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『SYMBOL PALLET』ゲームデザイン備忘録~序章:”色”の特性の利用

★序章:”色”の特性の利用
 一章:一次元から二次元へ
 二章:自由と制限の狭間
 三章:メカニクスから考える勝利条件
 四章:数理的処理によるルール制定
 五章:テストプレイによる調整

閲覧ありがとうございます。ボドゲ工房Rのランブンです。
「『SYMBOL PALLET』ゲームデザイン備忘録」では、ゲームマーケット2022春に出展予定である『SYMBOL PALLET』のメカニクス制作過程における思考を6記事に渡って紹介していきます。
早速本題に入ります。


はじめに

『SYMBOL PALLET』は元々別の作品(『8パレット』)制作過程で偶発的に生まれた作品である。そのため、過去作の『チキン・ラン』のように要素(やらせたい事)を明確に打ち出したり、『Mole in the Cult』のようにメカニクス合成による新たな体験を期待したりという発案プロセスを経ていない。

【参考】
◆『チキン・ラン』の制作過程をまとめた記事(マガジン)
https://note.com/ranbun_bdgcobor/m/m75a14af2672d
◆『Mole in the Cult』の思考をまとめた記事
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/n78f6a1193e1d?magazine_key=m0f59b1bc9221
◆過去作のルールと作品紹介(マガジン)
https://note.com/ranbun_bdgcobor/m/m04f7ef0d353e

つまりは「(『8パレット』で)発案されたこのシステムはどのように使うことができるのだろうか」という思考が『SYMBOL PALLET』の原点である。
このような事情から、この作品は今まで私が発信してきた制作過程とは大きく異なる点が多数存在する。今回はその異なる点に重点を置きながら記事を書いていく所存である。


『簡易麻雀(仮)』の制作目的と課題

『SYMBOL PALLET』最大の特徴は、タイルに記されている”色”に”単なる色分け”以外の意味、つまり「赤と青を足すと紫」「橙の補色は青」といったように”色”そのものの法則をメカニクスとして定義付けていることである。この発想は『SYMBOL PALLET』制作のきっかけである『8パレット』の前身、『簡易麻雀(仮)』制作時に発生した問題を解決するために考案された。(『8パレット』は『簡易麻雀(仮)』に”色”のシステムを組み込み再度ルールを整えたものである。)

『簡易麻雀』はその名の通り、麻雀の面白さを手軽に楽しむことを制作目的としている。そのためにはまず使用する牌の数、つまりは”数字”と”種別”(トランプで言うスート)を減らす必要があった。(麻雀は1~9の数字に3つの種別、さらに7種の単独した牌の合計34種、計136枚の牌を使用している)けれども、単純に”数字”と”種別”を減らすと作品の運ゲーが加速する。何故なら手牌の組み合わせが単調になってしまうからだ。もちろん、その辺のバランスはメカニクスを工夫することによりある程度は解決できる。しかし、それだけでは制作過程で必ず引っ掛かってしまうだろうというのが『簡易麻雀(仮)』制作時の所感であった。(元々「運の要素を減らしたい」というのも制作目的の一つであったため、運の要素に対してはシビアな判断をしていた。)そのため、単純に”数字”と”種別”を減らす以外の解決法が必要不可欠となったのである。


問題解決のための発案

”数字”と”種別”は減らし、単純化はさせない。この課題を達成するために考案されたのが”色”の特性の利用であった。

元々「”数字”を撤廃し、”種別”そのものに意味を持たせる」という考えには至っていた。何故そのような考えに至ったかというと、”数字”は――直感的に理解できる範囲に置いて――単調な組み合わせしか表現できないからである。
ここで、今一度麻雀を思い出してほしい。麻雀は3枚一組(面子)を揃えていくゲームであるが、この面子には順子(123、678など)と刻子(111、888など)の2種類しか存在しない。つまり”数字”を使用すると「数字の両隣(2なら1と3)または同じ数字(2なら2)としか関係性を持てない」という事態が発生する。このような事態の中で組み合わせを増やし運ゲーを回避するためには、ある程度の数の”数字”と”種別”を用意する他ない。これが牌の数を増やさざるを得ない理由である。つまり、”数字”を撤廃しなければ牌の数を減らすことはできない(または運ゲーになることを容認しかない)のである。

