【レポート】11/1「地域の人事部」視察交流研修会DAY1 in 塩尻
11月1,2日の2日間、アライアンスネットワークの視察研修を開催しました。本レポートでは視察の様子をご紹介します。
はじめに:地域人事部アライアンスネットワークとは
全国の地域企業では人口減少による人材不足や採用/人材育成ノウハウの欠如、早期離職、事業継承者の不在、求職者とのミスマッチなど数多くの問題を抱えています。こうした問題を地域ぐるみ、まちぐるみで面的に対応すべく全国で立ち上がった取り組みが「地域の人事部」です。
「地域人事部アライアンスネットワーク」は、各地で立ち上がった「地域の人事部」の取り組みを横でつなぎ、地域の人に関する問題を包括的に解決する互助団体をめざし2022年4月に設立しました。
これまでの活動は、定期的に開催する地域の人事部団体の取り組みや実践事例を共有するオンライン勉強会の他、アライアンスメンバー(加盟団体)のノウハウを集約したレポート『人や企業の課題を地域ぐるみで解決する「地域の人事部」をはじめよう』を制作し、8月に発行しました。
今回の視察は、全国に点在する各団体が初めて顔を合わせ、対面で交流する企画でした。
各地の取り組みを共有し今後の活動に活かすこと。交流を通してアライアンス(同盟・連携)としての関係性を深め、相互扶助のコミュニティ形成をすることを目的に1泊2日で実施。1日目は長野県塩尻市を訪問しました。
視察会場:シビックイノベーション拠点「スナバ」
スナバは塩尻市職員、地域おこし協力隊、業務委託のメンバーで運営されている施設であり、「生きたいまちを共に創る。」をビジョンに掲げ、市民による市民のための課題解決や、新しい価値創造を行う事を支援・加速するための場。挑戦する人が仲間と出会い、動きを加速させていく役割を持っています。
シビックイノベーションとは造語であり、市民によるイノベーションという意味。日々の暮らしで日常的に感じる「こうなったらいいのに」という想いやまちに対する違和感を原動力に、目の前の社会を変える取り組みを市民発で社会的起業を起こしていくことを意図しています。
登録している会員は約140人、コミュニティには250名が在籍。人口規模から考えても驚く人数です。スナバをきっかけに移住してこられた方もいるというお話も伺いました。
館内にはスナバを利用しているコミュニティメンバーが関わったイベントの記事やポスターが貼ってあるのですが、そこに関わっているメンバーの事が書かれた付箋が貼ってあり、コミュニティメンバー同士の交流を促進する仕掛けが印象的でした。実際にスタッフがマッチングさせたり、メンバー同士で自分で繋がったり、出会いが新たな化学反応を生んでいます。
今年の10月にはスナバからのプロジェクトでローカルナイトピクニックというイベントも行われました。運営には行政は関与せず、このスナバで集まったメンバーがイチから考え、メンバー同士の共創によってできたイベントであり、このようなプロジェクトが塩尻市では連鎖的に生まれつつあります。
日々の暮らしを市民自らでよりよくする。まちの課題を市民自らが起業という手段で解決していく人材育成のエコシステム…そのための拠点がスナバ。
従前のハコモノ事業では真似できない、本質的な人づくりの取り組みであることを感じました。
視察会場:Core塩尻/KADO
続いて2023年6月に完成した拠点・Core塩尻を訪問しました。
最先端の技術を活用し、まちに変革を起こし続ける場としてオープンし産学官、各機関の壁を超え共創していく場として作られました。
中にはeスポーツを体験できるデルタルームやレンタルオフィス、多様な人々がニーズを持ち込んだりアイディアを持ち込める場としてオープンハブを設置するなど、他にも共創を促進するスペースが設置されています。
塩尻の施設とは到底思えない、渋谷の高層ビルのワンフロアのような先進的で都会的な施設の印象に、参加者一同驚かされました。
