始方法―初期の盤面形成
ゲームの開始方法は、競技性や公平性よりもシンプルさが大切だと考えた。理由は二つある。
一つは「公平なスタートを行うことによる勝敗への影響が、開始にかかるプレイ時間と比較して見合わない」からである。競技性、公平性を担保する開始方法は言い換えればランダム要素を取り除くという意味で、これはどうしても時間がかかってしまう。けれども、序盤に公開される情報量を考えると、開始時にどれだけランダム要素を取り除いたとしても勝敗結果へ与える影響は小さい。影響が小さいのであれば、そこにあえて時間を割く意味は無い。多少ランダム要素が強まったとしても、シンプルですぐにゲーム(タイルを配置する)を始められるルールの方が良い。
もう一つは「初回プレイ時にプレイヤーのストレスになりやすい」からである。序盤の盤面形成はゲーム後半にはない要素であり、『SYMBOL PALLET』に慣れたプレイヤーにとっては面白い駆け引きに成り得る。けれども、初回プレイヤーにとっては真逆で、ゲームの流れや定石が分からないまま難しい操作をやらされることになる。
他のゲームを挙げるのは憚られるが、先の代表は『カタン』である。『カタン』は後半(ダイスや交渉)のプレイを考えながら前半(トークンの配置)を行う。しかし、それは後半の動きが分かっている前提であり、初回プレイヤーにとっては意味が分からない時間(適当にトークンを置く時間)となる。しかも、前半が悪いと後半に甚大な影響を与えるため、大概の初回プレイヤーは後半に面白くない体験をする可能性が高い。
『SYMBOL PALLET』も『カタン』と同じようにチップの配置がある。これもゲームに大きな影響を及ぼすが、その選択が致命的(ゲームを楽しめない程)になることはほとんどない。
もちろん、序盤の選択が後半に強く影響するゲームはプレイヤーに面白い体験をさせることが多い。けれども、同時に初回プレイヤーにとっては悪い体験をさせる可能性をはらんでいる。そのため、今回はその可能性を排除するルールを優先した。
このような理由から、初期の盤面形成はシンプルなルールを採用した。
ゲームの開始方法―盤面のタイル枚数
初期の盤面に置くタイルの枚数の候補として、9枚と16枚があった。けれども、今回は2~4人プレイに対応するため9枚を採用した。
元々盤面のタイル枚数を決める際、ルールを簡略化するためにプレイヤー人数に関わらず初期の盤面枚数は同じにしようと考えた。そのため、チップの枚数が4枚(2人)、6枚(3人)、8枚(4人)に対応できる盤面枚数を設定する必要があった。そのように考えると、「タイル9枚、チップ8枚」または「タイル16枚、チップ4枚」どちらかを許容することになる。そして、
・チップ配置後に盤面が広がるメカニクスである
・干渉が強いゲームを目指している
という2点から、「タイル9枚、チップ8枚」を許容することにした。
チップを置く順番
『SYMBOL PALLET』は相手に干渉しやすい性質から、原則先手番が有利である。そのため、チップを置く順番は後手番が有利になるような順番、つまり後手番からチップを置くのが望ましかった。よって、チップを置く順番で考えられるのは、
・後手番からチップを2枚ずつ置く
・後手番からチップを1枚ずつ置く(2回繰り返す)
の2つである。一見すると前者の方が分かりやすいルールである。しかしながら、『SYMBOL PALLET』では後者を採用した。その理由は、前者の置き方には大きく二つの問題があるからである。
一つは「チップを最後に置くプレイヤーに選択の余地がない」からである。4人でプレイする場合、前者の方法だと最後にチップを置くプレイヤーは空いている3か所から2か所を選択することになる。これは実質選択肢が無いのと同じであり、ゲームの楽しみが一つ消えているのと同義である。
もう一つは「チップを最初に置くプレイヤーは相手の思考とは無関係に置くことになる」からである。最初にチップを置くプレイヤーは、当然ながら他のプレイヤーのチップが無い状況でチップを置くことになる。よって、他のプレイヤーは盤面に置かれたチップの意味(相手の思考)を考えながら置くのに対し、最初のプレイヤーのみそのような思考をせずにチップを置くことになる。これも先述と同じようにゲームの楽しみが一つ消えてしまっている。
この2つの問題を解決するかシンプルさを優先するかを天秤にかけ、今回は問題解決を優先することにしたのである。
一手番のアクション数
『SYMBOL PALLET』では自身の手番に3回行動する。この3回というのは、ゲームテンポとタイル配置の難易度から制定されている。
まず、ゲームテンポの側面である。基本的に1手番1アクションよりも1手番に複数回アクションを行う方がゲームのテンポは良くなる。それは単純に各プレイヤーの思考時間が短くなるからである。(盤面が変化していくため、手番が増えるとその都度プレイを考えることになる)また、1回の待ち時間こそ増えるが、「何もしないターン(タイルを引くだけ)」の回数は減少するため、感覚的には待ち時間の増加は気になりにくい。そのため、『SYMBOL PALLET』ではなるべく一手番に行うアクション数を多く設定する方針とした。
けれども、一番手のアクション数が多すぎるとソロプレイ感が強くなりすぎたり、回避不可能なハメ手が頻発したりする。そこで、アクション数の上限は「タイル配置」の難易度を基準とした。
『SYMBOL PALLET』において、勝利につながる基本的なタイルの配置は図の3つである。