けれども、理屈ではそうであってもそれを実行するのは非常に困難なことであった。”数字”以外の様々な”意味のある種別”を考案はしたものの、”数字”ほど明快な”意味のある種別”は見つからなかったのである。

スクリーンショット (67)


例えば案の一つとして”図形”を活用しようとしたことがある。三角形、正方形、五角形、ひし形、星形があったしよう。これを「角の数」でグループ分けをすれば正方形とひし形、五角形と星型が組み合わせとなる。また、「角の数が異なる」ようにグループ分けをするならば三角形と正方形と五角形が組み合わせの一つとなる。
これなら確かに”数字”を使用するよりは様々な組み合わせを用意することができる。けれども、これに明瞭さや一貫性があるかと聞かれたらその回答は芳しいものではないだろう。

規則性が明瞭で直感的に組み合わせの理解ができる、そんな好都合な”意味のある種別”を発案するのには時間がかかった。今でこそ”色”が好都合であることはすぐに理解できる。けれども、「Aを使うと○○のようなメリットを得られる」ことを発見するのと「○○のようなメリットを得るためにはAを使うのがよい」ことを発見するのとでは難易度に雲泥の差がある。このことは一度でも制作を行っている人ならば分かっていただけるだろう。

正直に言って、問題解決の発案をするテクニックは存在しないと私は考えている。今回この”色”の活用を思いついたのも、様々な案を試行錯誤したからにほかならない。しかし、問題解決の糸口を探す方法ならある。それは問題の根本的原因を深く考えることだ。今回のケースもそうである。私は「”数字”と”種別”を減らす」ことから”色”の特性の利用を発案したわけでは無い。「”数字”が根本の原因である」ことから発案したのだ。この結論に至れたからこそ、最終的に問題解決の発案をすることができたのである。発案自体は再現性はない。だが、発案をするための下準備には再現性があるのである。


”色”の特性とその優位性

ここまでは”色”の特性を利用する案が生まれた経緯について記述してきた。ここからは”色”の特性とその優位性について解説していく。
”色”を”意味のある種別”として利用する利点は2つある。それは「関係性の多さ」と「直感的で明瞭」ということだ。(というよりもこの2つが揃っているから”色”を”意味のある種別”として採用している)

まず「関係性の多さ」について説明する。

スクリーンショット (68)

図の左側はいわゆる色相環である。(色を円状に配置し、体系的に表現したもの)ここで赤色に注目して欲しい。赤色は橙色と紫色に隣接している。これはつまり、橙色、紫色それぞれが黄色、青色との中間の色(赤色と黄色、赤色と青色を混ぜ合わせた色)であることを表している。また、赤色は矢印で緑色と繋がっている。これは補色関係(混ぜ合わせると無彩色になる)を表している。さらに言うと、赤色は三原色なので青色と黄色に関連付けることができる。(厳密にはこの3色は三原色ではないが、ここではそのように定義付けている)これらをまとめると赤色は、
・赤色、黄色、橙色
・赤色、青色、紫色
・赤色、緑色
・赤色、青色、黄色
で一つの組み合わせを構成できると言える。この組み合わせの数は”数字”と比較すれば明らかに多い。それはすなわち、牌の数を減らしたとしても組み合わせが単調にならないということである。

次に「直感的で明瞭」について説明する。

スクリーンショット (69)