事例共有
塩尻市の取り組み(塩尻市産業振興事業部長 古畑様)
拠点を案内いただいたあとは、古畑部長より塩尻市の取り組みを伺いました。
塩尻市は長野県の人口6.6万人、長野県のほぼ中央に位置しています。
人口も多いとは言えない中小規模の地方都市のひとつである塩尻市。先ほど紹介したスナバやCore塩尻をつくるなど、なぜこのような攻めの自治体にることができたのでしょうか。
部長のお話しから3つのポイントがあると感じました。
①職員の意識を変える先進的な人材育成の仕掛け「地域創生協働リーダーシッププログラム(ミチカラ)」
首都圏の大手企業と連携し、塩尻市の行政課題などに対しプロフェッショナル社員と担当職員が協働で課題解決案を検討し、翌年度の予算編成や行政としての中期戦略に繋げる仕組みとして4期22テーマで実践してきました。参加職員は本質課題の構造化や事業の組み立て方など職員の育成としても大きく寄与しています。2016年にはグッドデザイン賞も受賞している民間連携のプログラムです。
実はこのプログラム…「このままではいけない」という危機意識を持った有志の職員がはじめた自主勉強会がきっかけとなっています。月1回集まり、部長を呼んで話を聞いたり、部を超えて対話を行い、勉強会は市長も招き計50回を開催するまでに至ったそう。その実践がミチカラへと繋がりました。
古畑部長曰く、リクルートから「圧倒的当事者意識」を。ソフトバンクグループから「スピード感」を職員は学び、それがその後の事業にも活かされているそうです。
②民間ノウハウを取り入れた事業と組織づくり
竹中工務店と地域連携協定を結び、新規観光拠点の整備に取り組んでいます。塩尻市の観光スポット奈良井宿では歴史的価値がある建物が活用されなかったり、空き家が増えたりすることが街の課題になっているという現状がありました。それに対し、竹中工務店は木造木質技術に特化し、歴史的建物の保全活用技術、まちづくり戦略のノウハウを持っていたためぴったり合致。
調査の結果、観光客の下の写真の課題をあぶり出し、観光客のニーズにも合わせたBYAKU Naraiという施設を作り上げました。
③パブリックマインドを持ったプレイヤーの育成・輩出と協働
事例として先ほど紹介したスナバを拠点に行われているエヌイチ道場を取り上げたいと思います。塩尻市の高校生を対象に約4か月間の起業家教育プログラムとして立ち上げました。「喜ばせたい誰かがいる高校生」が集まり、実際に事業を興すためのプログラムです。
運営チームからの定期的なサポートと、地域起業家や専門家からのアドバイスを受けながら仮説検証を行っていく機会があり、徹底したサポートのもとチャレンジすることが出来ます。
塩尻市ではスナバのサービス利用者、スナバを支援する地域おこし協力隊、そして職員が社会課題解決のためのビジネスモデルを共通言語として学びます。古畑部長はAI時代における市役所職員が持つべき必須のスキルと話されていました。
目に見えて分かりやすいハード事業にばかりお金かける自治体が多いですが、ソフト事業に投資を続けてきたからこそ、このような相乗効果を生み出せるのでしょう。
行政職員や市民、高校生と官民一貫して人材育成を続けてきたからこそ、塩尻市は10年余りでここまで変化を遂げられたのではないかと感じました。
途中、塩尻市商工会議所の会頭よりご挨拶をいただきましたが、塩尻の一番の強みは”人”であると豪語されていたことも印象的でした。
NPO法人MEGURU
続けて、塩尻市で地域の人事部を運営するNPO法人MEGURUの横山さんより発表いただきました。
MEGURUは、人と地域の持続的成長循環モデルの実現を目指す地域の人事部として2020年11月に長野県塩尻市で設立されました。
中小企業には人事担当を設けていない企業も多く、経営戦略を進めるための人事戦略が定めていない企業が多い現状をサポートできると実感したことがきっかけになったそうです。現在は長期実践型のインターンシップの実施やながの人事室という求人メディア等様々な事業を展開しています。
