雲が好きだ
僕は子供の頃から雲を見るのが好きだった。小学校の帰り道、雲を眺めては、似ている動物を当てはめて遊んでいた。この歳になっても、相変わらず青空に浮かぶ雲を眺めるのがたまらなく好きだ。ふと見上げた空に美しい雲が浮かんでいるのを見つけると、実際に行ったこともないのに、「この雲は地中海の小さな漁村の空に浮かんでいたな〜」とか、「アメリカの草原のはるか遠くの地平線上にもあった」、「北欧の冷たい海の上に浮かんでいたな〜」などと思ってしまう。すると、今までのモヤモヤした重苦しい空気は一挙に軽くなり、突然、開放感が溢れて気分が明るくなる。
すでに雲を眺める場所もいくつか決めてある。よく晴れていて、空気が澄んだ日には、そのどれかの場所へ行く。それは、鹿島灘の海岸や広々とした水田や畑だったり、霞ヶ浦の湖岸だったりする。
街の道路を走っていて、その先の空に美しい雲が浮かんでいるのに出会うと、もう、それだけで、今日は何か良いことが起こりそうな予感がする。
先日、雲を見る場所に新しいのが一つ追加された。それは、郊外の高台にある日帰り温泉の露天風呂だ。幸い、ここはいつでも空いていて誰も来ない。熱い風呂に浸かった後、脇の椅子に裸で座る。目の前の竹林の先に家々と山並みが見える。林でヒヨドリが鳴いている。見上げると、北の空にモクモクと積乱雲が湧き上がっていた。火照った身体を涼しい風が抜けていく。いつの間にか、椅子に座って、うたた寝をしている間に、積乱雲はますます大きく成長して頭部が崩れ始めた。今日も雷になるだろう。早く小屋に戻った方が良さそうだ。