上の図は先ほどの色相環の色の部分を数字に置き換えたものである。何が言いたいのかというと「”色”を用いなくとも”数字”を用いて組み合わせを増やす事はできる」ということだ。
例えば図の[1]に注目すると、少なくとも以下3つの組み合わせを見出せる。
・[1]-[2]-[3](連番の組み合わせ)
・[1]-[3]-[5](奇数の組み合わせ)
・[1]-[6](足し合わせて[7]になる)
けれども、ここで1つの問題が生じる。それは、適用されている組み合わせルールが分かりにくいということだ。
まずは連番。これ自体は感覚として分かりやすい。だが、図を見たときに「[2]-[3]-[4]」や「[3]-[4]-[5]」も組み合わせであると直感的に分かる人は少数だろう。(この図を採用しないと今度は[1]-[6]が成立しない)
次に奇数と偶数。これは奇数を赤、偶数を青というように色分けをすれば視認性的には問題がない。しかしながら、その工夫だけでは「 [1]-[3]-[5]」で一組なのか「[1]-[3]」や「[1]-[5]」(または「[3]-[5])も認められているのかまでは分からない。
最後に足し合わせて[7]になる数字。これは[1]~[6]の数字を扱う上では合理的(サイコロの表裏でもある)であるが、それはあくまで制作者側の根拠であり、プレイヤーにとっては根拠が乏しい。
これら3つのルールの不明瞭さは、それぞれ一つずつ取り上げればさほど大きな問題ではない。けれども、それが積み重なるとプレイヤーにとっては大きな負担となることは容易に想像がつく。
一方、”色”はその心配がない。先述した色の組み合わせルールを見てもらえば分かるように、どれも色の特性に則ったものであり不明瞭な点が一切ない。無理に数字で当て込めるより遥かに分かりやすいだろう。

このように”色”は「関係性の多さ」「直感的で明瞭」という点で非常に優れており、”意味のある種別”として利用するのには好都合なのである。


”色”の特性の不利な点

前項では”色”の特性を利用する利点について記述した。ここでは逆に”色”の特性を利用する上でのデメリットを解説する。
考えられるデメリットは大きく3つ、「特性の認知度」「種別数の調整のしにくさ」「色覚異常の方への配慮」が挙げられる。

一つ目は「特性の認知度」である。”色”の特性は広く知られてはいるが、それは”数字”の認知度には遠く及ばない。「直感的で明瞭」という利点はあくまで”色”の特性が認知されている前提である。どれだけ直感的で明瞭だとしてもそもそも認知されていなければ、それは本末転倒なのである。

二つ目は「種別数の調整のしにくさ」である。”色”を利用するとその特性上、種別数を6以上にも6以下にもしにくい。そのため、実際に”色”の特性をルールに組み込む場合はそのことを踏まえて調整する必要がある。

三つ目は「色覚異常の方への配慮」である。先天色覚異常(色の識別がしにくい)の方は日本の人口のおおよそ4~5%を占めている。”色”の特性を活用するとその方々にとってはどうしてもプレイしにくいゲームとなってしまう。

以上3つが、現状考えうる"色”を使用した場合のデメリットである。
"色”の特性を利用する利点は大きい。けれども、実際に運用する際は細心の注意を払う必要があると言えるだろう。


最後に

今回は色の特性を発案するに至った経緯と、その利点や不利な点を解説しました。この記事を通して少しでも皆様の着想の手助けになれば嬉しく思います。
また、今回の記事で分からなかったことや詳しく知りたい事があればコメントをしていただけると助かります。
次回はいよいよ『SYMBOL PALLET』の話について言及していきます。どうか最後までよろしくお願いいたします。

『チキン・ラン』
多人数短時間(4~7人、20分)、自由な交渉とシンプルな数比べ
プレイ難易度★★★
キャッチコピーは「―破産か、罵倒か―」
【紹介動画(YouTube) URL】
https://youtu.be/1C1C3qeQsl8
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/chicken-run
『B級映画制作委員会』
多人数軽量級(3~6人、10分)、リレー式大喜利ゲーム
プレイ難易度★★
キャッチコピーは「限られた予算と時間の中で『俺達の最高傑作』を作れ!」
【紹介動画(YouTube) URL】
https://youtu.be/m1iDNyYKa1w
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/b-kyuu-eiga-seisaku-iinkai
ゲームマーケット2021春
『Mole in the Cult』出展しました。
【ルール解説note URL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/nfb098775d4d6?magazine_key=m04f7ef0d353e
多人数中量級(4~8人、60分)、じっくり遊べる正体隠匿系ゲーム
プレイ難易度★★
キャッチコピーは「裏切者には粛清を」
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/mole-cult
ゲームマーケット2022春
『SYMBOL PALLET(シンボルパレット)』出展予定
【作品の概要note URL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/n0075ccbaec61
少人数中量級(2~4人、30分)、タイルを置いていく陣取り系ゲーム
プレイ難易度★★
今後の情報にこうご期待

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