女の朝パート423
自分達だけの宝石箱を眺めるかのように、
一人のふち子を除いた二人のふち子は、
Rが刻印されたマグカップの縁に手をつき、
その中の珈琲を見下ろしていた。
水面はキラキラ輝いていたが、
その中の世界と言うのは、
幾重にも雁字搦めになった憂き世のしがらみや、
懸命に生きる人達の感情や人間模様の波乱で壮絶な世界を表している気がした。
この高さにいると、
あの時抱えていた憂いや苦しみ、怒りや悲しみなどが、魔法かかった時のように忘れる事が出来る。
さぁ、あなたも早くこちらへいらっしゃい。
始まった。いつもの幻聴。とりあえず記録。
自信がない?
大丈夫よ。
貴女には聞く耳と笑顔、
そして喋れる気力と体力がまだあるじゃない。
それに貴女は、
ここに来る事で、
本当の自分と出逢える事が最初から解っていたのでしょう。
だからこのマグカップを選んだ訳でしょう。
理屈ではないの。運命なの。奇跡なの。
大中小様々な歯車が噛み合わさり、
一斉に動き始める時のように、
貴女は後もう少ししたら本当の自分と出逢えるはずよ。
後は、これまで築いてきた貴女の天性と実力とかで、その運命を切り開けば良いじゃない。
道は勝手に開けていくわ。
とりあえず全てのタイミングが揃ったから、
今貴女はここにいる。
それに、このマグカップは、
今まで着せされていた偽物の服とか、
取り繕っていた仮面を脱ぎ捨てるには、
最適なマグカップなのよ。
だってRよ。
Rには色々な意味があるのであ~るよ。
REBORN(生まれ変わる)、RELAX(寛ぐ)、REFRESH(回復)、ReSet(切り替える)
ReBIRTH(再生)、Reduce(抑制)、
Regain(変化)、RING(縁・宴)、
それに勘づいた貴女は、
自分を殺し、断ち切る為にきっとここへ来たはずよ。
それが偶々だったにしても、
まだ何も遂げていないのに、
自信がないなんて当たり前じゃない。
悲しいかな。
私は、手を差し出してくれないと、
そこへは行かれない女かもなの、、
でもそうなったら、とことん寄り添う女よと、
もう少しで顔を出そうとしたふち子が一人呟いた気がした。
完。