メカニクスの性質上、2段目のタイルで得られる最大点数は4点である。そのため、獲得難易度は4点と5点で大きく異なる。そのため、まずは4点を獲得するのがプレイとして効率が良い。
そのように考えると、3点と4点との間に明確な難易度の差が無い限り、プレイヤーは必ず4点を狙うことになる。よって、アクション数は「3点は取りやすいが4点は取りにくい」となるような回数とすることにした。それが3回だったのである。
手札の上限
『SYMBOL PALLET』はメカニクスの性質上「確実にタイルを重ねられるタイミングで一気に動くプレイ」が強い。よって、仮に手札の枚数上限が無いのであれば、動けるような手札になるまでタイルをためるプレイが最強である。
『SYMBOL PALLET』は「タイルを引く」も「タイルを置く」も同じ1アクションである。よって「1回引いて1回置くを3回行う」も「3回引いて3回置くを1回行う」も同じアクション数で行うことができる。前者は随時タイルを置くので先手を取れるが、後者は計画を立てながら相手に妨害されずにタイルを置くことができる。
けれども、このプレイスタイルは私が望んだ形ではない。そのため、手札の上限枚数を設ける必要があった。
そして、今回上限枚数を3枚とした理由は以下の通り。
・手札が多いと選択肢が増え時間がかかる
・他のルールに3という数字が多い(初期盤面3×3、アクション数3回)
・2枚以下だと手番で必ずタイルを引くことになる
勝利点の計算方法
「チップの下にあるタイルの枚数」の定義としては
・チップの下にある全てのタイル
・最下層のタイルのみ
の2通りが考えられた。
前者の方がシンプルなルールである。けれども、『SYMBOL PALLET』では後者を採用した。その理由は、前者のルールだと陣地を「広げる」よりも「高く積む」方が点数効率が良くなってしまうからである。
図を見てほしい。図のタイル群はどちらもタイルを10枚使用して構成されている。そして、それぞれのタイル群は、
左側:2段目➡4枚組の上に1回、3枚の上に2回
3段目➡3枚組の上に1回
右側:2段目➡2枚組の上に3回
3段目➡2枚組の上に2回
4段目➡2枚組の上に1回
という条件をクリアして構成されている。状況にもよるが、基本的には右側の方が左側よりも難易度が低い。(段数は多いが、3枚組、4枚組を2段続けてクリアするのは難しい)このように前者の方法だと難易度と点数に乖離が生まれてしまい、ゲームバランスが悪くなってしまう。
しかし、後者の方法だと上の図のような問題(構成する枚数が同じなのに点数に大きな差が生まれる)が発生する。けれども、ゲームの性質上、左側のタイル群は相手からの妨害を受けやすい。(1手番で完成させるのが難しいため)つまり、実質的には左側はハイリスクハイリターン(ローコスト)、右側はローリスクローリターン(ハイコスト)である。これならゲームのバランスとしては成立しているため、今回は後者の方法を採用した。
最後に
今回は具体的な細かいルール制定の理由について記事にいたしました。マニアックな内容だったとは思いますが、少しでも参考になることがあれば嬉しく思います。
次回は今までのルールを踏まえて行ったテストプレイの所感についてまとめていきます。最終回となりますのでどうか最後までお付き合いお願いいたします。
『チキン・ラン』
多人数短時間(4~7人、20分)、自由な交渉とシンプルな数比べ
プレイ難易度★★★
キャッチコピーは「―破産か、罵倒か―」
【紹介動画(YouTube) URL】
https://youtu.be/1C1C3qeQsl8
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/chicken-run
『B級映画制作委員会』
多人数軽量級(3~6人、10分)、リレー式大喜利ゲーム
プレイ難易度★★
キャッチコピーは「限られた予算と時間の中で『俺達の最高傑作』を作れ!」
【紹介動画(YouTube) URL】
https://youtu.be/m1iDNyYKa1w
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/b-kyuu-eiga-seisaku-iinkai
ゲームマーケット2021春
『Mole in the Cult』出展しました。
【ルール解説note URL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/nfb098775d4d6?magazine_key=m04f7ef0d353e
多人数中量級(4~8人、60分)、じっくり遊べる正体隠匿系ゲーム
プレイ難易度★★
キャッチコピーは「裏切者には粛清を」
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/mole-cult
ゲームマーケット2022春
『SYMBOL PALLET(シンボルパレット)』出展予定
【作品の概要note URL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/n0075ccbaec61
少人数中量級(2~4人、30分)、タイルを置いていく陣取り系ゲーム
プレイ難易度★★
今後の情報にこうご期待
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