見出し画像

松田奈緒子/重版出来!(8)

体感スピードというものがある。
過去の時代と比べ、
現代はずいぶん速まっているのではと思う。
過去の時代といっても、
江戸とか明治ではなく昭和・平成と比べても、
年々その加速度はアップしている。
急き立てられるように時が流れる。

一方で世界は右肩上がりに良くなる。
という神話は薄れているかもしれない。
むしろ世の中はそれほど変わらない。
悪くなることもあるといった諦観が漂う。
大きな成功や進化ではなく、
ささやかな喜びが大切にされる。
それは良いことだと思う反面、
挑む前に諦めていることもあると反省する。

過去に対する絶対的な否定。
そこを起点とし力に変えて、
創作の源とする人物が登場する。
強烈な負を身体に溜め込み、
それを日々のささやかな喜びで解消することなく、
創作の一点に閉じ込める。
時の流れの速さにも自分を失わず、
世界に対して期待もしない代わりに
過去を絶対的な悪とすることで
今を絶対的な正とする。

そんな彼に飛躍の時がやって来る。
嫌悪し唾棄した谷底を抜け出し、
すべてを犠牲にし賭けてきた場所。
何もかも捨てて手を伸ばし続けた地平。
他人事ではなく、魂を揺さぶられる。

いいなと思ったら応援しよう!