東京グランドキャバレー物語★8 ダンス・ダンス・ダンス!
ダンスを踊ろうと決意はしたものの、スポットライトが眩しいフロアーに出る勇気が私にも必要だ。それも一人ではなく、パートナーつまりお客さんと一緒にダンスをしなければならない。
どうしたものか?
初心者なので難しいダンスなんて絶対に無理だ。ゴーゴーとかディスコダンスなどのステップなしなら何とかなる。
踊っているダンス群団をチラッと見ると、心配無用だった!体を揺らしているだけだ。少し難易度は上がるが、行ったり来たりのマンボも出来そうだ。
勇気を出して、尻込みするお客さんに声をかける。
「さぁ、踊りましょう!行きましょう」
「いやあ、ダンスなんて。やった事ないよ」
そう言いながら、嬉しそうだ。
「大丈夫ですよ。音楽に合わせるだけですから」
「じゃあ、ちょいと、やってみるか!」
お酒の力を借りて、お客さんも勢い良く立ち上がる。お客さんの背中を押しながら、私も心臓をバクバクさせながら、フロアーまで進む。
バンドも気合いが入り、メロンさんの歌もノリノリだ。ダンスに合わせた曲が、どんどん演奏される。周りを気にしながら、遠慮がちに踊っていたお客さん、そして私も、次第に自身のスタイルを見つけ自信満々に踊り始めた。
お酒を飲んでホステスさんとおしゃべりするだけではなく、ダンスが出来るというのもグランドキャバレーの醍醐味だ。
ジルバ、マンボ、ゴーゴー、ディスコ曲などが、次々にホールに響く。
ホステスの中には、ダンスを習っていてプロ並みに踊れる女性や、お客さんの中にもジルバなどは普通に、ワルツやルンバなどお手の物と言う凄腕の方もいらしゃった。
音楽も最高潮だ。
くねくねと腰を振り、手は大きく広げ、色っぽさと可愛らしさを少しでもアピールせねばと、私は音楽に合わせ真剣に体を揺らした。
度胸を付ける為にお席で頂いた焼酎のせいか、体が熱くなった。
「福ちゃん、顔が赤いよ」
周りの誰かが言った。
踊る前とは違って、席に戻る床は花道と化した。
「いよぉ~福ちゃん」
と声が掛かるわけはないが、気分が良かった。
「いやぁ~。いい汗かいたよ。明日、筋肉痛になるかもしれないな」
お客さんも満足そうに一気にグラスのお酒を飲み干しながら言った。
「ダンス、上手じゃないですか!これからも、一緒に踊りましょうね」
「福ちゃん、顔赤いね。モンキーダンスになっちゃうね!」
お客さんの大きな笑い声は、隣の席まで響き、私の顔は、ますますサルの様に赤くなっていった。
つづく