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『SYMBOL PALLET』ゲームデザイン備忘録~二章:自由と制限の狭間

 序章:”色”の特性の利用
 一章:一次元から二次元へ
★二章:自由と制限の狭間
 三章:メカニクスから考える勝利条件
 四章:数理的処理によるルール制定
 五章:テストプレイによる調整

閲覧ありがとうございます。ボドゲ工房Rのランブンです。
前回までは『SYMBOL PALLET』の大まかなメカニクス方針決定の思考プロセスを記事にしました。今回からは、その方針からどのような思考で現行のルールを制定したのかについて記事にしていきます。
それでは本題に入ります。


方針決定の重要性

”色”の特性を利用したタイル配置ゲームを作る。ここまでは前回までのプロセスで決定した。しかし、これは例えるなら「料理を作るのに、食材と調理法しか決まっていない」という状況である。

スクリーンショット (74)

本来、食材と調理法を決める前に”テーマ”や”作る量”を決めておくべきである。何故なら”テーマ”や”作る量”こそが料理を作る目的であり、食材や調理法はその手段に過ぎないからだ。それが外に発表するのであればなおさらである。
また、そもそも目的が決まっていないと具体的なルール作りは難しい。それは、いくつか浮かんだルールを選別するときにそれを決める方針が無いからである。選定理由が近視眼的になり常に判断がぶれ、仮に完成したとしても満足したゴールにたどり着けない可能性が高いのである。

【参考】
『チキン・ラン』ゲームデザイン備忘録~一章:方針決定~
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/n0014a29844a5?magazine_key=m75a14af2672d


『SYMBOL PALLET』の方針

『SYMBOL PALLET』の具体的なルールを制定する際、以下のような方針を定めた。

◆プレイヤーにやらせたい事(体験させたい事)
・”色”の特性を楽しんでほしい
 ➡”色”の特性以外を極力省いたシンプルなルール
・バチバチな対戦ゲーム
 ➡運ゲーやソロゲーにならないように調整する
・少人数、短時間で繰り返し遊べる
 ➡2~4人、30~60分程度で収まる規模に抑える
◆制作の目的
・ゲームマーケット2022春に出展
 ➡コンポーネントが多すぎないようにする
・宣伝しやすい作品
 ➡盤面が華やかさに注意する

なお、今回の記事では上記の方針を色濃く受けた「タイル配置」のルールについて後述していく。


盤の有無

・”色”の特性を楽しんでほしい
・コンポーネントが多すぎないようにする

マス目の盤面に駒やタイルを配置するゲームには「最初から盤面が存在するもの」と「配置によって盤面が形成されるもの」がある。

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そして、盤面の有無には以下のような特徴がある。

◆盤面あり
・コンポーネントに盤が必要
・序盤は自由→終盤は制限のかかったゲーム展開になる
(または、序盤は制限→中盤は自由→終盤は制限)
例:ブロックス
◆盤面なし
・コンポーネントに盤が不要
・序盤は制限→終盤自由なゲーム展開になる
例:カルカソンヌ

『SYMBOL PALLET』においては、関係性の多さを利用して”色”が広がっていくイメージがあったため”盤面なし”を選択した。また、”盤面なし”を選択したことにより、コンポーネントを少し減らすことができた。


”色”の特性による制限

・”色”の特性以外を極力省いたシンプルなルール
・コンポーネントが多すぎないようにする

”盤面なし”を選択したことで「タイル配置」に制限がかかった。何故なら、”盤面なし”の場合「盤面にあるタイルに隣接しなければ新たなタイルを置くことができない」からである。よって、”色”の特性は「配置に制限をかける」というより「”色”の特性を使用すると勝負を有利に運べる」という方針をイメージしてルールを制定することとした。

”色”の特徴が持つ関係性は5つ、「同色関係」「補色関係」「足し引き関係」「原色(混色)関係」「暖色(寒色)関係」である。もちろん、「いずれかの関係性を持っているなら勝負を有利に運べる」では条件として緩すぎてしまう。

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そこで、”色”の特性による配置は他の条件により制限されるような形をとることとした。

例1:『”色”の特性カード』が提示され、その条件に合う場合のみ連続してタイルを配置できる

スクリーンショット (79)

例2:”色”の条件ごとにあらかじめ配置ルールが与えられている

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そして、『SYMBOL PALLET』においてはタイル自身に”色”の特性の条件を付与することにした。

スクリーンショット (81)


このルールの発案自体はひらめきの類なので説明ができない。しかし、このルールを利用するメリットは説明できる。このルールのメリットは、コンポーネントをタイルのみで完結できる、タイルのバリエーションを増やせる、”盤面なし”による制限と”色”の特性による条件で明確に配置ルールを分けることができる、という3点が挙げられる。
1つ目はコンポーネントをタイルのみで完結できるという点。コンポーネントが少なくなれば価格を下げることができるのはもちろん、ルールを制定する際に迷いが少なくなり制作がスムーズに進みやすくなる。
2つ目はタイルのバリエーションを増やせるという点。タイルの要素を”色”のみにすると、タイルの種類は8種類(色が8色のため)となる。これではプレイに幅を持たせにくい。けれども、今回のようにタイルそのものに要素を追加することでそれを解決することができる。

