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「チャレンジマッチ」を提唱したい話
「球界全体のために」という切り口で意見する人をたまに見かける。しかし「球界全体のため」というのは多くの場合、自分の関心や好みに追い風が吹いた時にのみ主張される後付けの理屈である場合が多く、普段から能動的に「球界全体」の事を考えている人は少ない。球界全体のためにと主張したがる人が、社会人野球の全国大会が3つある事すら、つまり「球界全体」の事を知らなかったりする。
別に「私は君達とは違う」とか言いたいのではない。何が球界全体のためか、と聞かれたらそれに答えるのは結構難しい。だが「球界全体」とは何か?という話なら簡単だ。球界全体とは文字通りプロ野球から少年野球まで全体を指す。そして全体観に立つのならば、それぞれのカテゴリとその関係についてなるべく知っている事が望ましい。
知り、かつ親しむと、何が全体のためなのか、別に関係者でもないのにその事ばかり考えるようになる。それを能動的という。全体のための提案がそもそも、能動的な思考からしか生まれない。
「全体」の定義をもっと大雑把にすると「プロとアマ(広義の)」である。アマチュアにはプロを目標にしている選手が多くいる。目標であるというのは、漠然とした憧れとは違う。力のある選手なら、プロになる意思があるか否かに関係なく、自分の力がどれだけプロに通用するかに興味がある。そしてアマにとってプロという頂点が存在する以上、その世界と、それを嗜好する人々に己の名を知らしめたいと考える。
一方、プロは戦力補強の多くをアマに頼る。プロのスカウトはアマのゲームにマメに足を運び、選手個々にどれだけの力量があるかを見極めようとする。だが、アマとアマの試合に、彼らが見たいと思う選手が実際にプロと対戦した時のプレーほどの「生きたデータ」があるだろうか。
プロとアマの高いレベル同士が対峙する事は、正に良い事づくめで、どう考えても「全体のため」になる。しかし現実の球界は、プロとアマの親善試合的な交流は増えたものの、公式戦はそれぞれの枠で完結してしまっている。
提唱したいのは、ファンが妄想する「真のワールドシリーズ」よりは余程実現性のあるものだと思う。しかし、野球界はそれすらもままならない程、小回りが利かない。
プロとアマの親善試合的な交流は増えたと言っても、プロにはもっとアマのデータが必要だし、アマはプロのステータス、集客力を利用したい。それを考えると、まだ本来あるべき姿にはなっていないのではないだろうか。
ヤクルトは過去に2度、六大学選抜との交流試合を行っているし、もっとさかのぼると2001年11月、東都大学リーグの現役選抜対OB(プロ)戦が行われ、現役選抜が快勝した。OB側は小久保、奈良原はじめ、これで十分ペナントを戦えるであろうメンバーだった。とうに機は熟している筈なのだ。
さて「チャレンジマッチ」である。プロとアマ合同の公式戦は、他の競技では割と色んな形で行われているものの、野球ではあまり耳慣れない。では誰が誰にチャレンジするのか、と言うと、もちろん長々と能書きを垂れてきた通り、アマがプロに「チャレンジ」する。アマ側のチーム編成としては、選抜でも良いのだが、もっともステータスの高い大会で優勝したチームの権利とした方が良い。それでこそ都市対抗や大学選手権の優勝も、更に重みを持つようになる。それぞれの勲章が、そのカテゴリの中だけで終わってはつまらない。プロ野球だってリーグ優勝が決まって終わりではつまらないからポストシーズンがある。
早い話、都市対抗優勝チームと、大学選手権優勝チームが、一年の決まった時期、プロの一軍を招いて試合を行う。
時期としては、大学は選手権が終わったオールスターゲームの時期、社会人は他の時期。オールスターは昔は3試合やっていたが、その1枠をチャレンジマッチに当てて欲しい。位置的にはオールスターより前の日としたい。もちろん両者の統括組織による共催で。
球場は、地元のファンに「地元のチームがプロへの挑戦権を得た」という意識を持ってもらうために、アマ側の地元が良い。もちろん相手はプロの一軍だから、収容人員の点でプロ対応の球場である必要がある。地元にそういう球場がない場合は、なるべく近くの球場とする。もちろん大会の優勝が決まるまで球場も決まらないから、都合よく球場を確保できない可能性もある。しかし、プロを迎えての晴れ舞台である。有力チームを抱える自治体は、一応その可能性を考慮して欲しいが、ダメならばプロ側の地元でも良い。県営大宮球場で「日本通運×阪神タイガース」など面白い。順当にいけばプロが勝つが、負けるか、負けそうになるだけでプロにはかなり刺激になるし、プロを相手にする事でアマの注目度も俄然アップする。ファンにしても、相手がアマとあって、いつもいがみあっている(?)相手とやる時にはない新鮮さがある。
さてどのチームがアマの相手をするかという問題だが、これは特定の条件を付けるよりも割り切って「当番制」にしたい。他のチームより年間消化試合が一つ増える事になるが、当番制ならば少なくとも不平はないだろう。今年はライオンズとスワローズ、来年はホークスとカープといった具合に。選手はご苦労様だが、ベストメンバーでなくて良いのでここは「球界全体のために」協力して欲しい。チームとして動いてもらえないのなら、特定の条件で選んだ選抜チームでも良い。
想像してみて欲しい。かっての野茂のような大物が現れたとして、彼がプロになる前にプロを相手にその凄さを披露するのである。ドラフトのせいぜい一ヶ月前にしかアマに興味を示さないファンを振り向かせる事ができるのだ。ファンは本当は、逸材が現れた時、彼がプロになるまで待ちきれないものなのだ。
肝心なのは「チャレンジマッチ」と銘打ち、毎年、同じ時期にやる事で単なる交流試合との差別化をする事だ。都市対抗、大学選手権の優勝に対する、これ以上のご褒美があるだろうか。プロアマ最大の接点として定着したらドラフトも盛り上がるだろう。
オールスターを3試合やってくれた方が良い?いや正直、3試合はダレるし、オールスターの権威を落とす。プロへの挑戦権を得たアマチュア選手達はきっとプロ以上に真剣にやるだろうし、その姿は我々に新しい刺激を与えてくれるはずである。「球界全体のために」NPBには是非協力して欲しい。