そんな中、プレゼンで印象に残っているのが下の写真のようなモデル図です。NPO法人MEGURUでは地域の人事部の関係性を見える化し、それをもとに様々な活動に繋げています。
地域人事部において様々な関係機関が連携していく必要性を強く感じました。
続けて視察研修参加者より事例共有を行いました。
山形県最上地域 新庄最上ジモト大学
山形県最上総合支庁連携支援室の原田さんより最上地域の取り組みについてお話いただきました。
山形県最上地域の課題として、高校からの進学先が地域にないことから進学や就職のタイミングで多くの若者が地元と接点のないまま地域から出て行ってしまうという問題に対し、離れる前に生まれ育った地域のことを知ってもらおうと高校生の地域理解を目的にはじまりました。
現在はコンソーシアムを発足し最上地域8市町村と県、関係機関が連携して運営されています。
ジモト大学では、地域で働く人たちと高校生が対話しながら「ヒト・コト・モノ」を体験できるよう地域一丸となってプログラムを作られており、8年経過した現在では地域内の高校生の3人に1人が参加しているそうです。
今後の課題として、行政が促進するだけではなく民間企業が自主的に取り組む動きを促進していかなければならないという話がありましたが、行政主体でも学生のために積極的に動ける企業があるという事にまちとしての可能性を感じました。
新庄最上ジモト大学
https://jimoto-univ.com/
NPO法人ESUNE
アライアンスメンバーであるNPO法人ESUNEの斉藤雄大さんよりお話いただきました。
ESUNEは静岡県を拠点に「新しいまなぶ、はたらく、いきる」をミッションにあらゆる主体と共同したプロジェクトの創出、コーディネート、人材育成、拠点運営を行っています。
2013年。当時大学4年生だった大学生と若手社会人を中心に任意団体としてスタートし、2017年の法人化を経て、現在学生や社会人スタッフ合わせて40名近くのメンバーで、様々なプロジェクトを展開しています。
地域の人事部としても注目したい活動が「みんなのチャレンジ基地ICLa」という事業です。
若者…大学生の諦めや不安の声から「希望を抱ける環境をつくろう」という想いから立ち上がったプロジェクトで、静岡大学、アイザワ証券、静岡鉄道など民間企業を含む様々な組織と連携しながら運営されています。
若者一人一人の自分らしいチャレンジを後押しする場として立ち上げられたこのスペースは、若者が希望をもって社会を冒険していく「基地」をコンセプトとしています。
若者の「やってみたい」を大事にしていて、立ち上がったプロジェクトは28件(2022年)。スタッフとともに作り上げていきます。「やってみたい」が言語化できたらプロジェクトの参加を呼びかけ、参加者は他社のチャレンジを見て、自分も新しい「やってみたい」に気づくという良い循環を生んでいます。
筆者が今回の2日間の中で1番地元に欲しいと思ったのがこの仕組みでした。現在も様々なプロジェクトが進行中で、今後の動きにも注目したい事業です。
交流ワークショップ
事例発表のあとは視察研修参加者全員でマグネットテーブルという手法で、地域の人事部に関する問題意識や関心事をもとに集まり意見交換。対話を通じてお互いの課題や実践について共有を行いました。
そして懇親会へ
ゆたか
馬肉のステーキや山賊焼きなど郷土料理をいただきました。一日を振り返りつつ、地域の課題や今後の実践に向けた話をしました。美味しい料理にお酒もついつい進んでしまいました。
2次会は塩尻駅内にあるアイマニ
本場塩尻のワインを嗜みながら、研修1日目を参加者同士で振り返りながら一日目を終えました。
2日目は大阪府八尾市へ移動、視察交流研修は続きます。こちらはDAY2の記事でご紹介します。