メカニクスがセットコレクションでなくなった時点でタイルの種類を減らす必要は無くなった。そのため、『SYMBOL PALLET』では8種の色と5種の記号の組み合わせ計38種のタイルを採用している。

3つ目は”盤面なし”による制限と”色”の特性による条件で明確に配置ルールを分けることができるという点。『SYMBOL PALLET』ではタイル配置法が大きく二分されている。一つが「盤面上のタイルに隣接」、もう一つが「条件を満たしたタイルの上」である。そして、この2つのタイル配置法が、ちょうど”盤面なし”による制約と”色”の特性の条件に分かれている。つまり、プレイヤーは配置法を見るだけで瞬間的にどの程度得をしたのかを理解することができるのである。(現状ではまだ配置法によるプレイヤー損得の差は存在しないが、この段階で今後その差を与えることを見据えている)
このようなメリットがあるため、今回はタイル自体に要素を持たせることとした。


自由度の調整

・バチバチの対戦ゲーム
・運ゲーやソロゲーにならないように調整する
・コンポーネントが多すぎないようにする

前項までのプロセスで原則的なタイル配置ルールが完成した。けれども、この段階ではまだ2点の問題があった。
一つは2種のタイル配置法の価値が同一である点。先述した2種のタイル配置法を比べると、「盤面上のタイルに隣接」よりも、「条件を満たしたタイルの上」の方が難しい。そのため、後者の方法でタイルを配置した場合、そのプレイヤーは何かしらの得をしなければならない。けれども、現状のメカニクスだけではこの2種の配置法に差が無く、ゲームとしての面白みがない状況である。
もう一つは現状の制限のみでは配置の自由度が高すぎる点。『SYMBOL PALLET』では”盤面なし”の特性から「序盤は制限→終盤は自由なゲーム展開になる」システムになっている。けれども、現状のメカニクスだけでは終盤の自由度が高すぎるためゲームにならない。特に現状のメカニクスだけでは誰でも盤面上のどこにでもタイルを置くことができるため、自身の配置を他者に利用されやすすぎる、読み筋が多すぎてランダム的、妨害に意味が無いためソロゲー感が強い、といった問題が発生してしまっている。

そして、この2点の問題をタイル配置メカニクスに関係のない別のルールでは解決したくなかった。
まず、2種のタイル配置法の価値が同一である点。これは、例えば「条件を満たしたタイルの上」に置いた場合に勝利点を獲得できるとすればすぐに解決できる。けれども、この解決法はタイル配置メカニクスとは無関係であり、如何にも取ってつけた感のあるルールとなる。あくまでも「盤面上のタイルに隣接」よりも「条件を満たしたタイルの上」の方がタイルの盤面的に優れているとプレイヤーが感じることができるルールにまとめられるのが理想的である。
次に、配置の自由度が高すぎる点。これは制限をかけたり、自由度が高い中でも選択に優劣を与えたりすれば問題なく解決できる。そのため、前述のルールがプレイヤーの自由度を制限するものであれば問題全てを綺麗に解決できるということである。

以上の条件下の中で問題を解決する方法として考案されたのが、チップの導入である。コンポーネントこそ若干増えてしまうが、上記の問題を全てクリアすることができた。


最後に

今回は制作方針の重要性とそれに基づいたルール作りについて記事にいたしました。具体的な内容が続いたため『SYMBOL PALLET』を実際にプレイしていない方には分かりにくい内容となってしまいましたが、かなり多くのプロセスをまとめることができたので参考にしていただけたら嬉しいです。
また、今回も色々論理立ててプロセスを書きましたが、実際の制作ではここまで論理立ててルール作りを行っていません。手を動かし、問題点を洗い出す。その問題点の根本を考え、それを解決できる方法をいくつも試してみる。何も新しい手法ではないのですが、結局のところこれの繰り返しが最も早くクオリティの高い解答を出す方法だと思います。
次回は今回考えたメカニクスから勝利条件を考えていきます。次回も楽しんでいただけたら幸いに思います。

『チキン・ラン』
多人数短時間(4~7人、20分)、自由な交渉とシンプルな数比べ
プレイ難易度★★★
キャッチコピーは「―破産か、罵倒か―」
【紹介動画(YouTube) URL】
https://youtu.be/1C1C3qeQsl8
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/chicken-run
『B級映画制作委員会』
多人数軽量級(3~6人、10分)、リレー式大喜利ゲーム
プレイ難易度★★
キャッチコピーは「限られた予算と時間の中で『俺達の最高傑作』を作れ!」
【紹介動画(YouTube) URL】
https://youtu.be/m1iDNyYKa1w
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/b-kyuu-eiga-seisaku-iinkai
ゲームマーケット2021春
『Mole in the Cult』出展しました。
【ルール解説note URL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/nfb098775d4d6?magazine_key=m04f7ef0d353e
多人数中量級(4~8人、60分)、じっくり遊べる正体隠匿系ゲーム
プレイ難易度★★
キャッチコピーは「裏切者には粛清を」
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/mole-cult

ゲームマーケット2022春
『SYMBOL PALLET(シンボルパレット)』出展予定
【作品の概要note URL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/n0075ccbaec61
少人数中量級(2~4人、30分)、タイルを置いていく陣取り系ゲーム
プレイ難易度★★
今後の情報にこうご期待

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