デザインの勉強の話④(とはいえ本の話)
この間、趣のある古本屋さんへ連れていってもらった。よく晴れた午後の、魚介豚骨のラーメンを食べてマシュマロを浮かべたホットココアを飲んだ日で、なにもかもに満足しながら訪ねた築150年の古民家で営む古本屋さん。
古本が大好きだ。というか、本屋さんに比べていくぶん雑多な本棚の、日焼けした表紙の中に、探していた本を見つけたときの、頭から小さな雷が飛び出たみたいな(逆か?小さな雷が落ちたような?でも自分から出ているエネルギーなんだ)感動が好き。
今まで知らなかった本でも、「これ絶対好き!欲しい!」となる本はずっと昔から探していた本だという気がする。筒井康隆の『旅のラゴス』とか、深谷晶子の『恋愛前夜』とか、クラフト・エヴィング商會のぜんぶとか。
古本屋さんに行くとまずブローディガンとウルフ、長野まゆみと皆川博子を探す。古本屋さんにしか置いていないことが多いから。
この古本屋さんには置いていなかったのだけど、ドイルの全集の古いのぜんぶやカポーティの冷血、サリンジャーのナインストーリーズ、北原白秋の詩集の古いの、があって、どれも心惹かれた。
やー、全部欲しい。特に北原白秋の詩集は古すぎてちょっとためらったんだけど、今みたいに大きく余白をとって、わりかし大きめの文字で……という詩集じゃなくて、細かい文字がびっしりしていてとても良かった。
私は余白が好きだけど、古いもので惹かれるのはびっしりしていているものが多い。エミール・ガレのガラス細工、ミュシャのポスターやウィリアム・モリスのパターンみたいに。
結局、川上未映子のムック本を購入して読んだ(そういえば、川上さんの文章もびっしり系だよね)。
ちょっとドキドキしたのが、川上さんと多和田葉子さんの対談で、
多和田さんがドイツ語翻訳をしているとき、日本語の『思わず』という言葉の翻訳がすごく難しい、と語っているところ。
……ということらしい。
どうしてドキドキしたのかと言うと、その前日に江國香織のエッセイを読んでいて、同じような文章を見たから。
詠嘆を込めた過去を表す助動詞であるところの「けり」を、たとえば「ケーキを食べてしまった」ことについて英語ならどう表現するのか、と教師に聞くと、
と、こう終わる。
なるほど〜〜難しいよね!とうんうん頷いていたところに、ドイツ語の『思わず』のエピソードが刺さって、言語って面白い!とドキドキしていたのだ。
そして何より、
この本をいつか買おう、と思っていたから。
タイムリーでは?買っちゃおうかな。
……語彙力の低下で人間は病みやすくなる、という。
嫌なことをどうして嫌だったか言葉にできない、改善策を提示できない、言葉にできなくて蓄積される違和感が、精神面に負担をかけるようだ。
感情に名前をつけることを感情のラベリングと言って、ラベリングして分析する、それだけでも人間はずいぶんとストレスが解消されるらしい。
この本は「日本語では表せない感情表現に関する世界の言葉」も扱っているので、感情のラベリングにも役立つし、何より面白そうで、おすすめです。
ドイツ語圏の人も「思わず」の表現を覚えたらちょっとマシになる人も多いんじゃないかしら。「思わず」、便利よね。
あ、思いついた。今度あの古本屋さんにヘッセを買いに行こう。たしか『車輪の下』があったはず。本当はシッダールタが読みたいから、探してみよう。ワクワク。
とりあえず、手元にある『デミアン』を再読しましょう。ドイツ語って本当に「思わず」がないの?
降水確率100%の本日、読書日和です。
(デザインの話は今日はなしです。)